Landreaall 24巻 限定版 (IDコミックススペシャル)
おがきちか
一迅社


『コミックゼロサム』9月号でおがきちかさんの『Landreaall』第135話を読みました!

おがきちかさんの『Landreaall』、クレッサール編に入ったのが、というか両親の行方不明が告げられたのが120話でしたからもう16話目、つまり1年と4ヶ月も立っているわけですね。123話でDX、ディア、イオンの変装した侍女アイシャの3人が旅立ってからでもちょうど1年連載が続いているわけです。

その中で分かってきたことは、この一連の事件はDXの玉階(王位継承権者を推薦するもの)になることを申し出たクエンティンが、自分たちの国=アトルニア王国にある意味復讐するために起こした事件だということで、その背後には前王の起こしたクレッサールとの戦争と、それによって滅ぼされたクエンティンの故郷・ザンドリオ、前王の娘であり今の主要なプレイヤーであるユージェニ王女の母であるアブセントプリンセス・リルアーナ王女といったアトルニアの「底なしの闇」が絡んできている、ということでした。

クエンティンはユージェニを使ってアトルニアに復讐することを図っているのです。それは具体的には女子であるために王位継承権を認められていないユージェニを王位継承権を持つDXと結婚させ、アトルニアの王政を終わらせて真祖信仰を打ち砕く、というもののようです。

真祖と言うのは、これは『One Piece』に出てくる「天竜人」と共通した要素がありますが、要するにアトルニア王国を創設するのに貢献したいくつかの貴族の家系で、ユージェニの祖父に当たる前王も真祖の家系であり、またディア(メイアンディア)のクラウスター家、イオンのルームメート・ソニアのモントーレ家などもそれに当たります。ただアトルニアには円卓という制度があり、12人の玉階が集まってその決定によって王位継承権者の中から新しい王を決めるという決め方もあり、DXもそうですが次に王になることが決定している大老・ファラオン卿のように真祖の家系でない王もあるわけですね。

アトルニアの国政はこのように王政派と反王政派、王政派の中でも特に過激な真祖派というものがあって政界は三つに分裂していて、その微妙なバランスを取りながら「革命」を成し遂げた議会のオズモ議長やDXの父・リゲイン(戦争の功績により王位継承権を得、自ら放棄した)たちがこの20年間の復興を成し遂げてきたわけです。

クエンティンとユージェニに共通するのは、この真祖派や、現在実権を握って復興を進めている勢力に対する恨みなわけですね。クエンティンは領地を追われ、クレッサールで「呪いの器」として自我が崩壊するような扱われ方をして、それに負い目を持つリルアーナ王女に救われて一緒に生活していた。ユージェニは身重な状態で国を脱出した母・リルアーナとともにクレッサールの砂漠の城で育ち、アトルニアのことは母と、母の死後はクエンティンからのみ教えられて育ってきた。持つべきはずだったものを持っていない、人生と将来を奪われたと言う憎しみと悲しみと恨みとが彼らの根底にはあるわけです。

さて、前回はそんなユージェニがDXの部屋に忍び込み、関係を成り立たせることでDXと結婚して王位を狙う、という筋書きが着々と進行しつつあるところで、とにかくそれを阻止しなければとイオンとディアがなんとかDXの部屋に行こうとしている、というところまででした。

外の壁をつたいながら道を探っていると、暗闇の中、ある部屋にクエンティンがいるのを二人はみつけます。クエンティンは服を脱ぐと、そのからだには全身に刺青のような模様が描かれていました。ディアはいいます。「あれは天恵(超能力のようなもの)を変化させる呪いの模様」だと。ということは、今のクエンティンの天恵は洞詠士(フースルー)=あらゆる存在を歌にし祝福する、ではないのかと。

クエンティンは壷から「さまよい女」を出します。これは砂漠でなくなった女の霊で、クエンティンはそれを操ってリゲインとファレル(DXとイオンの両親)をとらえたのでした。イオンとディアは気づきます。クエンティンは「呪いの入れ物」にされただけではなく、自ら呪いを使えるのだということに。

