週刊『広告三国志』
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【軍師の言葉】広告デザインひとすじ38年、新たな一歩を。中道幸男さん

三国志: 38年間のデザイナー生活、ひとまずお疲れさまでした。

中道: まだまだやれるよ(笑)。

三国志: いったん定年退職されて、今後はフリーで活躍されるということですが。
そもそも、私もここ10年ぐらいの中道さんのご活躍は知ってるんですが、
それより昔はあまりお聞きする機会がなかったので。

中道: はい。



三国志: まず、TSP株式会社に入社された経緯は?

中道: リアルイラストが好きでね、若い頃。
イラストレーターになりたかったんですよ。それで高校を卒業して、
美術の専門学校で勉強していて。

三国志: 昭和?

中道: 昭和も昭和。昭和50年頃。

三国志: ザ・ピーナッツが引退して、ゴレンジャーが
放送開始したのが昭和50年です。

中道: そのころイラストを勉強していて。専門学校の個展があったんですけど、
そこでぼくの作品を見初めてくれた人がいて。それがTSPの社長の弟さんで、
武田育雄さんという画家兼イラストレーターだったんです。

三国志: へぇ。そうなんですか。

中道: ええ。個展で声かけてくれて。それがきっかけで、
育雄さんの事務所でアルバイトをはじめたんです。

三国志: 専門学校時代に?

中道: そう。

三国志: いわばスカウトされた。

中道: よく言えばね(笑)。でも申し訳ない話なんですけど、
イラストのアルバイトしてるうちに、もっと他のことを色々やってみたくなってね(笑)。

三国志: あぁ。

中道: うん。で、育雄さんに正直にそう言ったら、育雄さんもいいひとで、
「じゃあ、兄貴が福島区でデザイン事務所やってるから。そっちだと色々やれるよ」って
紹介してくれたんです。

三国志: その「兄貴」が、TSP(タケダ・シュンサク・プロダクション)の
社長さんの武田俊作さん。

中道: そうなんです。それで、専門学校卒業前の12月ぐらいから
働きはじめたんだけど。また、ちょっと、あってね。

三国志: なんですか?

中道: いや、3人しか社員がいなくて。正確には1人はアルバイトで。
1人は年配のコピーライターで。もう1人はデザイナーなんだけど経験2年しかなくて。
なんかヤバイなぁ、と。

三国志: でも中道さんは、それこそ未経験者だったんですよね。

中道: まぁ、そうなんやけど(笑)。若かったから(笑)。
ここじゃダメになる、なんて思ってね、デザイナーとして。
3月になったら辞めようと思ってたんです。

三国志: なんか中道さんもそういう「青い時代」があったんですね。

中道: 生意気ですよね。せっかく就職できたのに。

三国志: でも、結局そこから38年間ずっとTSPに。それは、なぜ?

中道: それは、もう、大黒さんが入社してきたからですね。

三国志: その頃に。

中道: はい。ぼくより7つぐらい年上で、キャリアがあって。
なによりデザイナーとしての技術がすごかった。スピードが違うんです。
当時は手作業で写植貼ったりロットリングで線引いたりでしたけど、スピードが圧倒的。
新聞、ポスター、POPツール、なんでもいっぺんに仕上げちゃう。
「これがプロの仕事か!」って感動しました。

三国志: その先輩が入って来たから、残ろうと。

中道: はい。そこからずっと大黒さんの下で勉強しました。

三国志: あぁ、やっぱり尊敬できる先輩との出会いって、大事ですね。

中道: うん。それはもう「運」やけど。
そこで必死に喰らいつけるかは努力やもんね。

三国志: TSPはずっと松下電器産業(現・パナソニック)の
広告をつくられてましたね。

中道: はい。武田社長が松下さんにコネクションがあって。
景気もよかったから、ばんばん仕事をもらってました。

三国志: そのころの思い出の仕事は?

中道: 大黒さんの下でやった仕事やけど、アイロンの立体成型ポスターかな。
広告電通賞のポスター部門でグランプリもらったんです。ポスターそのものが
実際にシワシワになってて。ああいうのは、当時、新しかったんです。

三国志: はい。名作として、記憶にあります。



中道: ちょうどバブルの頃かな。いちばん忙しくて、社員も10人ぐらいいて。
徹夜なんか当たり前で。27で結婚して子供もふたりいたけど、本当に忙しかったです。
駆け出しの頃のウッチャンナンチャンの撮影で、夜行バスで東京まで行ったりして。

三国志: バブルが働き盛りの35歳のあたり。
お子さんも小さいし、大変でしたでしょう?

