ピアノの森(24) (モーニング KC)
一色まこと
講談社


Dモーニング35号で一色まことさんの『ピアノの森』第230話「ヒーロー」を読みました!

27、30、33号というペースで掲載されてきた『ピアノの森』ですが、今回は35号に登場。1週早まってついに『ショパンコンクール・ファイナル』の結果発表か!と胸を躍らせている人も多いと思います。私もそうです。(笑)扉は、子どもたちに囲まれてサインをしている主人公・一ノ瀬カイの姿。カイはまずどこでも、子どもたちのヒーローになる、子どもたちに尊敬されるピアニストなんですね。

さて、採点結果が出た審査会場。審査員たちは驚いていますが、誰の顔も嫌な雰囲気をしていません。カイの名を書いたクリスティナさんは頬を染めてあ…と思っていますし、副委員長のパヴラスは審査委員長のヤシンスキに「これはもう一度みなで決を採る必要がありますね」といい、ヤシンスキも「そういうことになるね」と言っています。ずっとポーランド人演奏家押しで、でも「本当に一番よかったピアノは」と自分に問いかけてシマノフスキの名を消したウェペルは汗をかいていますが、それでも嫌な顔をしているわけではありません。

さて、発表を待つ会場ロビーはごった返しています。12人のファイナリストたちはそれぞれ発表を待っています。ダニエル・ハント(米)がオレシャ・ユシェンコ(ウクライナ)、オーブリー・タイス(独)に「僕はなんとしてでも入賞しなければならないんだ!」と言っています。ハントは緊張のあまり変な雰囲気になってます。「もうすでにファイナリストなんだから十分プロポーズしていいと思うけど」とユシェンコがいうと、ハントは恋人のサラをみつけます。それが美人で、ユシェンコととタイスは内心(え~~~)と思います。そこに変なおばさんがぬっと現れてタイスにサインを求めます。ユシェンコはまた(え~~)と思います。ハントは緊張のあまり失敗を繰り返してきた、また奏法も独特の変わったピアニストなので、恋人が正統派の美人なのが、まあお約束と言うか意外と言うかという感じで、可笑しいです。

フラッシュを浴びるレフ・シマノフスキ(ポーランド)。両親はレフが演奏後飛び出して姉・エミリアの病院に走ったことを心配していたのですが、いつもレフに厳しかった父親は、「レフは悪くない」とかばいます。レフからエミリアが現れた話を聞くたびに、いつも激昂して否定していたのに、今回に関しては素直に認めたのですね。「きっとエミリアは喜んだだろうね。レフの最高の演奏が聴けて」と。それを聞くレフの顔が本当に嬉しそうです。ようやく理解してもらった、と思っているのですね。

女性たちに囲まれるパンウェイ(中国)。それを見てパンウェイが嫌いな光生(予備審査敗退)と玉梶先生は「ふざけんなよ」と内心思っています。そして言い合いをしているファイナリストの向井と彼女の土井あおい。どうもこの土井さんというのは思いのほか食わせ物というか肉食系で、向井がファイナリストになったから彼氏にしようとしていたのに、調律師になると言いだしたからダサい、とか他の女子連に言っているのです。まあ純粋な向井くんにはあんまり向かない彼女だということが分かって、よかったんでしょうね。この土井さんというのはどうも顔はノーコメントですが、モテるタイプということらしく、雨宮修平を狙うとか「本命」の一ノ瀬カイを狙うとかいろいろ勝手なことを言ってます。この女子連は肉食系女子的な盛り上がりをしています。カイが「本命」というイメージ。みな口には出さないけれども、いろいろな意味でそう意識しているようです。

