Dモーニング35号で田島列島さんの『子供はわかってあげない』第20話「Children grow up by understanding」を読みました!ついに最終回を迎えました!

先週の第19話でついに門司くんにコクハクした朔田さん。門司くんも、朔田さんのことが好きだ、と応えます。二人とも、心臓が爆発しそうだ、と初めて出会った学校の屋上で、そんな会話を交わしたのでした。

商店街に二人でやってきた門司くんと朔田さん。朔田さんは福引き会場を覗いています。そういえばこの懸賞の当選の字は門司くんのお兄さんで探偵の明ちゃんが書いたんですよね。門司くんはTシャツにジーンズの地味な男子高校生、朔田さんは意識したのかちょっと可愛いっぽいフリルのついたのを着てますが、何となく落ち着きが悪い。(笑)その下にショートパンツをはいてます。可愛くしようとしているけど元気な子、みたいな。

で、門司くんのTシャツの胸に書かれている文字がかっこいい。「TO THE HAPPY FEW」!これはスタンダールが『赤と黒』の末尾に書いた文字だそうで、つまり「この作品を読める幸せな少数の読者に」という意味なのですね。この文字をラストに持って来ることで、田島列島さんのこの作品に対する自負と、私たち「少数の」読者に対する感謝の気持ちがすごく感じられます。こちらこそありがとうございました、という感じなのですが。

ついでにサブタイについて考えてみると、「子供は分かってもらうことによって成長する」でしょうか。子供はわかってあげない、子供が分かるのではなく、子供が分かってもらうことによって成長するのだと。なんかそういう感じです。

明ちゃんの住んでいる善さんのお店、張本古書店にやってきた二人。明ちゃんが善さんにお土産に渡した江虫浜のペナントを、善さんと門司くんが押し付け合ってます。それを見た朔田さんは「それ私がもらってもいいですか?」と申し出て、善さんは「拾う神キター!」と喜びます。こんなん欲しいの?と言う門司くんに、「私には思い出があるもんこの場所」と答える朔田さん。「そうか、お父さんとの思い出か」と納得する門司くんでしたが、朔田さんは「うん」と答えながら「もじくんの思い出の方がデカイんだが」と内心思います。可愛いですね。

まあ確かに生き別れていたお父さんに再会したという思い出もデカいのですが、朔田さんを心配して飛んできたもじくんを海から上がったときに突然発見していかりや長介に「ダメだこりゃ」と言われ、荒れ馬ジョニーに翻弄され続けたわけですから当然なんですが、その辺り何となくボーっとしているもじくんは気がつかないところがまた味わい深いです。(何を書いてるのか読んできてない人には分からない感じですみません)

で、二階の明ちゃんの部屋で明ちゃんが約束してた寿司を二人におごる場面。明ちゃんはいきなり「つきあってるだあ!?」と大口を開け、「へーそうよかったじゃんすか」と耳をほじっています。照れている二人の顔が初めて見る感じで、すごい可笑しいです。

「昭ちゃん言っとくけどねえ高校生の家からふしだらな恋愛してるとチンコもげるわよ」と、自分が性転換手術してお兄さんがお姉さんになった明ちゃんが、そんなこと言うのも可笑しいのですが、まあ何となく兄貴らしい心配をしているのでしょうね。朔田さんがトロを二個食べてとローンとした顔をすると、門司くんは「なんて幸せそうな顔を…くそっかわいいなちきしょう」と口走り、明ちゃんは「ダメだコイツ脳に虫がわいてやがる」と言いながら黙々と箸を動かし、朔田さんは「……」と思いながら「意見には個人差があります」というカードを持っています。まさに「個人的な感想です」、です。笑い。

そして明ちゃんは、門司くんにあげた屋上のカギを無理矢理奪い取ります。二人が出会った屋上、二人が告白し合って恋人になった屋上のカギを、明ちゃんが奪い取ったのです。明ちゃんは、「昭ちゃんに彼女が出来るとは思ってなかったからあげたんだけど」というのも可笑しいです。

明ちゃんはこのカギをカップルに1回500円で貸して「手術費用」をためてたんですね。それを教師にバレて尾行されて、赤い羽根共同募金に突っ込んで、そしたら疑われなくなった、と。「お金の流れを止めないためにはこのように慈善事業に投資することも時として必要です」という明ちゃん。それを聞いて「悪い政治家みたい」と思う二人でしたが、まあこのストーリー、影の主役は明ちゃんですよね。狂言回しとしてはすごく面白いキャラクターだったと思います。

で、なぜか明ちゃんは「カギの代わり」と言って福引き券を3枚くれます。で、門司くんは「早速消化してくるわ」と福引きを引きにいきます。残された朔田さんと明ちゃん。朔田さんは明ちゃんに話しかけます。「お金、本当にいいんですか?」と。

いーのよ、負けてあげるって言ったじゃない、という明ちゃんに、でもタダってわけには、と律儀なところを見せる朔田さん。すると明ちゃんがすごくいい笑顔をして言います。

「美波ちゃんが大人になった時、私と同じように自分より若い人にそのお金の分何とかしてあげて」と。

押し黙る朔田さん。本当に大人の人を見る目で明ちゃんを見つめています。「そういう借りの返し方もあるの。覚えておいてね。」という明ちゃんに、朔田さんは真剣な顔をして「わかりました」とうなずきます。