中道: ま、女房がこの仕事に理解があったからずいぶん助かりましたね。
家を守ってくれたから。

三国志: アートディレクターの撫養さんに出会ったのは、何歳ぐらいですか?
ますます家に帰れなくなったでしょ?(笑)

中道: 40前かな。五味太郎さんのパナ坊がはじまって。
TSPはずっとパナソニックのお店の広告をつくらせてもらってましたから、
その仕事で撫養さんがディレクターとして現れて。
ほら。撫養さんは「広告賞の鬼」だったから(笑)。

三国志: はい。松下さんからも絶大な人気と信頼がありました。

中道: 人格が変わるからね、広告賞の企画になると。
「うーん。中道くん、なんか違うねん。」ていうのが口癖で。そうなると家に帰れない。

三国志: ぼくも一年だけ洗礼を受けました。

中道: とにかく粘る人。アイデアをとことん考える人。

三国志: そうでしたね。でも、まだ、その時期は大黒さんの下ですよね。
中道さんが「一本立ち」されたのは、いつ頃ですか?

中道: 撫養さんと大黒さんが同時期に東京へ行ってしまって。
そこからかな。いよいよ一人で頑張らな、となったのは。

三国志: そこからの印象的な仕事は?

中道: パナソニックの自転車の原稿かな。
アートディレクターの鈴木さんと治部さんと2年連続でやりました。
ひとつは、「新聞配達用電動自転車」の新聞広告。これも賞狙いで。

三国志: みごと新聞部門賞を獲りましたね。



中道: もうひとつは、「高齢者用電動三輪車」の雑誌広告。
企画がぜんぜん決まらなくて、最後の最後、夢の中でこのビジュアルが出てきた(笑)。
おじいちゃんが三輪車!これ、いいんちゃうか!って飛び起きた。
ああいう時が、この仕事でいちばん楽しい瞬間やね。

三国志: これは、電通賞のほかに日本雑誌広告賞や
ロンドン国際広告賞でも評価されています。すごい!



中道: 大黒さんが抜けて、会社の看板を背負って自分ひとりでっていう
プレッシャーがすごくあって。ほんと、ここで結果を出せてなかったら、
辞めてたと思います。

三国志: そこまで。

中道: うん。結構、マジでしたね。

三国志: 同じ年に朝日広告賞にも入賞されてます。

中道: はい。コピーライターの山中さんとやった朝日放送の号外広告。
ちょうど18年ぶりに阪神タイガースが優勝した時で、
街で配られる号外新聞に広告を出すことが急に決まって。
あの時、入稿まで3日しかなくて。

三国志: 山中さんが急いでコピーを書いてTSPさんに行って
中道さんにデザインしてもらったんだけど、
カンプを見ながら中道さんが「これ、真面目すぎない?」って言わはったんですよね。

中道: そう(笑)。

三国志: ここが中道さんが信頼されるところで。本当に生真面目な人で
ふだんおとなしいんだけど、企画に対しては「ほんとうのこと」を言ってくださる。

中道: 山中さんが慌てて“六甲おろし”の企画も考えはって、
くすぐりのコピーも書きはりました。あのコピーは読んだ瞬間に笑った。



三国志: その三年後ぐらいですね、
アートディレクターの日比野さんがTSPに来られたのは。

中道: そうですね。日比野さんも30過ぎぐらいで若くて才能あって、
とにかく面白さに貪欲やったね。

三国志: 追手門学院大学の「米粒」の原稿とか。
いま見ると、よく実現したなって驚きますね。
学長の銅像にごはんつぶ、っていう。



三国志: あと、フルタ製菓のブログにも中道さんモデル出演してましたね。

中道: あれは日比野さんたちに騙された(笑)。

三国志: (笑)。



中道: そのころはもう50歳ぐらいやったけど、
日比野さんや谷口さんなど、いろいろ若い世代の人とたくさんお仕事させてもらえて。
ほんと、幸せでした。みんな、おもしろさに飢えていて
「いい作品つくろう!」「賞を獲ろう!」って燃えに燃えてて、
そのお手伝いをしながらぼくも完全燃焼できました。

三国志: いつも、中道さんがいちばんアイデアを
持って来られるから、頭が下がりました。

中道: いやいや。広告づくりが根っから好きなんですよ。

三国志: でも最近は、そういう人が減ってますよ。
デザインとかコピーを辞めちゃう若い人も多いです。

中道: そういう時代なんやろね。
なんちゃらテクノロジーとか。コミュニケーションなんちゃら、とか。
我々みたいに「作品一本槍」で勝負する人間は古いんかな。

三国志: でも、そもそもやりたかったことが
「広告という作品づくり」でしたから、ぼくら。
初志貫徹。できればずっとそれで生きたいですね。

中道: ぼくも還暦やけど、あと一歩だけ前に進みたいね。






探偵ナイトスクープの松本修さんからはじまって、
小説家・百田尚樹さんや映画監督・田中光敏さんなど
関西発のクリエイティブをご紹介してまいりました広告三国志。
メンバー3人が多忙になってしまい、今回でひとまず最終回です。
みなさまご支援ありがとうございました!!!

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