会場の外で話しているその雨宮修平(2次敗退)と丸山誉子(腱鞘炎により出場辞退)は、中はすごい騒ぎだ、と言っています。そこにさっきのサイン女が現れてサインを求めます。実は日本人のようで、「ずっと雨宮洋一郎(修平の父)のファンだったが、今回修平のファンになった」というのです。そしてその女性は誉子を指して「修平さんの彼女ですか」と尋ねます。そんなことを思ったこともなかった修平は思わず真っ赤になってしまい、一生懸命いいわけをしますが、誉子は「間違えられるなんて光栄だもの」と気にしません。そして「雨宮くん、あたしたちまたここに来ようね。5年後。」と言います。私はチャレンジ、雨宮くんはリベンジ、と。雨宮はそんな先のことをまだ考えてもいなかったので、返答につまって固まってしまったのでした。

と、修平はそこに子どもに囲まれてカイがいるのに気がつきます。それを見守るカイの先生の阿字野とジャン・ジャック・セロー。カイはカミルという子どもにサインを頼まれ、握手すると、カミルがふらっとしてしまい、ハグされると泣き出してしまいます。カミルとその母親はしきりにポーランド語で話しています。セローはそれを訳し、テレビで見てすごいファンになったのにどうしてもチケットがはいらなかったのだけど、ここで会えるなんて夢のようだ、ピアノが大好きだけど家が貧しいから習わせられないんだ、と伝えます。そしてジャンが何かを言うと、カミルは大喜び。?と思ったカイがジャンに尋ねると、カイがきみに負けないくらい貧乏で、近いうちにきっと生でピアノを弾いてくれるよ、と言ったんだと答え、カイは笑って「あはは了解!」というのでした。カイはほんと気楽&気安くて、子どもたちのヒーローにぴったりだなと思います。

そんなカイを見て「音楽ってすごい、人を幸せにできるもの!やっぱり順位なんてどうでもいい。気にはなるけど」と話し合う誉子と雨宮。その二人を見て、カイは雨宮が話している相手が誉子であることに気がつきます。「ええウソ~!どうしてここに誉子が!」と叫ぶカイに、「来ちゃった~!」と笑う誉子。その声を聞いてプレス陣が、そこにカイがいることに気がつくのです。カイたちが会場に入ってくると、会場中がざわめき、「イチノセだ!イチノセだ!」というささやきが起こります。カイはまさにヒーローへの階段を一歩一歩上っている、まさにそんな場面に思えます。

その気配に気がつき、面を改めるパン・ウェイ。パンは微笑んでいます。そして光生、佐賀先生、ポーランドとアメリカの高名な評論家たち、タイス、ユシェンコ、アン兄弟(韓国)、グラナドス(アルゼンチン)、レフ。修平は思います。「なんかすごい。ぎゅうぎゅうの人ごみがカイ君に道をあけているようだ」と。人びとがカイに道を譲っていく感じを、その一行の中にいる修平は、まざまざと感じるのでした。

プレスがカイのインタビューを取ろうとか、映像だけでも、と言っていると、発表の予定時間に。どうせ遅れる、とみな思っていたら、意に反して審査員たちが大階段を下りてきます。なんと時間どおりに結果発表になったのです。今回はここまでです。

……

……

……というわけで、今回は結果発表はありませんでした。

引っぱりますね。(笑)

ある意味意外な展開だったのですが、まあこのくらいの引きはよくあることでしょうね。というか次回掲載予定が9月4日発売の40号というのが一番やられた、と思いました。夏休みをまたぐとは。(笑)

しかも、読者は1ヶ月待ちなのに、作中の人たちは思ったより早く発表を聞けると言う設定になっている心憎さ。(日本語が間違ってますね・笑)

しかしそれにしても、ヒーローが誕生する前の世の中がざわめく感じというのを、これだけ巧みに描き出した作品は、今までなかったように思います。そういう意味で、今回の描写はいい意味で裏切られた感じがしました。

誉子の言うようにファイナルの結果は気になりますが、それでもそれ以上のものがあるのがピアノというものであり、またマンガというものなんだなと思います。

今回もとてもよかったです。そして、次回がさらに楽しみになりました!