そして、リゲインたちをさらったのはやはりクエンティンだということに。イオンは思わず声をかけようとしますが、ディアはそれを押し倒します。そしていうのでした。「ここでクエンティンを問いつめても私たちには分が悪すぎる、案内人がいなくちゃ砂漠を超えることは出来ない」と。両親のために泣くイオンをディアは慰めます。

一方DXに迫ろうとしていたユージェニですが、DXの動きを封じてさあこれから、というときに突然気持ちが萎えてしまいます。「やっぱり無理」と。(笑)

ここはまさか、こういうオチだと思いませんでした。(笑)

DXのディアへの思慕を、ユージェニといく晩か過ごさせることによってユージェニへの思いに変えさせることが出来る、と言うクエンティンの言葉を思い出し、それを実行しようとしたユージェニだったのですが、やはり勢いでも何ともならない、ユージェニには誰か好きな人がいるようです。(誰だろう?ここまでの展開ではクエンティンかリゲインしか思いつきませんが)で、結局ユージェニは「私がクエンティンの操り人形でないことを証明してやる」とDXの側を離れます。DXに「お前がいなくても国を奪うことは出来る」と。

ディアとイオンに自分の能力がバレたこともそうですが、ユージェニが結局DXに手を出さなかったことによって、クエンティンの計画がひとつひとつだんだん破綻していっている感じがします。なんというかその両方とも全然DXの活躍によるものでないのが可笑しいですね。こういうところがなんかこの作品の魅力なんだなと思います。

ユージェニに、「国は誰かのものになったりしない」というDX。「私が王になれば私のものだ!」と言い放つユージェニ。このセリフはむしろアトルニアを台無しにした前王のセリフを思い出します。

DXの心の中に、王というものをめぐり今までのストーリーの中で語られてきた多くの言葉が現れます。バチカン公主・ウールンの「民のために死ぬことじゃ」という言葉。ウルファネアの領主でDXのルームメイト・リドの兄である竜葵の「すべてを引き受けるのが覚悟」という言葉。アカデミーの友人・ライナスの「だからお前が王になったら面白い」という言葉。DXに愛馬・アプローゼを貸してくれたスレイファン卿の「王を持たない騎士は暗い道を行く迷子のようなものだ」という言葉。それらはすべて、王というものがいかに公的なものか、ということを示唆する言葉たちです。それに対しユージェニがいうのは、「貴族たちは私を畏れ民は私を請う。国が王に膝を折るんだ」というばかり。「それはちがう」と言いかけるDXの脳裏には「王って何?」とオズモに問いかけた時、「民は騎士の忠誠に応える王に自らを見る」という言葉が浮かぶのでした。

このあたりが、この大河マンガの「テーマ」とでもいうべきものがあるんだなあと思います。そしてここに来てあまりに明快な対立軸が現れてきて、物語のどんでん返しも近いのではないかと思わせるのでした。

しかし、反論しようとしたDXに、ユージェニが宝石のようなもの(何らかの力を持ったジェムでしょうか)で何かをします。すると気がついたDXは囚人服のようなものを着せられていて、両手は鎖でしばられて、檻の中に入れられています。目の前にいるのは自ら「黒虹のカリファ」と名乗る奴隷商人。DXは奴隷として売られることになってしまったのでした。

一方、ディアとイオンはDXの部屋にたどりつきますが、そこはすでにもぬけの殻になっていたのでした。

最後の奴隷商人の場面が、現実なのかそれともユージェニがジェムの力で見せた夢なのか、ちょっと良くわからないのがちょっとひっかかった感じです。いずれにしてもユージェニは、自分たちのように「奪われた状態」をDXにも味あわせようとしているわけです。

DXの脳裏に多くの人の言葉が浮かぶ場面、これは最初どうかなと思ったのですが、何度か読み返しているとすごくじんと来てしまうところがありました。また、DXがいかに自らとても多くの「王になるために知るべきこと」を学んできているのか、またいかに復讐と失ったものの奪回という動機だけで王になろうとするユージェニが間違っているのか、ということも良くわかります。

まあ王というものは、現実に置いてはほとんどファンタジーの存在のようなものになってきてはいるのですが、それでも王がいる国(日本の場合は天皇陛下ですが)といない国とでは現実にその国の安定感に大きな違いがありますよね。そんなあたりをもとにどんな話が紡がれていくのか、これからもとても楽しみになるのでした。