ピアノの森(20) (モーニングKC)/講談社
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今週のモーニングは、とても充実していました!


その中でも注目の一つが「ピアノの森」224話です。


場所はポーランドの首都ワルシャワのショパン・コンクール。カイに続き、最後の演奏者、レフ・シマノフスキがショパンのピアノ・コンチェルト1番を弾きます。


以下、ネタバレがかなりありますのでご注意を。


カイのすばらしい演奏で盛り上がった共演のワルシャワ・フィルは、その高揚とともに最高の演奏をします。ピアニストのレフもそれに答え、ノーブルで最高のピアノを弾きます。そして演奏のバックに、レフの抱えてきた過去が語られて行きます。今までもその過去は何度も断片的に語られてきたのですが、ついにその全貌が明らかにされたのです。


数年前、大ピアニストである祖父のレッスンをいやがったレフの代わりに、姉のエミリアがレッスンを受けにいくことになりました。その時、不運なことに乗っていたバスが事故を起こして、エミリアは大けがをし、その後遺症で今日まで意識不明の状態が続いていたのです。


そのことをレフは深く後悔していました。そして「エミリアの身代わりに」ピアノを弾き続けてきたのです。その甲斐あってか、レフの絶対的な技術の確かさはレフに反感を持つ雨宮修平にさえ「僕はこういう音楽を求めてポーランドに留学したんだったな」と思わせてしまいます。マンガなのだから音楽の調べは聞こえはしないわけですが、レフの演奏を賞賛する審査員や観客たちの感嘆は、まるでそこにすばらしい音楽が鳴り響いているように感じさせます。そしてピアノの音とともに語られる語られるレフの懺悔には、読んでいる私も深い感動を覚えました。


そして、第2楽章のピアノが入る直前に、「エミリア」がレフの横に現れます。すると、なぜかレフのピアノが乱れてしまうのです。何があったのか。なぜなのか。そこで物語は次号へ続くのです。。


今回の描写はすばらしかったです。ためにためていた、引っ張りに引っ張っていたレフのストーリーがついに明らかにされます。レフの後悔の美しさ。その後悔の美しさを、ストーリーそのものだけでなく、その音楽を賞賛する言葉や絵の描写が際立たせているのでしょう。


読み終わって、いろいろなことを考えました。このマンガはもちろんピアニスト・一ノ瀬カイの物語なのですが、そのライバルであり親友でもある雨宮修平の物語でもありました。


それがショパンコンクール編に入ってから、それぞれのコンテスタント・それぞれのピアニストの人生が語られていくことで、一人の演奏家ではなく、「ピアニストそのもの」の姿が描かれているような、いろいろな生が複合した世界が描かれているんだなあと言う感想を持ちました。 そしてそれは本当はピアニストだけでなく、「人間そのもの」の肖像なのかもしれません。でもそこまで一般化しない方がいいでしょう。描かれている世界は、「ピアニスト」というある種の普遍性を持ったものの「肖像」である、と思った方がこのマンガにはしっくりくるように思います。


人が生きるということの前にはたくさんの困難が待ち構えているわけですが、それでもなおかつ自分の持っている天性の才能を発揮させることがどんなにすばらしいことかと思います。成功したピアニストはその最も幸福な例ではありますが、そこに人生の一つの典型、モデルとなるものが描かれているのだなと思います。


次回掲載は2月中旬とのこと。もう今から楽しみにしています!