口腔内のアレルギー性疾患 | 歯科研修医・若手歯科医師のための口腔外科マニュアル

歯科研修医・若手歯科医師のための口腔外科マニュアル

歯学部生・歯科研修医向けの口腔外科の小手術に関するコツを紹介します。昔、何もわからなかった時の気持ちや学んだことを記録します。このブログが歯科医師を志す若手の力になれたら嬉しいです。

1)口腔内のアレルギー性疾患
2)編集後記
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おはようございます。古舘 健です。
今日もご訪問いただき、ありがとうございます!

前回は「唾液腺疾患のまとめ」についてお話ししましたね。
唾液腺疾患は、炎症性疾患を除くと大きく唾液腺腫瘍と唾液腺に対する免疫系疾患に分けられるのでしたね。復習しておいてくださいね!

さて本日は「口腔内のアレルギー性疾患」について一緒に考えていきましょう!
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1)口腔内のアレルギー性疾患

50年以上前、日本にはアレルギーがほとんどなかったと言われています。
しかし、アレルギー疾患は徐々に増加し、厚生労働省の調査(1982-2002)によると、小児のアレルギー性鼻炎は30%増加、気管支喘息は40%増加しているそうです。
*アレルギー疾患対策 現状 - 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000016819-att/2r98520000016855.pdf

そもそも、アレルギーとは何でしょうか。

アレルギーは異物(細菌・ウイルス)から身体を守るはずの免疫システムが、内・外の抗原に対し過剰に働いた状態です。

*抗原(Antigen:AG)とは、免疫細胞のレセプターに結合し、免疫反応を引き起こす物質。

アレルギーは免疫的機序によって大きく4つの型に分かれます。

Ⅰ型:IgE抗体による過敏症(口腔アレルギー症候群、喘息、花粉症、蕁麻疹、アナフィラキシーショック)
Ⅱ型:IgG抗体、IgM抗体による細胞障害(天疱瘡・類天疱瘡、血小板減少性紫斑病、溶血性貧血)
Ⅲ型:抗原・抗体・補体が互いに結合した免疫複合体による過敏症(シェーグレン症候群、ウィルス性肝炎、全身性エリテマトーデ:Systemic Lupus Erythematosus; SLE、関節リウマチ、急性糸球体腎炎)
Ⅳ型:細胞性免疫による過敏症(接触皮膚炎、薬疹、ベーチェット病、サルコイドーシス)

*Igは免疫グロブリン(Immunoglobulin)の略。免疫グロブリンは抗原刺激を受けたB細胞が分化・成熟して産生する特定の分子(抗原)に特異的に結合する抗体(Antibody)で5種類ある。

*5種類(IgG,IgA,IgM,IgD,IgE)の抗体
IgG:血液中に最も多い(全体の80%)。唯一胎盤を通過できる。
IgA:唾液、鼻汁、母乳中(母子免疫)に分布。分泌型IgAは2つのIgAが結合した構造。
IgM:免疫の初期。基本の4本鎖構造が5つ結合した構造。
IgD:B細胞表面に存在し、抗体産生の誘導に関与。
IgE:主に粘液に分泌。抗原に暴露から早期に初期反応がみられる。

では、歯科口腔外科の日常診療において、遭遇する可能性のある注意しなければならないアレルギー関連の疾患にはどのようなものがあるでしょうか。

①ラテックスアレルギー(Latex Allergy)
*ラテックス・フルーツ症候群
*口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome:OAS)
②接触性皮膚炎(Contact Dermatitis)
*金属アレルギー(Metallic Allergy)
③掌蹠膿疱症(Palmoplantar Pustulosis)
④天疱瘡(pemphigus)
⑤類天疱瘡(pemphigoid)
⑥シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome)
⑦ミクリクツ病(Mikulicz disease)
⑧全身性エリテマトーデ(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)
⑨薬疹
*スチーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)
*中毒性表皮壊死(Toxic epidermal necrolysis:TEN)
⑩口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus:OLP)

*自己免疫疾患は、内因性抗原に対し、免疫応答が起こる。

①ラテックスアレルギー(Latex allergy)
ラテックスアレルギーは、天然ゴムに含まれる水溶性タンパク質に対するⅠ型(即時)アレルギーです。

天然ゴム(Natural rubber latex)は医療用のゴム手袋や一部に点滴ルート、尿道バルーンなどの医療器具に使われています。
欧米の医療従事者の有病率 1.1~13.7%。その中でも歯科医師が13.7% と最も割合が高いと報告されています。
http://www.latex.jp/latexallergy.html

注意が必要ですね(><)!

