ゴーグル (アフタヌーンKCデラックス)/講談社

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豊田徹也さんの『ゴーグル』を読みました。

この作品は、2012年に出た作品集で、この寡作の作家さんの単行本におさめられて来なかった作品を収録したものです。

この人の作品がいいなと思うのは、決して思ったように筋書きが展開していかないことです。思ったよりずっと悲しかったり、思ったよりずっとほんわりしたりします。でもそこに何か人生の救いのようなもの、人生の希望のようなものが見えて、読後感に人間のこころとか存在の頼りなさへの豊かな感情の波立ちが自分の中に感じられるというか、まあ簡単にいえばやさしい気持ちになれるのですね。

その自分の中にある豊かな感情の波立ちというのがまさに彼の代表作の題名になっている『アンダーカレント』なんだなと思います。『アンダーカレント』はハッピーエンドなのかアンハッピなのかちょっと分からないところがあるけれども、むしろ彼が『アンダーカレント』で描きたかったことが、この『ゴーグル』を読んでいるとよくわかる、という気がします。

どの作品も好きなのですが、一番最後におさめられている「とんかつ」が一番よくまとまっていて読みやすいかと思います。とある銀行の検査部、15年前の融資の担保物件が架空だったという匿名の手紙が来て、その確認を取るために融資課にいた人に話を聞こうとしますが、その坂井という人はもう定年退職していて、その協力の条件として昔食べた味のとんかつを探す、と言ってきた、と言う話です。女性主人公の諏訪さんはクールで、この一見奇妙な依頼にもクールに対処して行きますが、その中でとんかつのことや坂井さんの人生、諏訪さんの人生もまた見えてくる、と言う話です。

豊田さんの作品は、キャラクターがひとりひとりとても味があって、またギャグもきちんと決まっているし、何より絵がすごいのですが、人生の深い向こう側のようなところが見えて、読むたびにすごいなと思います。

それにしても五十嵐大介さんといい豊田徹也さんといい、日本には隠れた巨匠というか凄い存在がいるんだなあとときどき本当に驚かされることがあります。日本は思ったよりずっと面白い、ずっとすごい国なんだなあと思います。

最後に作者自身が書いた作品ごとのあとがきがあって、それもとても味がありました。いとおしい作品を作る人だと思います。