月夜の出来事 - 今村幸治郎 -

月夜の出来事 - 今村幸治郎 -

音楽と文学をこよなく愛し、とっても温かく、優しく、
ユーモアであふれていた愛すべき
色鉛筆画家今村幸治郎 (1953-2018)。
彼の日々の想いや考えを綴ったブログ 月夜の出来事。
現在は幸治郎の甥にあたるたかちゃんの協力のもと
息子である今村 遊が更新しています。

2007/1/18 1:27に今村幸治郎が綴ったブログです。

 

 

 

その日、僕は朝刊に目を通していた。何気なく、演奏会の案内などが載っている、紙面に目をやると、なんと、そこにカール・ジェイダー・セクステットの案内と共に、アート・ペッパー初来日、本日7時開演、という広告が目に飛び込んで来た。それは、多くの、ジャズファンにとって、夢の様なニュースだった。この時、一体、何人位のジャズファンが、この広告を見た事だろう、そうして、一体何人のジャズファン達が、この広告を信じたであろう、僕も、この広告は何かの間違いだと思った。まさか、アート・ペッパーが、日本にやって来るなんて、誰も思っても見なかった事だったのだ。なぜなら、彼は、麻薬で捕まっているし、サナトリウム生活をしているという噂だった。僕は、一度はその新聞をかたずけたけれど、段々、もしかして、という気持ちが湧いて来た。カール・ジェイダーなら、ウエストコースとで仲が良さそうだし、ちょっとした、客演で、一緒に来ているかもしれないし・・・、でも、日本は麻薬には厳しい国だし,コンサートに行ったら中止の張り紙がでていたらどうしよう,とか,いろいろな想像が頭をよぎりました。アート・ペッパーの場合,僕はその演奏には全く期待はしていませんでした。長期にわたる,麻薬療養、当然、演奏活動からも遠ざかっています。,ただ,ただ,アート・ペッパーを見たかったのです。そのジャズメンとしての生き様が見たかったのでした。よれよれでも良かったのです。きっと当日、コンサート会場へ出かけたファンの気持ちはこうだったと思います。もしよれよれでも、応援してあげよう、何とか,麻薬からカンバックして欲しい,そう思っていたのです。
 その夜,僕はコンサート会場に駆けつけていました。会場は満員でした。皆,ひょっとしたら,本当に,アート・ペッパーが来ているかもしれないという,期待で来ているのでした。カール・ジェイダーの演奏の後に,アート・ペッパーが登場したのです。最初ははにかんでいて,恥ずかしそうにしていました。しかしなんと言う拍手、歓声でしょう。彼はこんなにも,日本で人気があったのです。みんな,感激しています。そうして,彼の演奏が始まると、どうでしょう、凄い,凄い,今まで、療養していたなんて嘘の様です。僕は背筋がぞくぞくしてたまりませんでした。会場は大騒ぎです。彼のアルトサックスは次から次へと素晴らしいフレーズが続きます。僕はこのコンサートの間中、何度,今,僕は凄い瞬間のなかにいる。と思った事でしょう,夢の様なアドリブ,これまで聴いて来た彼の奏法をもっと上回る,時にコルトレーンを感じる瞬間もある,凄まじい演奏、アート・ペッパーはこれまでの人生を全て我々の前にさらけ出しているかの様です。そうして,日本のファンの前で,本当に嬉しそうでした。幸せなコンサートでした。僕の生涯で聴いたジャズコンサートの最高の瞬間でした。

 僕は,アート・ペッパーにサインをお願いしました。すると、タンパ時代のアドリブフレーズの様な,美しいサインをしてくれました。それも,このアルバムの最もいい場所にサインをするなんて,やっぱり,特別な美的センスの持ち主です。