極黒のブリュンヒルデ Blu-ray BOX II/バップ

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アニメ『極黒のブリュンヒルデ』第9回「模造の記憶」を見ました!

ヤングジャンプで読んだことをきっかけに見始めた『極黒のブリュンヒルデ』ですが、もう9回になりました。

主人公の村上良太は、幼なじみ=クロネコによく似た少女、破壊の「魔法」を持つ黒羽寧子に助けられたのをきっかけに「研究所」を脱出して来た「魔法使い」の少女たちを自分の高校の天文部だけが使っている天文台にかくまうようになります。寧子の他に彼女と一緒に行動する、予知の魔法を使うけれども身体が動かない佳奈、コンピュータに侵入し電脳上のあらゆる情報にアクセスが出来る魔法を持つエロいことに興味津々のカズミ、自分と相手の位置を入れ替えてしまう転移の魔法を使う巨乳の小鳥と言った萌え要素と能力をちりばめた少女たちが天文台に住んでいます。

そういう魔法を使う彼女たちですが、魔法を継続して使うには限度があり、また一日一度「鎮死剤」という薬を飲まなければ間もなく体中から血を噴き出して死んでしまうという運命にあります。ですから村上はなんとかしてその鎮死剤を手に入れようと、親戚の科学者・小五郎に頼んだり、寧子の持っていた謎の端末を手がかりに軽井沢の教会を探したりしていたのでした。

しかしその軽井沢の教会で、村上は警察につかまりそうになり、それをきっかけに研究所は新たな追っ手を放ってきました。

毎回いろいろな少女=魔法使いが現れ、様々な能力を見せますが、今回現れた魔法使い=奈波は目を見ることで人の記憶を読み取り、そして消したり書き加えたりすることが出来る力を持っています。そうですね、ちょうど人間の記憶をビデオテープにたとえたらそれを再生したり消去したり上書きしたりすることが出来るビデオレコーダーのような機能、もとい能力です。

しかしそれを発揮するためには、相手の目を見なければならない。ですから、人目を引くためにスカートの裾をまくり上げたり、人目を引くような行動をします。また、サングラスをしている相手にはその力を発揮できないので、何らかの形でサングラスをはずさせたりもします。

「研究所」の九(いちじく)により奈波が投入されたのは、彼らの言う「1107番の魔法使い」を捜索するためでした。奈波は一人の研究員の男を監視役につけられ、あちこちの町に現れます。

最初に現れたのは軽井沢でしょうか。奈波は能力で人々の記憶を探りますが、そこには観光客しかいません。場所を変えようという男に奈波はアイスをねだります。奈波は甘いものが好きなようです。そしてソフトクリームをなめると、「やっぱり、外の世界は素敵ね」とつぶやきます。OPのあと、彼らは移動を始めます。奈波は刑事の記憶にあった村上の似顔絵を描きますが似ていません。男は日誌をつけています。奈波は男に聞きます。「ねえ、私のこと、忘れない?」と。忘れるわけないだろ、という男に奈波は「うそつき」とつぶやきます。

大きな町に行かなければ魔法の意味がない、という奈波に男は同意し、おそらくは松本の町に移動します。「こんなところでスカートをまくり上げたら警察に通報される。お前はかわいいから立ってるだけでみんな振り返る」という男に奈波は照れて赤くなります。これも萌え要素ですね。奈波は「暑い、脱ぐ」と言ってスリップ姿になり、当然通行人はみなじろじろと奈波を見ます。ナンパして来た男の記憶を5歳以降消去すると男は急に5歳児に返ってしまいます。それを見た監視役の男は「このサングラスは絶対とられないようにしないと」と思います。

奈波は監視を続け、村上が家庭教師をしている少女・結花(きっか)の記憶の中に村上の姿を見つけます。「これで仕事は終わったも同然」とつぶやいた奈波は監視役の男に「一日だけ自由行動ってダメ?」と尋ねます。自分の立場が分かってるのか、と言う男。奈波は研究所を出る際にビーコンを取り付けられ、逃げ出したら死ぬように設定されていたのでした。しかし奈波は周りの人たちの記憶を操り、監視役の男を襲わせます。そしてサングラスを外させたところで男の記憶をスキャンし、研究所の人々が野郎としていることを知ります。そして彼の記憶を書き換え、奈波は一日の自由を得るのでした。奈波のことをすっかり忘れてしまった男。奈波はつぶやきます。「ほら、私のことなんか、すぐに忘れてしまう」と。