ラテックスにはゴム樹液を原料とする天然ゴムと石油を原料とする合成ゴムがあります。
ゴム樹液から採取される天然ゴムには少量のタンパク質成分が含まれており、このタンパク質が抗原となり、アレルギー反応を引き起こすと考えられています。

ラテックス特異IgE抗体の陽性率は1.4~34.5%
*アトピー体質の人は罹患率高い

過去に蕁麻疹、呼吸困難、ショックの既往がないかは必ず問診します。

予防にはパウダーフリーの製品を使用しましょう!

もし、問診で、果物にアレルギーがある場合は注意が必要です。ラテックス・フルーツ症候群や口腔アレルギー症候群(Oral allergy syndrome:OAS)はアナフィラキシーショックを起こす可能性があるため、果物にアレルギーがある場合は特に注意してください。

*ラテックス・フルーツ症候群
天然ゴムに含まれる少量のアレルゲンが食物(バナナ、トマト、アボガド、パパイヤ、キウイ、栗、ジャガイモ、メロン)と交差反応し、蕁麻疹やアナフィラキシーショックが起こす。

*口腔アレルギー症候群(Oral allergy syndrome:OAS)
口腔内の症状で、原因抗原として果物。花粉症との関連が疑われている。

【アナフィラキーの対応】
アナフィラキシーの兆候が現れる
⇒医薬品の投与や使用を中止!
⇒各種モニター装着、酸素投与、気道確保の準備

呼吸器症状(咳そう、呼吸困難、喘鳴、チアノーゼなど)を認める
⇒0.1%アドレナリンの筋肉注射(通常 0.3~0.5 mL、小児:0.01 mL/kg、最大 0.3 mL)。
⇒筋肉注射後 15 分しても改善しない場合、また途中で悪化する場合などは追加投与。
⇒抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬、気管支拡張薬の投与を考慮する。

②接触性皮膚炎(Contact Dermatitis)
接触性皮膚炎はかぶれ(湿疹)のこと。ゴム製品(化学製品)によるかぶれ(湿疹)はIgEと抗体関係がありません。原因物質によって、刺激性接触性皮膚炎と、Ⅳ型アレルギーによるアレルギー性接触性皮膚炎に大別されます。
刺激性:酸やアルカリに障害される
アレルギー:抗原(アレルゲン)に感作される

*金属アレルギー(Metallic Allergy)
金属アレルギーは金属イオンによる接触性皮膚炎です。
歯科用金属が唾液でイオン化します。粘膜のたんぱく質と交差反応し、Ⅳ型アレルギーを引き起こします。

血液検査では特定できないので、パッチテストを行います。

*パッチテスト検査
約40種類(17種類の金属)の専門検査薬を用い、疑い物質をつけた絆創膏を背中に貼る。2日後に貼った部分に皮膚炎が再現するかどうかを観察する。

リスクが高い金属
↑①ニッケル、コバルト、クロル
|②亜鉛、マンガン、銅
|③銀、プラチナ、金
↓④チタン
リスクが低い

*歯科用金属

(株式会社ジーシの歯科用金属の物理的性質から引用・編集)

③掌蹠膿疱症
膿疱が手掌や足蹠に多発して認められる疾患で、周期的に軽快と増悪を繰り返します。扁桃炎や歯周炎などの病巣感染や歯科金属(パラジウムなど)に対するアレルギーが引き金となり掌蹠膿疱症が発症した事例が報告されています。

④天疱瘡(pemphigus)
口腔粘膜上皮に水疱を形成します。表皮細胞間接着デスモゾームの接着分子であるデスモグレインに対する自己抗体ができます。水疱内には浮遊細胞(棘融解細胞 Tzanck cell)を認めます。
自己抗原は尋常性天疱瘡:デスモグレイン3、落葉状天疱瘡:デスモグレイン1
口腔病理基本画像アトラス
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter4/html4/4_2h_001.html

⑤類天疱瘡(pemphigoid)
表皮下に水疱を形成します。表皮基底膜部抗原(ヘミデスモソーム構成蛋白であるBP180とBP230)に対する自己抗体ができます。
口腔病理基本画像アトラス
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter4/html4/4_2i_001.html

⑥シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome)
乾操性角結膜炎(Schirmer試験5mm/5分、 Rose-Bengal染色、fluorescein染色法による証明)、口腔乾操(口腔所見、唾液分泌量測定:ガム試験10ml以下/10分やサクソン テスト2g以下/2分、唾影法などによる証明)、リウマチ性関節炎(アメリカリウマチ協会の診断基準)や血清検査(抗Ro/SS-A抗体、抗Ro/SS- B抗体)など膠原病症状のうち2つ以上。

⑦ミクリクツ病(Mikulicz disease)
シェーグレン症候群と類似した症状を示す。IgG4関連疾患(+両側の唾液腺&リンパ組織の増殖=ミクリクツ症候群)

