車が走行中に故障した、事故を起こした。原因は部品が破損したためである。ということで、部品が回収されて調査するように指示を受ける場合があります。これを市場クレームと称していますが、この対応しだいでは会社存亡の危機になります。

 回収した製品を調査し、製造上の欠陥がないことを確認できれば問題ありませんが、製造上の欠陥があるとなれば、原因調査、再発防止とともに、範囲の特定が必要になります。

 同じ欠陥の物が何個、市場に出回っているのか証明しなくてはなりません。最悪の場合は、その製品が量産を開始した日から、再発防止を行った日まで全てが対象になってしまいます。

 市場クレーム回収品は数年前に作られたものがほとんどで、その時何があったから、同じ欠陥はこの1個限りです。とか、この日に作った何個ですとかを証明するのですから、極めて困難な作業です。

 最終的には自動車会社が判断することになりますが、欠陥が1個限りとか、数個に絞り込むことができれば、リコールとはならずにしばらく静観しようという判断になる可能性があります。

 またリコールになってしまっても。何年何月から何年何月まで生産した何個ですと証明できれば損失は最小限に留められます。

 車のリコールとは、自動車が設計や製造過程で、何らかの不具合があった場合に自動車メーカーが無料で回収と修理を行い、事故やトラブルを未然に防ぐための制度です。部品に製造欠陥があった場合はこれらに掛かる費用の全てを製造メーカーが補償するかたちになります。自身の経験では数億円の請求された事例があります。まさに会社存亡の危機となる訳です。

 自動車メーカーがリコールにするか、しないかの判断は、多発性、予見性そして死にざまと言っていますが、故障が起きた時にどうなるかで決まります。

 多発性は事故、故障の内容にもよりますが、経験上は一桁ならばリコールとしない感じがします。

 予見性は走っていて、ガタガタ音がするとか、油が漏れて駐車場に油溜まりができているとかです。

 死にざまは故障した場合に保安基準を満足するか否かで決まります。すなわち車の基本性能である、走る、曲がる、止まるに影響が出るか否かです。また火災にならないのも条件です。

 それから事故、故障の処理に消防、警察が関係していると、報告義務が生じるため対応が厳しくなります。これらを総合的に判断しリーコル対応するか否かが判断されます。

 ニュースで高速道路で自動車の火災が起きた映像が放送される場合がありますが、どこのメーカーだか気になり、食い入るようにテレビを見るなんていうことがあります。

 さて、範囲をできる限り絞り込み、損失を最小限にするのは、自分の会社の権利であることを認識してください。

調 査の過程で、「まともな記録が残っていない、何の変化点もない、これでは何の証明もできない」と悲観的になる場合もありますが、そこにはこんな報告は恥ずかしくてできない、承知してくれるはずがないとか思いこんでいる節があります。

 どんな屁理屈であっても、自信をもって客先に報告します。その権利があるということです。その報告を納得して採用するか否かは客先の判断になるのです。もちろん「追加であれを調べろ、これはどうなっているとか」と追及されますが、一歩ずつゴールに向かっていると思ってください。

 それからリコールとなると、自動車メーカーに損失は及ばないとしても、自社のブランドにキズが付き、販売に影響するのでできれば避けたい、国土交通省の役人にしても自分たちの監督、指導責任を問われるのでできれば避けたいとの思いは少なからずあります。

 そこで範囲の特定の調査にあたっては、どんな小さなできごとでも、あいまいな記録や記憶で自信をもって使っていきます。

 ですが大前提として真実だけを使い、虚偽の報告は決して行ってはいけません。別の車で問題が起きた場合など辻褄が合わなくなり、取り返しのつかない事態になります。