う、まずい。いい話になってる、と感動しかけた時、明ちゃんは朔田さんに「ついでにこれも上げる」とカギを渡します。「在校生が持ってた方が面白いからね。昭ちゃんに渡しちゃダメよ?」と念を押す明ちゃん。何だやっぱりおもしろがってるだけじゃん、という感じで混ぜっ返すところが可笑しいですね。屋上に上る主導権を朔田さんに預けた、と。なんか味わい深いです。(笑)

さて本題?明ちゃんは朔田さんに尋ねます。「本当に昭ちゃんでいいの?美波ちゃんだったらもっといい男がさあ」と。朔田さんは、「もじくんはいい男ですよ…私にとっては…」と答えます。「意見には個人差があります」の大安売りです。明ちゃんは「美波ちゃんの脳にも虫がわいてるわね」と身も蓋もない返答をするのが容赦ない感じなのですが(笑)、そこに門司くんが「大変だー!」と叫んでバーンと引き戸を開けます。吉本新喜劇か何かかと思いました。(笑)

「TV当たった!」という門司くん。門司くんの家にも明ちゃんのところにもあるし、朔田さんのところも買ったばかりでどうしよう、というところなのですが、朔田さんは「あ」と思いつきます。朔田さんは「TVもらってもいんだな?」と立ち上がると指パッチンして(吉本新喜劇か!)、「いーコト思いついたっ」と門司くんを引っ張ってバタバタと店を出て行ったのでした。

まあ私も同じことを思いついたのですが。(読者なら誰でも思いつくって)ということはまあ、本当にちゃんとちょっとしたことが伏線になってるんだなとこの辺の小さな伏線を解決していくのも味がありますね。

店に降りてきた明ちゃんは善さんに言います。「善さん、私美波ちゃんに渡したよ。善さんに渡す分の家賃」と。そう、明ちゃんも善さんから「自分より若い人にそのお金の分何とかして」もらっていたのですね。「なので今後家賃家賃と騒がないでほしい」という明ちゃんに善さんは、「これからも家賃は発生します」というのでした。

「俺らは子供を残せるわけじゃないから明ちゃんとのつながりが世界のどっかとつながっていたいんだ」と。やはりこの二人は、そういう関係で、で、やっぱりシビアにそういうことを考えてしまうんですね。この辺り、いい話というよりは深いイ話、みたいになってきてますし、ちょっと「きのう何食べた?」みたいな感じを思い出してしまいました。だからこれからも、誰か若い人を助けてくれ、というわけなのですね。

もちろん、朔田さんが思いついたのは、そう、テレビがなかった江虫浜の本当のお父さんのところに送ってやろう、ということです。宛先を書いて福引き会場のテントを出た朔田さんに、門司くんは兄ちゃんにお金のこと聞いた?とたずね、朔田さんは答えます。「頼まれたっちゃ頼まれた」と。「え、何を」と問い返す門司くん。

そして朔田さんは、「ワクワクするようなこと!」と答えるのでした。

素晴らしいオープンエンド。これで全20回、『子供はわかってあげない』はすべて終了となりました。

個人的な感想ですが、(笑)ラストシーン、商店街の風景の中に下北沢にあった(今でもあるみたいです)カットサロン「髪切虫」の名前が出ていたのがまたやられたと思いました。ずっと昔のことですが、切りにいった覚えがあります。(笑)

最終回はちょっと複雑な話が入ってきた感はあるのですが、ある意味ずっと疾走してきたわけですから、この辺りのところで作者の「思い」みたいなものが入っても、それはそれで味かなとも思います。考えてみると今までの田島さんの作品、ほとんどが読み切りなのですが、は、そういうちょっと複雑なものを持った人たちを独自の視点で描く、みたいなところがけっこう強い作品だったなと思います。この「子供はわかってあげない」はその中ではすごく完成度が高いだけでなく、敢えて難しいところには入り込まない、読みやすい作品に仕上がっていたと思います。最後はちょっとそういう重さを出した方が、田島さんの作品としての一貫性、作家性のようなものは出るよなあとは思います。この辺り、ちょっと好みが別れるかもしれませんね。

ウェルメイドに走るか作家性に賭けるか。田島さんは、どちらでも出来るスーパーな人だなと思います。(この絵柄ではアシスタントさんを使うのも難しいだろうし、生産量的には大変だとは思いますが。)この作品ではある意味、両面を出した感じがします。ウェルメイドだけの作品もちょっと読みたいような気もしますが、でもそのウェルメイドぶりも作家性に支えられているところも強くあるかなとも思うし、なんかどうなのかなと思ってしまいますね。まるで自分が松田奈緒子さんの「重版出来!」の主人公にでもなった気分になるわけですが、もちろん担当編集の方はいろいろ考えて進めておられるのだと思います。

田島列島さんは近々読み切りで登場、単行本は9月22日に上下2冊同時に発売ということで、どちらも楽しみです。まだamazonでも書影が出ていないのが残念ですが、楽しみに待ちたいと思います!