私が物心ついた5歳の頃
母は髪が伸びた私を、近所の激安床屋に連れて行っていた
900円の床屋は
母の美容院に併設されており
母のヘアカットのついでに、私をそこに置いていくというのが日常だった
床屋は髪を短く切るのが本当にうまい
おかっぱの後に何故が襟足を刈り上げてくる
控えめに言って短すぎる
でも、それが母のオーダー
本当はさらさらのロングヘアにしたかった
だって
当時セーラームーンが流行っていた
それはもう社会現象
世の中の保育園児はみんな月野うさぎになりたかった(はず)
わたしはセーラーヴィーナスが好きだった
あんなロングヘアにしたかった
だからお母さんに
「髪伸ばしたい」と幾度か訴えたことはあった
けれど
「邪魔になるやろ」と
容赦なくおかっぱ頭に仕立て上げるのだ
そういえば、生まれてすぐに引っ越す前の古い借家のお風呂は
何故がシャワーがなくて風呂桶で湯船のお湯を汲んでシャワーの代わりに使っていた
まだ小さい頃は髪を洗うのも週に3回とかで
今のドライヤーのように風速もないので、乾かすのも手間がかかる
そんな時代だから
母の気持ちも今なら少しわかってしまう
しかし保育園のころは、
おかっぱ+襟足刈り上げがデフォルトの床屋へ行くのが
正直めちゃくちゃ嫌だった
「シャギーヘア」とか「ロングウェーブ」やらが流行っていたが
わたしが行っていた激安床屋のメニューにはそんなものはなく
毎回パツンとしたおかっぱの出来上がり
どっからどうみても金太郎
もしくは蛍の墓の節子ちゃんだ
まったく可愛くないのに親は「可愛い可愛い」と半ば投げやりに褒めていた
そんな容赦ない親のもとでも
心は立派な乙女だった5歳のわたしは
いつかお姫様のように可愛くなりたい・・・そう願っていた
そんなトキメく乙女はついにそれと出会ってしまったのだ
ある時
お母さんのお友達が、私くらいの歳の女の子を連れてうちに遊びにきた時のこと
帽子をかぶった三つ編みの女の子
可愛い
わたしに衝撃が走った
その子がかぶっていた帽子のは
なんと「三つ編み付き帽子」
帽子を脱ぐと、私と同じようなパッツンオカッパではないか!!
なにこれ?
と
めちゃくちゃ魅了されたのを今でも覚えている
だって、その帽子さえ被れば
パッツン金太郎ヘアでも
たちまち可愛い三つ編みのロングヘアになれるんだもの!
フリルの付いた可愛いハットに
綺麗な栗色の三つ編みが施されていて
まるでちいさなお姫様のようだった
いちいち可愛い
めちゃくちゃときめいた
わたしはその子から速攻、帽子を借りた
そしてかぶって鏡を見た
三つ編みロングヘアの自分に初めて出会った
「なんて可愛いんだ!!わたしはこの髪型が似合う!わたしはお姫様だ!!」
雷に打たれた感覚を今でも良く覚えていて
そのお友達が帰る時に
「帽子返して」と言われようが
「いやだ!!」とごねたのも覚えている
なかなか返さないわたしは泣いていた
多分相手の女の子も泣いていたような記憶が・・・
今思えば最悪なことして本当にごめん
もちろん、最終的には親の介入もあり、ちゃんと返したが
それから毎日三つ編み帽子が頭から離れず
執着し始めた
何度もお母さんに「同じ帽子を買ってくれ」と頼んだものの、案の定「いいよ」と言う親じゃない
何度も懇願する私に
お母さんは「じゃあ、家にあるもので作るわ」と言って
真っ青の太い紐を使って三つ編みを二本作り
それをプール用の帽子に縫い付けてくれた
「光子!これでいい?」と渡してきた
わたしは息を呑んだ
憧れた帽子とはちょっと(いや、かなり)違うけど
これを被ればなんとかロングヘアになれそうだ!!
プールの帽子に、青毛の三つ編み
明らかにおかしい
しかしそれよりもロン毛になりたい願望が強かった当時のわたしは
その日から毎日、その帽子をかぶった
見た目完全に怪しいけど、
頭でイメージする自分は
ちいさなプリンセス光子だった
今思うとかなり怪しい子供だ
でも心は満たされて幸せだった
それから約三十年の月日が流れ
今や自分には娘ができて
自分でくるりんぱや、ゆるかわアレンジをしている
もちろん、本人が望むならロングでもショートでも好きにすればいいと思っている
娘は私に似ず、小顔でしなやかな髪に生まれた
ふと当時の自分と重ねて、羨ましい気持ちになることすらある(毒親かな?)
とにかく、わたしの二の舞にはならなそうで、
心底ほっとしている
拝啓、5歳の頃の私へ。
大人になったら娘を生んで
好きな髪型をしなさいって、あなたが応援していますよ。
ヘアブラシやヘア美容液も一緒に買いに行ったりして、
未来の娘は嬉しそうだよ。
令和のJSはオシャレでおませ。
あなたが小さい頃と全然ちがう!
雑誌に載っている服のメーカーは高すぎるからびっくりすると思うな。
そうそう、刈り上げおかっぱのあなただって
きっと可愛かったと思うよ。
お母さんも、きっとそう思ってくれてたんだよ。
セーラーヴィーナスにはなれなかったけど
へんてこな帽子をかぶっていても
それで正解だよ。
ぜーんぶ、素敵な思い出になって
昔の話でお母さんと盛り上がったりしてるし
こうしてブログで書いたりして楽しんでたり。
それもそれで、楽しいよ
そのままでいいよ。
大丈夫さ。
未来のあなたより。かしこ。
そんな娘は進研ゼミで休校中の勉強頑張ってます(^◇^;)