かくかくしかじか 4 (愛蔵版コミックス)
東村アキコ
集英社


東村アキコさんの『かくかくしかじか』第4巻を読みました!

東村アキコさんの自伝マンガ、『かくかくしかじか』。この作品は、東村さん自身の美大受験時代、金沢での美大時代、卒業して帰郷し、マンガを描いていた時代。それぞれのことが3巻までで描かれていて、その中での絵の教室の日高先生との関わり、先生の熱さ、自分のダメさというものを感じ続けていた東村さんの、「自分のこと」が語られてきているわけですが、3巻の後半ではついにテレフォンアポインターの仕事と日高先生の教室でのバイトを続けながら、『ぶ~け』で雑誌デビューを果たしたわけです。

この第4巻では、まずデビュー第2作に取り組む悪戦苦闘から始まります。岩館真理子さんの影響が強すぎて編集者にどんどん没を出され、「僕は普通に主人公が現在進行形で頑張ったり成長したりする話が読みたいんだけど」と言われたりしながら、自分としては「単純バカみたいなストーリー」だと思ったネームが返ってよかったと言われ、「読みやすさ」が大事なんだ、と言うまあある意味当たり前のことに気がついたりするという、マンガ家として一歩一歩成長していくところが、上手にイヤミなく描かれていて、やはり東村さんはお上手だなあとうならされます。

一方日高先生は教室を東村さんが協力してくれることになってから、生徒の指導に対する真剣さは全然変わらなくても、より自分のやりたいことをやるようになって、石畳の道にすみれを植えてモネの庭のようにする、なんてことを始めたりしたのでした。その楽しそうな先生を見て、自分がいなくなったら先生は困るだろうなと思ったり、でも自分の夢に向かって一直線に進みたいという気持ちもあって、気持ちが乱れる、という展開になってきたわけです。

東村さんはマンガの方がどんどん上手く行き、貯金通帳の金額も増えていきます。まあ現在の東村さんを知っている読者からすれば、そうだろうなあと思うわけですが、ちゃっかり大学時代の恋人を宮崎に呼んでいろいろなところでデートしながら、でも結局は彼氏も日高先生の教室でカツオの刺身を食べさせてもらったのが一番おいしかった、と言ったりしていることが描かれていて、なんだかしんみりしてしまいします。

3巻までは、まじめな受験生がダメな大学生になり、半ばモラトリアム的に就職しながらマンガと美術教室を続けているという感じのノリだったのが、4巻は確実にマンガ家としてのステップを一歩一歩上っていく、「マンガ道」的な展開になってきていて、それが面白くもあり、また日高先生の世界とのギャップが広がっていく感じが強くなっていくのですね。それでもモラトリアム的な間はその二つの世界も両立できたわけですが、自分の夢がどんどん実現して、ついに連載作家になると、その両立も出来なくなるわけです。

そしてついに宮崎を脱出し、大阪に移住してマンガ家仲間たちとハードながらも楽しい、充実した、初めてマンガの世界にどっぷり浸かった生活を始め、日高先生との「半年」の約束も忘れかけていた頃、先生からの思いがけない電話がかかります。

これは来るべきものが来た、という感じなのですが、それがどういう電話だったのかは、単行本で読んでいただけば、と思います。

これを読んで、ああ、そうだったのか、と思い、そして、今までのストーリー全体が、ああ、そういうことだったのか、とまた思ってしまうのですよね。ですから、この4巻はかなり前に買ったし、すごく面白かったのだけど、なかなか感想を書けなかった。それで、ちょっと中途半端な感じですが、今日思い切って書いてみたわけです。

第5巻の展開は、きっと辛いものになるだろう。そんな気がしてしまうのですが、でも読まずにはいられないなあと思います。東村さんはフィクションの世界でも天才的だし、生産量のハンパなさでも現在のこのジャンルの作家の紛れもない第一人者の一人だと思うのですけれども、こうしたシリアスな心情と現実を描く作品もまた、すごいなあと思うのです。

東村さんの作品で現在単行本を買い続けているのは「海月姫」とこの「かくかくしかじか」なのですが、まあこれは彼女の世界のごく一部に過ぎないんですよね。(笑)でもそのなかで、これだけの物が描けるのは本当にすごいなと思います。第5巻も楽しみに待ちたいと思います。