バニラスパイダー(2) (少年マガジンコミックス)/講談社
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(1)からの続きです。今回は7話から9話までについて。


6話で花織の理解を得られたツツジでしたが、今までのことを花織に話すうちに、大きな疑惑が浮かび上がってきます。自分以外にも蛇口でエレベーターを倒す人がいる、という疑惑です。それはツツジにとってとてもショックなことでした。


ツツジは自分だけがそういう能力を持っていて、津田に利用されていることは分かっていても、誰かのためにそれをやっているという必要が認められていることが嬉しかったのです。しかしもし、他にそういう存在がいるのなら、自分は一体何なんだろう。


そう考えるツツジの前に、津田ともう一人の少年が現れます。その少年・紫苑はなんと素手でエレベーターを食いちぎり、食べてしまう「エレベーターを食べるエレベーター」だったのです。(書いていて思いましたが、阿部さんて多分エレベーター嫌いなんですね)


ショックを受けたツツジは二人の前を去り、花織の働くコンビニに行って愚痴ります。花織が「なぜ私のところに来たの?」と尋ねると、ツツジは、「花織ちゃんぐらいにしか言えないと思って」と答えます。その答えに微妙な感情を持つ花織でしたが、ここはツツジを励まそうと思て「一緒に温泉に行こっか」と提案します。


この提案が、実は母子家庭で苦労してコンビニでバイトしている、という子が言うとなんだかすごく説得力のある提案なんですね。ああこういう子たちにとっての気分転換って、温泉とかスパなんだよなあと。このあたりがニクいです。


二人は彼らの住む町、居候町を離れ、(凄い名前だ)電車で温泉へ行きますが、空の朱い蜘蛛の巣はその町の上にしかなく、空は何もなくなります。ところが、その電車の窓にへばりつている少年がいて、それはなんと紫苑だったのです。


この紫苑という少年(エレベーター)が股間をもにもにするという妙な癖を持っていて、これもまた変なリアリティがあるんですね。


花織は紫苑の様子を見て、ツツジと仲良くさせようとしますが、ツツジは紫苑のために自分がお払い箱になったと思い込んでいて、冷たい態度をとります。でも紫苑の無邪気な様子を見ているうちに、紫苑を恨むのは筋違いだということに気づき、仲よくなるのでした。


……考えてみればエレベーターを食べるとはいえエレベーターなのですからそれと仲良くなるというのもどうかと思うんですが、このストーリーではそういうことは全然どうということがないんですね。私もそういうストーリーを書いていた時、そういう点で良く突っ込まれていたので、こういうところにはすごく共感します。異種間で交流したっていいじゃないか、と。


しかし温泉に宿泊したその夜、彼らの居候町が震度8の大地震に襲われ、3人は慌てて居候町に帰りますが、街は完全に崩壊していました。


3人が花織の家に走ると、花織の母はすでにエレベーターに食べられていました。ショックを受ける花織でしたが、そこに母の連れ込んだ男がいたのを見て、紫苑に「(二人を食べたエレベーターを)食べていいよ」と言います。


3人は花織の勤めていたコンビニに避難しますが、エレベーターの活動は活発になっていて、そこらじゅうで堂々と人間を食べています。水野さんのところへ行きなさいよ、「結局最後は水野さんなんでしょ!」という花織に、蛇口を渡して紫苑と走るツツジでしたが、水野さんの家にたどり着き、緊急事態だからと扉を開けると、実はその家は張りぼてで、その向こうにはただテレビが一台、砂嵐の状態であるだけなのでした。


この水野さんの謎がこのストーリーの中の最大の謎だと思うのですが、それはまたあとで書きたいと思います。


何というか、この話の中には色々なリアリティがあるのですけど、「存在感のない」少年ツツジのリアリティ、母子家庭で育ちコミュニケーションを取るのが苦手でドリンクのやり取りで気持ちを伝える花織のリアリティが特に真実味を感じます。そしてその二人のぎこちないような、恥ずかしいような、涙が出て来そうなやり取りも。そこから離れていくにつれて世界は中二病的になっていくのですが、その世界に呑み込まれないように、作者もツツジも必死に自分の場所にしがみついているような感じがします。その緊張感が、このストーリーの最大の魅力なんじゃないかなと思います。


その(3)に続きます!