入院仲間が退院されて、もう二週間立った。彼はパーキンソン病で片耳だけ補聴器を付けて、黙々とルパン三世のアニメ雑誌をスケッチブックにデッサンしては、色鉛筆で艶やかに塗り絵を重ねる。当初、何となく眺めてはお話をするようになりました。歳は私よりずっと先輩。下書きを写すのが最も難しいらしい。

  ふとした事で、身の上話しを聞けば、両親が居らず、親戚に身を寄せていたとの事。当時はおおらかで、小学校の先生が居残り学習や宿直時に、宿直室に呼んで勉強を見てくれたとの事。計算や算盤が出来たので、役場に就職し、固定資産税を担当する部署に配属された。当時は計算尺で、職員達が計算しているのだが、この先輩、何と算盤と筆算で、高額の固定資産税を計算尺を使わず一人で正確に素早く計算してしまうのである。当然こんな人材は重宝され、退職まで長くお勤めになりました。
  さて、そんな訳で、筆算など無縁になった私が、少し教えて貰おうとすると、目の前で三桁の掛算をそらんじ始めて、ひっくり返りかけました。逆の割算も、独特の筆算式で…。入院中の高齢パーキンソン患者さんが、易々と数桁の加減乗除を計算機無しで暗算や筆算でしてしまうのである。
 しかも、この人、将棋やオセロに相当強く、それなりに将棋に自信がある私を、一手先勝ちで詰めて来る。つまり、完全に弄ばれてる訳で、連発して投了になり、負けた原因まで解説して貰えて恐縮至極。
 ホンマにの不自由なご病気に罹患されてるにもかかわらず、スーパーマンみたいな方でした。
控えめな方で、また、退院したらお家に伺う約束ですから、それが楽しみですね。
 
 私はまだ、一月は療養が必要ですから、気長にお会いする日を数えておきます。