重版出来! 1 (ビッグコミックス)/小学館



¥580

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第1巻の第4話から6話は一続きで、ある若手漫画家の一見地味な旅漫画「タンポポ鉄道」を、いかにして売っていくかということが描かれています。この第4話は丸善丸の内店で「試し読み小冊子」としておいてあったので読んだのですが、これだけではなんだかよくわかりませんでした。やはり第3話までの流れを知らないと、第4話の面白さは分かりませんね。ただ、書店の努力のことが描いてあるので、書店員の人にはすごく共感される部分なんだと思います。




第5話では心が営業の応援につけられ、「タンポポ鉄道」の書店へのアプローチを手伝います。ここでは小泉というやる気のない営業部員と一緒に仕事をするのですが、心はそんなことにお構いなく、柔道で鍛えた根性と体力で振られた仕事(800部の試し読み小冊子を手作業で作り、120店に手渡しに行く)をがんがんこなしていきます。




心の熱意で、指定配本を受けた書店が平台に特設で「タンポポ鉄道」のコーナーを設けてくれて、心がその写真を撮って担当編集者に送ると、打ち合わせ中だった担当と漫画家が二人で泣いてしまいます。そして「ありがとう!」というイラスト入りの写メを打ち返します。この場面は本当に感動します。そしてその過程の中で、小泉もついに本気になります。




第6話では様々な努力によってついに「タンポポ鉄道」の重版がかかるのですが、「一生懸命書いているのにどうして売れる売れないの差がつくのか」と問う心に、書店員が「なぜ売れないのかはわからないが、売れるマンガは愛されています」と答えるのが、本当にそうだなと思いました。『進撃の巨人』のことをちょっと考えたら、それは分かります。




最後に営業の担当者が、「なぜこのマンガが売れたのかわからねーよ」という若者の言葉を聞いて、「売れたんじゃない。俺たちが、売ったんだよ!!」というその言葉が、この商売の自負を現しているな、と思いました。




本当に面白かったです!もう第2巻は出ている(というか3巻が3月28日発売予定)ので、明日買ってこようと思います。(笑)




ところで、このマンガはどうしても『モーニング』で連載されていた安野モヨコさんの『働きマン』を思い出してしまうのですが、この『重版出来』は『スピリッツ』の連載という、もろライバル関係の雑誌ということになるわけです。私は『働きマン』も全部買っていましたが、4年ほど連載が続いた後で休載になってそのままになっています。出版社の雑誌編集をテーマにした漫画は難しいのかなと思ってましたが、この『重版出来』の方が無理なく連載が続く気がします。




それはなぜかと言うと、やはり安野さんのキャラがどうしてもオシャレ系になっていて、そこにある種の弱さが入ってきてしまう、「働く女の恋と仕事」的な感じが出てきてしまう(というかまさにそういう展開なんですが)のですが、『重版出来』の黒沢心は「体軸が一本通っている」女ですからそういう弱さを微塵も感じさせません。やはり男性誌では、そういうキャラクターの方が強いと思います。松田奈緒子さんも先日読んだ『歌』では昭和初期的なレトロな作風だったので、その松田さんの『重版出来』がまさかこんなパワー全開の作品だとは思わなかったのですが、そのあたりは『働きマン』の例も踏まえたキャラクター設定になったのかもしれないな、と思いました。




この作品の中でも『バイブス』(モデルは連載誌の『スピリッツ』でしょう)のライバル誌が『エンペラー』として「社長・島耕作」みたいなキャラが載せられたカットが入っていて可笑しかったです。




私は最近講談社の雑誌を買うことが多く、小学館のものは『ビッグコミック』だけだったのですが、さすが『スピリッツ』、やはりやるもんだなあと思いました。




本当に久しぶりに、本気で面白いマンガに出会いました!


 


※ちなみに連載誌は『月刊スピリッツ』でした。(すみません)3/26