村上の家の前で帰って来るのを待っていた結花。記憶を操作されている結花は私の友達が村上に会いたいと言っている、と言って村上を公園(あがたの森公園のようです)で待っている奈波のところに連れて行きます。村上の記憶をスキャンし、1107番を見つけた、とつぶやく奈波。小鳥、寧子、カズミ、佳奈の4人が天文台にいる、と。

村上は奈波が魔法使いであるということに気づき、「お前の魔法は人の記憶を見ることか。いや、見るだけでなく書き換えたりすることも出来るんだな」と言います。奈波は「失敗した。こんなに察しのいい奴がいるなんて」と思います。村上は、自分をすぐに殺そうとしない奈波を見て、「お前とは友達になれそうだと思ったんだ」と言います。奈波は「何を馬鹿なことを。私は一日外の世界を楽しんだら研究所に戻ってあなたたちのことを報告し、ご褒美がもらえる」といいます。良太は「一日だけの自由でいいのか。自分たちは薬を手に入れるための手がかりを持っている。ビーコンを外せばお前も自由になれる」と言います。

奈波はそんなに目をそらして自分を信じろと言っても無理、と言い、目を見た良太の記憶を操作し、良太のすべての記憶を奪い、赤ちゃん返りさせてしまいます。これで前半が終わりです。

後半。村上は立ち上がります。彼の記憶は消えていませんでした。当然、村上が無力化したら寧子たちはもうどうにもならないのではないか、と焦って見ていた視聴者は拍子抜けなのですが、そこには何か分けがありそうです。そして4人の入浴シーン。なぜかカズミが小鳥の大きなおっぱいを揉んでいるのですが、まあサービスシーンなのでしょう。そこに良太が入って来て、みなキャーなのですが、それどころじゃない、追っ手が現れた、みんなのことも、みんなが天文台にいることも、と言います。

良太が奈波の似顔絵を描いてカズミに渡すと、カズミはネットを探り、奈波の姿を見つけます。しかし今どこにいるかは分からない、明日にならないと、と言います。そして「決めておきたいことがある。もし奈波を見つけたら、奈波と戦うのか、それとも逃げるのか」と。

翌日、高級そうなホテルでフロントの人の記憶を書き換え、金を払わずにホテルを出る奈波。だんだん罪の意識が出て来たのか、「決めた。今日はもう魔法を使わない」と言います。しかしお金がない。奈波は記憶を書き換えて「城を監視する」という仕事?をしている監視役の男のところに言ってお金をねだります。誰だか分からなくなっている男は金をやるから身体で払え、といい、1000円でおっぱいを見せろ、と言います。おっぱいを見せてお金をもらう奈波。「10円のキャンディが100個買える。この万能感たるや。」と感慨にふける奈波でしたが、しかし小学生がカードを水たまりに落として「弁償しろ」とか言ってるのを聞いてその1000円をあげてしまいます。基本的に奈波は「いいやつ」なんですね。「あなたたち友達でしょ。だったらケンカはダメ」と言います。「結果的に、私がおっぱいを見せたことであの子たちの友情を救ったのね」と満足するところがなんというか、微笑ましいです。いや微笑ましいと言っていいのか。

一方良太、小鳥、寧子は松本市内でカズミから「城のところにいる」という情報を得ます。小鳥は相手の目を見ない自信がない、と言い、サングラスをしたら自分の魔法も使えないので、奈波の魔法もそうなのではないか、と言います。一方奈波は男にもう一度交渉し、また1000円を得ます。中町通でケーキ屋を捜す奈波。この辺りは諏訪湖の場面もそうでしたが、観光案内みたいになってますね。1000円を握りしめた奈波は「私には無尽蔵の資本がある。夢に見たチーズケーキ」と思います。女子高生たちがクレープを食べに行く会話をしているのを聞いて、奈波は「私はクリームをたくさん入れてもらうの。私の真似しないでよね」と一人芝居をします。ここは泣かせます。「友達か。いいな」と奈波はつぶやきます。

チーズケーキを食べる奈波。あまりの美味しさに感動し、「何度も死のうと思っていたけど、生きててよかった。」とつぶやきます。そして「帰りたくないな、研究所。」と思い、良太の「お前とは、友達になれそうだと思ったんだ」という言葉を思い出します。この辺り、自由の味を知ってしまった北朝鮮の若者、みたいな感じがします。

