モーニング33号で田島列島さんの「子供はわかってあげない」第18話「ジョニーの遺言」を読みました!

水泳部の朔田さんと書道部の門司くんの「ハードボイルド(?)ボーイミーツガールストーリー」、今回は朔田さんのターンです。

朔田さんと門司くんは、隠れアニオタ。二人で「魔法左官少女バッファローKOTEKO」の話題で盛り上がり、突然仲良くなりました。で、その朔田さんですが、実は今のお父さんは本当のお父さんではなく、本当のお父さんらしき人から来た手紙を手がかりに本当のお父さんに会いたい、と思っていたのです。で、門司くんのお兄さんの明ちゃん(女になった)が実は探偵だと言うことが分かり、朔田さんは明ちゃんにお父さん探しを依頼。調べて行くとなんとお父さんは新興宗教の教祖さまで姿をくらましていると言うことが分かりました。

その間にはハードボイルドでアットホームな(これは明ちゃんのキャラが大きい)ロードムービーのようなドラマが(どういうわけかジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を思い出してしまうんですよね)展開し、江虫浜と言う海岸にいたお父さんと、朔田さんは再会することが出来たわけです。

で、いろいろなことがあって何となく家に帰りそびれていた朔田さんだったのですが、そこに明ちゃんから様子を聞いた門司くんが迎えに行ったのでした。ハードボイルドからアットホームを経由してラブコメへ言ったわけです。

そして、迎えに来た門司くんを観た朔田さんの身に起こったことは。海から浮上して海岸にいた門司くんを見た朔田さんのところに、「いかりや長介」とジョニーという名の荒馬が現れ、いかりや長介が「だめだこりゃ」と言うのと同時に、ジョニーに「いいから乗れ、行くぞ」と言われたのでした。突然何が起こったのか。(笑)

何て言うか、こういう表現は凄く好きです。朔田さんの心の中。ここの描写はとてもいいです。もうにやにやしてしまいます。いろいろな引用に満ちていて、すっとぼけています。田島さんの作品のそう言うところがなんだかジャームッシュを思い出させたのかもしれません。

荒馬は砂漠のような、でもがまの油を売るスタンドがあったりする風景の中を駆け抜けて行きます。なんつう心象風景(笑)。「ねえジョニー、マジでどこ行くの?」「お前が文献でしか見たことがないようなフロンティアに行くのさ。俺もよく知らないが、深くて暗い川があるらしい」…あのねえ。(笑)蛇足ですが、これはもちろん出典は野坂昭如さんとか長谷川きよしさんとかが歌っている「黒の舟歌」ですね。

「何でそんなトコ行かないといけないの」と聞く朔田さんにジョニーは「不安か」と尋ねます。でも朔田さんは、「でも私は何があっても大丈夫だっていわれたから」と言います。背景の商店街は「大衆酒場恐竜家族」(笑)に「田島眼科」。「アイクリーニング眼球丸洗いOK!」「眼科」と書いて目のマーク、「目医者」と書いて目のマーク、と言うお店がガード下に並んでいます。これはもちろんつげ義春さんの「ねじ式」ですが、その前のコマには「スナック メメクラブ」までありました!(笑)それにしてもなんて昭和な心象風景をもつ女子高生。(笑)

ジョニーは走り続けます。「休めるわけねえだろ」と言うのです。「俺は川を見られないかもしれないな。そしたらお前一人で行け」と言います。何かの障害をまたぎこして朔田さんは上空に飛び、再びジョニーの上に着地。荒れ地の向こうに「10.0」と言う表示が出ています。だからその体操競技の得点は昭和だって。(笑)「ジョニー頼む。もう少しゆっくり。命がいくつあっても足りない…」と懇願する朔田さん。「俺をコントロールしようとするな」というジョニー。「お前が手に負えるものじゃねえんだ」と。

つまり「ジョニーと言う荒馬」とは、恋!愛!感!情!そのものなんですね……!!!

朔田さんはジョニーに尋ねます。「(ジョニーに対抗できる)対抗措置で一番だなってものは何?」と。ジョニーは「俺に聞くかねえソレ」と呆れながら、教えます。「シンプルだぞ。「好き」と言う言葉だ。」と。

ここから、田島さんの恋愛観というか言葉感というか、「言葉じゃ足りない感」というか、が語られます。抽象的なもの、具体的なもの、ラブコメ的なもの、そう言うものを駆使して、最後には一生懸命考えただろうこと、感じたことをストレートに、けっこう生に近い形でぶつけて来ている感じがします。背景はもう、言葉ではいけない変なものがいます。(笑)

「いいか。お前らの使っている言葉っていうのは鋳型であり代用の具なんだ。言っとくがソコに入りきれる程俺の存在は小さくない。「好き」と言う言葉はただのカードだ。ソレを見せるだけで済むようにお前らの先人たちが編み出した方法だ。お前らはソレを受け継いで未来に残せばいい。簡単でいいな」

ジョニーがジャンプすると朔田さんは振り落とされ、現実の世界に戻った朔田さんがベッドから堕ちています。へへっと顔を赤らめながら笑う朔田さん。トタトタトタと階段を上がる音がして、お母さんが部屋の中に入ってきました。

お母さんは江虫浜で仁子ちゃんにもらった絵がはってあるのを見て、何かを察したのでしょう。「本当はどこに行って来たの」と尋ねます。朔田さんは無言で、門司くんに携帯で撮ってもらったお父さんと写った写真を見せます。「楽しかった?」と尋ねるお母さんに無言でうなずいた朔田さんは「ごめんなさい」と謝ります。

「去年美波にあの人から郵便物が届いた時、何か聞かれるかなって思ったけど何も聞いて来なかったね。ソレって美波は美波なりに考えて家族を守ろうと思ったからじゃないの?」と言うお母さんに、美波は(朔田さんは)目を涙で一杯にします。「また行ってもいいの」と言う美波にお母さんは「OK牧場。お母さんに止める権利はなかろう」と言うのでした。

泣きはらした目で縁側で外を見ている朔田さん。「国民28号」というTシャツを着た弟が(「One Piece」のエースの着ていた「無罪」というTシャツもそうですが、変な字を書いたTシャツって何でこんなに可笑しいんでしょうね)落とし穴を掘ろう、と誘いますが、朔田さんが考えるのは門司くんのことばかり。明ちゃんとの話を思い出して、思い出し笑いをして、体育座りの両膝の間に顔を埋めます。

「もじくんとはなしたいな。なんで今夏休みなんだろう」と思いながら。

……いやあ本当に上手いです。恋愛って、ソレも初めての恋愛と言うのは、本当にこういうものだよなあと思います。なんか書いてて感動して来てしまうので(笑)、ぜひモーニングの本誌で読んでもらいたいと思います。あ、単行本は9月22日に上下2巻同時発売だそうですけどね。