「イヴの時間 劇場版」 [DVD]/福山潤,野島健児,田中理恵
¥3,990
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amazonインスタントビデオで、吉浦康裕監督作品『イヴの時間』をレンタル視聴しました!


もともとこれは、アマゾンで『シドニアの騎士』のBDを予約したら、インスタントビデオのポイントが200円分ついたので、何かみられるものがないかと探し、アニメで人気上位になっていたこの作品を見ることにしたもので、内容などに関しては全く知りませんでした。


見てから調べてみるとこの作品はもともとウェブで15分アニメとして公開されたものを6本合わせて編集して劇場用1本にしたものだということです。また劇中での謎解きは途中になっているので、まだ続編を出す予定なのだろうと思います。


またamazonでは発行年が2003年になっていますが、実際にはウェブ版の公開が2008年で、劇場公開、DVD発売されたのが2010年ということのようです。


話のストーリーは、人間型アンドロイドが普通に使われるようになった近未来の「多分、日本」の話で、中心になる登場人物は主人公の高校生・向坂リクオと向坂家で使われている人間型アンドロイドのサミイです。


中心になる話は、「ロボット三原則」と、ロボットを嫌い排斥しようとする「倫理委員会」の動きをめぐっての話になります。彼らの活動でアンドロイドを人間扱いしたり、心を通わせたりしようとする人間が「アンドロイド依存症」=「ドリ系」として嘲笑され、排撃されるという社会状況になっています。


リクオは「普通に」アンドロイドをものとして扱っている少年ですが、ある日サミイの行動記録を見て、「Are you enjoing the time of Eve?」という不思議な文字を見つけ、サミイが勝手に行動している時間があることを知り、不審に思って友人の真崎と調べてみると、雑居ビルの地下室に『イヴの時間』という不思議な喫茶店があることを知りました。その店の入り口には「当店では人間とアンドロイドを区別しません」という断り書きが書いてあり、二人は余計に不審の念を抱きますが、しぶしぶマスターの女性、ナギのいうことに従います。


店内には常連が何人かいますが、元気で活発なアキコ、カップルで常に不倫じみた雰囲気を醸し出しているコージとリナ、おじいさんと孫という雰囲気のシメイとチエ、一人で本を読んでいるセトロという男、などがいます。


物語の展開の中でそれぞれのストーリーが語られ、このうちの何人かは人間で何人かはアンドロイド、よくわからない人もいます。それらについては本編を見ていただければと思います。


この店に通ううちにマスターのナギをはじめ常連と親しくなっていく過程で、向坂家のハウスロイド(家庭用アンドロイド)のサミイが、リクオのことをよく考えていて、どうしたら喜ばれるのかといろいろ苦心していることをリクオは知っていきます。


リクオは中学生の時までピアノを弾いていたのですが、その時のコンクールでオプションで参加したアンドロイドの弾いたピアノに感動し衝撃を受け、ピアノを弾く気を失っていたのです。しかしサミイがリクオを喜ばせようとピアノを練習していたことを知ったリクオは、『イヴの時間』でサミイを含めたみんなの前でピアノの腕を披露して見せたのでした。


一方、最初は興味本位でリクオと一緒に『イヴの時間』に通っていた真崎ですが、だんだん足が遠のきます。実は真崎は古いタイプの(外貌が人間的でない)アンドロイド・テックスに子どものころから育てられていたのですが、あまりに人間らしい心遣いをするテックスに真崎の父が不快の念を抱き、喋れなくしたことにショックを受けて、アンドロイドに心など通じない、と思うようになっていました。


そしてこの真崎の父が倫理委員会の主要メンバーだったのです。倫理委員会は「ロボット法」に違反する店の調査を始めていて、『イヴの時間』も目を付けられます。ある日急にいなくなったテックスは『イヴの時間』で騒ぎを起こし、リクオに呼ばれた真崎が駆けつけてみると、アンドロイドの男がイヴの時間に調査に来たことが分かりました。その男を追い出すために、テックスは男がロボット法違反であることを主張し始めます。テックスが喋れることに心を動かした真崎はテックスの気持ちを聞き出そうとし、テックスも本当は話したかったことを伝えるのでした。


劇場版では、この部分がクライマックスだと言っていいでしょう。語られているけれども実態のわからない「トキサカ事件」、倫理委員会とは別に動いている組織もあるようですし、セトロはこの組織の女性主催者と関係があるようです。またナギのスポンサーとも思える男も場面の最後に出てきて、全体の感じとしては『続く』という感じで終わっています。


『シドニアの騎士』の「奇居子(ガウナ)」という存在も、本体とエナ(胎盤)というものから成る、人間とは一体何なのかということを問いかける存在なのですが、この『イヴの時間』のアンドロイドもまた、「心を通わせることができるのが人間だけでないのならば、人間とは一体何なのだろう」と考えさせられるところがあります。二次元やフィギュアを愛好する気持ちの中から出てきた発想なのかもしれないのですが、その発想を超えて人間性の本質に問いかけるところがこのストーリーの彼方に見えてくる感じがします。


こういう感じのストーリーは、以前は人種差別や民族差別に対するアイロニーとして語られることが多かった気がしますが、これらの作品はもっと本質的な、逆に言えば社会的でないある意味遊戯的な問いかけをしているともいえ、国際社会の深刻な問題への関心に疎い日本社会のオタク・サブカル文化ならではのテーマであるともいえます。


押井守監督の『スカイクロラ』に出てくる「キルドレ」という存在が、いつまでも子どもの姿で永遠に生きるものとして出てきて、彼らは戦争請負会社に雇われて模擬戦争に動員され、各国の勢力争いに利用されているという設定なのですが、世界では少年兵(学校にも行かされず武装勢力に兵力として使い捨てられているという深刻な実態がある)の問題が深刻なのにこういう存在で映画を撮るということにどういう意義があるのかと質問されたりされたようで、やはり日本の関心は世界からずれているなあと思ったことがありますが、しかしながらやはりそれはそれで面白さや人間性への問いかけがあることもまた確かであり、ある意味二本ならではのアドバンテージにもなりうるだろうと思うのです。


最後は少し面倒な話になりましたが、映像もきれいですし、通常世界においてはアンドロイドは必ず天使の輪っかのような「リング」を図上に回していなければならないという決まりがあるとか、図像的にもいろいろ面白いところがあります。この先のストーリーが公開されるようなことがあったら、またぜひ見てみたいと思います。