出だしは良かったのだが、所々で説明が足りない。
「研修」と言うからには、加奈子は訪問看護の看護師か介護福祉士の学生なのだろう。
「塩を掛けられる」ところを見ると、そういうものを拾って来やすい体質なのかも知れない。
この地区の研修が嫌なのはただ臭いからという理由だけなのか、そうではなく、そういうモノを感じてしまう性質だからなのか、その辺も触れておくと「塩を掛けられる」事が伏線として生きてくるのだが、担当した地域の医師や看護師が足りてない話から、塩を掛けられる件に移る箇所がスムーズではないために、酷く違和感があった。
五十歳という水元の年齢や戦争の話と「四日市ぜんそく」というキーワードから、時代は昭和35~40年頃と思われるが、そういった時代の明記もないために最初は読んでいて少し戸惑った。
「昭和40年、戦争が終わって20年余り。高度経済成長の副産物に四日市市は喘いでいた」とか、時代背景を匂わせるものを書くだけで、すんなり入り込みやすくなる。
また、時間の経過が早過ぎる。
たった一回、一日の事で済まさずに、水元の元に何回か通い、世話をしていく中で伏線となるべきエピソードを織り交ぜておくべきだったように思う。
戦争に行ったこと、部隊が全滅し一人生き残ったこと等々、小出しにしておいてラストに繋げた方が流れとして自然ではないだろうか。
隣で共に戦う戦友の霊に銃を向けてしまう水元の罪悪感の原因も、独白の中で共に語らせても良かったかも。
たとえば「助けを求められたのに何人かで共謀して見殺しにした」とか。



 発想 +1 描写  0 構成 -1 恐怖  0 




怪集/2009 ある告白