あがたの森公園で一人たたずみ、「私は研究所の命令でたくさんの人の記憶を消して来た。そして私を知っているのは研究所の一部の人だけ。私は一人だ…」とつぶやきます。そこに良太たちが現れます。「どうして記憶を失っていないの」と尋ねる奈波に良太は、「俺は一度見たものを忘れない。だからお前の魔法が聞かなかったみたいだ」と言います。奈波は「ライトワンスか。長生きできないわね」と言います。ライトワンスとはCD-Rのように一度記憶させたらもう上書きできない記憶媒体のこと。良太がそうであることを奈波は指摘します。お前を助けたい、という良太に、私を助ける理由はない、という奈波。寧子は、「目の前で苦しんでいる人を助けるのに、理由はいらない」と言います。寧子はサングラスを外し、「私たち魔法使いはこの世界に住む場所がない。だから力を合わせなくちゃ行けない。奈波ちゃんが信じてくれたら、私たちはきっと仲良くなれる。」と説得します。

それでも信じられない、という奈波は寧子の記憶を操ります。寧子は良太たちの方を向いて、「奈波ちゃんは私が守る!」と言うと攻撃を加えて来たのでした。「私の友達」という寧子の言葉に「私は友達なんてかき込んでないのに」と思います。斬撃でサングラスを吹っ飛ばされた良太の記憶を見る奈波。戦うのか、逃げるのかと話したとき、寧子が「私は助けたい」といい、良太も同じ意見だ、と言っているのが見えて、奈波は寧子の記憶を戻します。

「どうして記憶を戻してくれたんだ」と問う良太に、「あなたたちの記憶の中に、私がいたから。研究所になんて戻りたくない。あなたたちの記憶から、私を消したくない。どうすればいいんだろう」と下を向く奈波に、寧子は抱きつき、「みんなで助ければきっとなんとかなる」と言います。一方監視役の男は車に戻って日誌に気がつき、それを読んで自分が記憶を書き換えられていたことに気がついたのでした。

今回の放送は、今までの回で、一番印象に残る回でした。それは奈波というキャラクターが、最も自分の欲望に忠実なキャラクターだったからでしょう。欲望というには大げさな、ささやかな少女の希望のようなものですが。甘いものを食べたい、自由が欲しい、一人で居たくない、そんな当たり前の欲望がかなえられない立場であることを、どんどん自覚して行く。

しかし魔法使いたちは、実はみなそうなのですね。性的なものに憧れるカズミは一番分かりやすいですが、「思い出が欲しい、思い出を作りたい」と思っている小鳥の願いもそうですし、美味しいものが好きでおしゃれが好きなのに動くことも自力でものを食べることも出来ない佳奈。そして、仲間を守りたい、と強く思っているのに記憶が失われて行く寧子。魔法使いたちはみな、少女たちの欲望、願望、希望、願いの体現したものであるのですね。

私は、彼女たちは視聴者の「少年」の「欲望の対象」として描かれている、という面ばかり見ていたのですが、彼女たちは欲望される存在であるという以前に、欲望する存在である、ということの方が重要だったのだなと思います。「研究所」に閉じ込められ、魔法使いに改造され、自由を奪われ、「望むこと」を禁じられている。物質文化の華やかな時代に置いて、そういう存在はそれこそ北朝鮮の人たちくらいしか具体的なイメージがわかないかもしれません。実際には日本でも社会の底辺にいて欲望することすら出来ない人たちはいるにしても、このアニメを見ている人たちの日常レベルでは、あまり意識されていないだろうと思います。しかし、本当の意味では満たされていない。そういうこともまた事実だろうと思います。

その欲望、願いの切なさのようなものが、この作品全体のテーマの一つ、作者が「描きたいもの」の一つなのだな、とこの回を見て初めて気がつきました。

そういう意味では、実はこの作品は大きなテーマを持っているのだと思います。望むこと、自由の意味、というのは社会のあり方に対する問いかけであるわけですから。

この作品のオープニングテーマは歌詞のない曲ですが、エンディングテーマは「いちばん星」という題で、夢を見たい、とかないものねだり、とか一番星にお願いした、とかそういうことが歌い込まれているのは、そういうことだったんだな、ということにも初めて気がついたのでした。