アンダーカレント アフタヌーンKCDX/講談社

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その(1)からの続きです。

主人公は二人いる。夫に失踪され、経営していた銭湯を休業していた女。営業再開を決意して組合に働き手を依頼し、そこで紹介されてきた無口な男。近所のじいさんばあさんたちの噂話の場面と、営業終了後黙々と浴場を掃除する二人の場面が繰り返し現れる。

誰かと一緒にいて、特に好きな相手と一緒にいて、でも相手が何を考えているか、本当のことは分からない。相手も自分も好きだと思っている、そのことは分かっていても、それ以外のことは分からない。でも、好きだから大丈夫なんだ、と思う。思ってしまう。確かに自分も、そんなことで何度も失敗した。好きだから大丈夫、なんて神話か伝説の類なんだろう。でも信じてしまう。そんな幼稚なところが、たぶん今でも自分にある。

このマンガの登場人物たちは、たぶんもっと大人だ。現実を知っている。好きでも許せないことは許せないし、でも許せなくても好きであることに変わりはない。そして男はそれから距離を取ろうとする。一歩近づきたいと、一度も思わなかったわけではないだろう。でも。

あの人は本当は私のことをどう思っていたんだろう。失踪した夫に対する女のその問いを軸に話は進む。私はもっと幼稚なので、私の苦しみはそういうところではなかった。私をそう思っている、そのことが分かってからの苦しみの方がずっと私には生々しい。だから私のことをどう思っていたんだろう、という苦しみは私自身の苦しみではない。でも深く、心に沁み込んでくる。夫の不在、少女の不在。その二つの不在をめぐって二人の主人公が交差する。男は不在の少女の面影を女に見、女はその問いの彼方に男を見る。

その(3)に続きます。