ピアノの森(23) (モーニングKC)/講談社

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ショパンコンクールも佳境、最後の演奏者となったポーランドのレフ・シマノフスキ。ワルシャワ・フィルとの共演のコンチェルト第1番。第2楽章に入ったところで、舞台上のレフのところに昏睡状態の姉のエミリアの幻が現れました。一番近いところで、レフの演奏を見守ろうというのでしょうか。

レフはエミリアを見て安心してしまったのか、万感胸に迫ってしまったのか、それとも後悔が吹き出してしまったのか、泣き出してしまい、ピアノは乱れます。「泣いてる場合じゃない、ぼくは今エミリアの代わりにピアノを弾いているんだ」そう思うレフに、エミリアは「あたしのピアノはあたしにしか弾けないよ。レフはレフのピアノを弾くんだよ」と言います。

そこからレフの演奏は、「独り」になってしまいます。後ろ向きになってしまう。その変化をオーケストラは感じ、コミュニケーションが切れてしまったと焦ります。

「レフがそういったんだよ。あたしのために最高の一番を弾くって!」

このコマの、エミリアの絵が最高です!前話の終わりに出てきたときから、レフの前に現れた幻のエミリアの絵はどれもいいのですが、この台詞の絵は本当に涙が出てきます。

『ピアノの森』は休載が多く、というか最近は掲載されるのがレアな感じになってきて、でも読者はみな辛抱強く次の話の掲載を待っています。私も単行本に未収録分が掲載されているモーニングは捨てずにとっていて、何度も見直しているのですが、それだけ「たましいのこもった」絵を、ストーリーを、作者の一色まことさんは描いているんだなと改めて思いました。

レフは気がつきます。自分自身が評価されることをとても恐れていたことに。期待に応えられないかもしれないことをずっと恐れていたことに。

そんなレフにオーケストラは呼びかけます。「聴いて、レフ。わたしたちの音を。レフ・シマノフスキ!!独りで勝負するなよ!!」と。レフは気づきます。「僕は馬鹿だった。前を向いて歩き出さなければ。前に…」

第225話の副題は、「前に…」でした。

自分を取り戻したレフは、すばらしい演奏を続けます。「このピアノには、まるでポーランドの苦難の歴史にもくじけない魂が宿っているかのようなのだ…」カイも会場に入ってきて、レフの演奏を聴きます。

第3楽章、クラコヴィアクはワルシャワ・フィルも踊りださんばかりの熱演で、見開きの大ごまにクラコヴィアクの踊り。ナシャ・ポルスカと大喝采する観衆。ついに演奏は幕を閉じました。

今回のストーリーは、レフが自分を取り戻し、というか初めて自分を獲得し、前に向き、くじけないポーランドの魂を獲得して、ワルシャワ・フィルと、また観衆と一体になってすばらしい演奏をしたところが白眉だったと思います。

次回の掲載は3月の中頃とのこと。残るは審査結果ですが、それ以前に、各コンテスタントの演奏で十分満足させられた展開でした!