ピアノの森(24) (モーニング KC)
一色まこと
講談社

モーニング40号で一色まことさんの『ピアノの森』第232話「最終審査結果発表(2)」を読みました!


いよいよショパンコンクールも大詰めの、審査結果発表。前回はカイがマズルカ賞、コンチェルト賞、ソナタ賞と3つの賞を獲得したわけですけれども、問題は最終的な順位ですね。7位以下の入賞が叶わなかったのがアン兄弟、ドミトリエフ、ハント、向井、そしてユシェンコの6人、というところまでが前回発表され、少なくともカイは6位以内、ということが明らかになったわけです。


さて今回。入賞できなかった面々はそれぞれショックを受けていますが、カイは残った。もちろん、部門別の4賞のうち3賞を取ったわけですから普通はかなり有力だと考えられるわけですが、まだまだ分からない、とみんな緊張しています。会場の端で入賞した!と喜ぶボイチェフ。彼はカイがピアノを弾いていた酒場・ナストゥルイの常連だったのですが、会場に入れず周りをうろうろしていたのですね。でも結果発表を見るにはチケットはいらなかったようで、そこに店主のヤンを始め、常連たちがやってきて、ボイチェフと喜びを分かち合っていたのです。


記者のハウスネルは1次で落選したピアニストのアダムスキに「あの審査員の狸面を見てみろよ。どいつもこいつも悪そうな面構えしてるだろ。このあとやつらなりの帳尻合わせがあるかもしれないぜ」と言います。…まあこの辺りになると、やや違う意味のフラグのような気もして来るのですが。


発表された6位はソフィ・オルメッソン(フランス)。これは予想どおりかな、と思います。まさかこのままイチノセが、と聞く声にポーランドの辛口評論家は「それはないな。最大のスポンサー国は中国だし、ポーランドは自国の優勝者をどれだけ切望しているか」と言います。このあたりも、ですね。


5位がオーブリー・タイス(ドイツ)。これはグラナドスとどちらが上かと思ってましたが、まあそうかなと。そして4位がまさかの、


該当者なし。


なるほど、ここでそういうのをかませてきたか、と思いました。そうすると3位が二人ということになります。そしてその3位が?


全く今回はコンクールの発表番組みたいですね。(笑)


落ちたアン兄弟を慰めていた、アレグラ・グラナドス(アルゼンチン)と、レフ・シマノフスキ(ポーランド)でした。


まあレフ、パン、カイが3位までを占めるだろうとは思っていたのですが、そうなると上位3人が男性で4~6位が女性になり、ちょっとバランスが悪いかなとも思ったのですよね。それでグラナドスとシマノフスキを同順位、ということにしたのだろうな、という気はしました。レフはやはりコンチェルトで一時乱れていたところがありますので、そんなものかなとは思ってました。


しかしこうなって来るともう、カイは…


大変なことになってきました。


「壮介」と汗をかくセロー、「はい」と頬を紅潮させる阿字野。カイ、という誉子の声にうなずき、カイくん、という雨宮の声にうなずくカイ。


2位の発表の前に、ボイチェフたちとワルシャワに来てから親しくなった日本人の光生が、カイに少しでも近づこうと必死で会場の中をかき分けています。そして2位は。


「ウェイ・パン」


その声にパンは軽くうなずき、晴れ晴れとした顔をして周囲に手を振るのでした。


「負けたよ」


という感じなのでしょうね。今まで堅く暗い顔ばかり見せていたパンの、印象に残るさわやかな笑顔でした。


セローが泣きそうになって振り向きます。修平も、誉子も泣いています。感慨無量の阿字野、目に涙を浮かべなんとお見えない表情をしているカイ。


もう悪そうな面構えには見えない審査員たち。手前の観客たちの振り向いての笑顔。そして「ウィナー」の声の中、泣き崩れそうになるカイ!


「カイ・イチノセ」


そのヤシンスキ委員長の声とともに、抱き合うセローと阿字野。近づいて行くボイチェフたちと光生。顔面崩壊で泣く佐賀先生。両手で目を押さえるカイ、手放しで万歳をする修平。


その歓喜の嵐の中で、ボイチェフはポーランドの祝歌、「スト・ラット」を歌い始め、その歌の輪が周りに広がって行きます。(ポーランド語なので読めません・笑)


そして阿字野は「こんなことが本当に起きるなんて。カイ。ああ、私は誰に感謝をすればいいのだろう」と思います。そして阿字野は出会った日からのことをずっと思い出し、ピアノの森の風景やカイと過ごした日々を思い出します。そして一度は諦めた自分の命を思い返し、「今、生きてこの場にいられることに」感謝するのでした。


そして誰よりも、ボイチェフに肩車され、両手で顔を押さえて泣き崩れ、周りの人たちにもみくちゃにされている、カイその人に、阿字野は感謝するのでした。


いやあ、もう言葉が見つかりません。


もう、これだけのための回なのですけれども、何度も読み返してしまいます。そしてこの結果に導くために、どれだけ作者さん自身も苦労したか、ということが偲ばれます。


何しろ、現実のショパンコンクールで、日本人が優勝した例は未だかつてないわけですからね。

凄いことだなと思います。


…呆然としつつも、まだまだ物語は終わるわけではないですから、その続きがどうなるかなのですが、次回掲載は9月下旬だそうです。また単行本25巻は10月23日に発売になるそうです。24巻収録以降の内容で今回を含めて9回分あるので、おそらくは収録されるのはここまでということになるかと思います。


カイがポーランドにやってきたのは2006年発行の第12巻でしたから、一月足らずのショパコンに足かけ9年かかったわけですね。(笑)それだけすごく内容の濃いストーリーになってました。


この先の連載、そうずっと続くわけではないと思いますが、最後まで期待して読んで行きたいと思うのでした。