歌 文芸ロマン (ホームコミックス)/ホーム社

¥630
Amazon.co.jp

松田奈緒子さんの『歌』を読みました。

いろいろなことで忙しくてこのブログもなかなか更新できなかったのですが、昨日は銀座に出かけて、教文館書店で本やマンガを見ていたのですが、手に取ったこの作品が面白く、久しぶりに予備知識なしにカンだけで買ってみました。

これは文学を扱った短編集。最初の作品の『歌』は主人公が中原中也です。中也の恋人だった『ガルボ』と呼ばれる女性が、小林秀雄のもとに奔った、その時期のことを描いています。

「俺は宇宙で一人しかいないんだ!生まれついてのこの命(こころ)をかえられようハズがないじゃないか…」

孤独と寂しさと、自分であることの辛さと愉しさ。

文芸マンガにはいろいろありますが、ある意味カリカチュアライズされた松田さんの線が、内容にマッチしているように思いました。

それから、芥川龍之介の短編を題材にした二本。『昨日の彼女は』は「カフェーの女給」であるけれども、自立してしっかりした人生観を持った少女・お君と、有閑マダムの若いツバメで羽振りはいいがが実際にはレストランの下働きでしかない寅吉との恋の話。お君が「自立した女」で、永井荷風の「つゆのあとさき」を思い出しました。

「モデルA」は貧乏のどん底にあった若い画家がハーフのモデルを殺したのか夢だったのか成功して名を挙げた今でもわからない、という話。こういう「薮の中」のような芥川龍之介のストーリーにも、松田さんの絵はあってるなあと思いました。

オリジナルの2作品、「一夜のサロメ」と「侘助」の味わいは、80年代に好きでよく読んでいた山田章博さんの『人魚變生』に似ているように思いました。山田さんは当時は大正ロマンと古典SFの作風でしたから、時代的にも近いですね。

あとで知ったのですが、松田さんは今書店に山積みになっている、『重版出来!』の作者さんでもあったのですね。

マンガと文学の好きな人には、あるいはマンガは好きだけど文学にはちょっと手が伸びにくいという人にも、おすすめの一冊でした!