*シェーグレン症候群とミクリクツ病については「歯科医師国家試験対策メモ ~唾液腺疾患のまとめ~」

⑧全身性エリテマトーデ(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)
多彩な自己抗体が検出されます。病態の中心は二本鎖DNAに対する自己抗体と補体による免疫複合体の組織障害です。組織障害の発生場所は個々の症例によって異なり、腎臓、皮膚、肺、脳など多様な臓器に障害が発生します。

⑨薬疹
どの薬でもアレルギー反応を起こす可能性はあります。また、アレルギー性薬疹の場合、ある薬で薬疹が起きたら、その薬はその後は内服しないほうがいいでそう。。
*スチーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)
重症な薬疹。ニコススキー(Nikolsky)現象が陽性です。本症の発症には薬剤だけでなく細菌・ウィルス感染(とくに呼吸器に感染するマイコプラズマ)が関与していると考えられています。

*中毒性表皮壊死(Toxic epidermal necrolysis:TEN)
最も重症な薬疹。全身の皮膚に紅斑を認め、ニコススキー(Nikolsky)現象は陽性で、まるでヤケドのようになります。死亡率20~30%。
水泡やびらんなど皮膚が剥がれた面積が身体の10%以下はSJS、それ以上はTEN

【重症薬疹の治療】
まず薬剤の中止!
⇒ステロイド(プレドニン60~100mg/日)内服。
⇒重症の場合1gのプレドニンを1日でするパルス療法

⑩口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus:OLP)
原因は不明です。口腔粘膜の白色レース状、わずかに隆起、時に丘疹状を示す慢性炎症性病変です。
口腔病理基本画像アトラス
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter4/html4/4_2g_001.html
粘膜上皮は鋸歯状で上皮直下にはリンパ球(Tリンパ球)を主体とする帯状の浸潤が見られます。

*口腔扁平苔癬は原因が不明なため、アレルギー関連疾患とは異なります。

いかがでしたか。それぞれの項目について自分なりに整理してみてくださいね。
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2) 編集後記

先日、三菱一号館美術館で開催されていた「ミレー展」を見て来ました。



19世紀のフランスの画家、バルビゾン派のジャン=フランソワ・ミレー(Jean-François Millet)。

ミレーが当時の他の画家と違ったのは、オリジナルの着眼点をもっていたことと時代の流れをつかんだことです。

当時、神話的な作品が主流だったなかで、ミレーは農民に注目しました。当初、農民支持の象徴としてミレーの作品は批判を受けましたが、農民の生活や田園風景をありのままの姿で描かれた作品は人々に強い衝撃を与えました。

それは19世紀の西欧はフランス革命の影響による自由主義とナショナリズムの広がり、ナポレオンの興亡と反動としてウィーン体制、そして社会主義的な運動の広がりがあったことで、ミレーの作品は労働を賛美するものとして時代の流れをつかんだためであると思います。

ちなみにミレーの作品である「種まく人」は株式会社岩波書店のシンボルマークですね。




*1933年(昭和8年)創業者の岩波茂雄氏は「労働は神聖である」との考えからミレーを岩波書店のマークとした(岩波書店ウェブサイトより 一部抜粋し、改編http://www.iwanami.co.jp/company/index.html)。

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「ボストン美術館 ミレー展ー傑作の数々と画家の真実」 三菱一号館美術館
会期:2014年10月17日(金)~2015年1月12日(月・祝)
住所:三菱一号館美術館千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。

ジャン=フランソワ・ミレー - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%EF%BC%9D%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%BC

〔画家〕ミレーの絵画作品ギャラリー
http://matome.naver.jp/odai/2128600614919556201
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【参考文献】
アレルギー疾患対策 現状 - 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000016819-att/2r98520000016855.pdf

第4章 食物アレルギー
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf

日本ラテックスアレルギー研究会
http://www.latex.jp/latexallergy.html

アナフィラキシー - 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1h01.pdf

口腔扁平苔癬 - 北海道大学歯学部
http://www.den.hokudai.ac.jp/kouge1/case/oralmedicine/oral_lichen_planus.html

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう) - 日本皮膚科学会
Q4金属が悪さをして出ることもあるようですが、ほんとうですか?
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa27/qa04.html

抗体(免疫グロブリン)の種類と構造
http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/koutai.pdf

アレルギー性皮膚炎と皮膚疾患 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
http://www.tmghig.jp/hospital/shinryou/geka/sub10.php

[PDF]天疱瘡の診断手引き
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/tenpou3.pdf

口腔病理基本画像アトラス
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter4/html4/4_2h_001.html
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter4/html4/4_2i_001.html
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter4/html4/4_2g_001.html

難病情報センター | 皮膚疾患分野 水疱性類天疱瘡(平成24年度)
http://www.nanbyou.or.jp/entry/3270

全身性エリテマトーデス (SLE)|大阪大学 免疫アレルギー内科
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/imed3/lab_2/page4/page4-11.html

公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A 薬疹
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa18/index.html