ちょうど、裏急後重、下痢と嘔吐を3日前から繰り返す患者さんがこられました。医者にかかると2、3日で治るといわれて、点滴と嘔気止め、ビオフェルミンの処方をされたが、いっこうによくならないということです。たぶんノロウイルスと思いますが。
激しい嘔吐は、私の場合澤田流で改善させます。澤田流の命門ですね。通常の命門は、第2腰椎棘突起下の陥凹に取りますが、澤田流では(代田文誌?)督脈と足太陽膀胱経はひとつずつ上に取りますので、第1腰椎棘突起の下の陥凹、更に澤田流では、上5分の左右5分に取ります。
確かに嘔吐のある人は、ここの部位に索状の緊張が生じています。その部位に多壮灸を行います。
この患者さんの場合、上脘にも過緊張が出ていたので、そこに刺鍼。
加えて、下痢に対して、崑崙穴のやや下方、踵骨上の索状硬結に施灸。
翌日2回目いらっしゃった時にお伺いすると、その後嘔吐は改善、時々嘔気がする。裏急後重は減少したが下痢は続いているとのこと。
澤田流命門を続け、腹部を見ると、上脘の緊張は依然あります。上脘、加えて、天樞に刺鍼。崑崙に対して施灸。
翌々日3回目、下痢の回数は減少。嘔気はないが、少し胃から胸の重だるさがあるとのこと。
腹部をよく探ると、上脘の緊張がまだ少しあるのと、中脘の表面に緊張。上脘、中脘の緊張部めがけて刺鍼。
脾兪に力がないので、刺鍼と台座灸。
4回目、下痢は止まった、嘔気もなくなったとのことです。
ノロウイルスの発病期の終焉とともにでしょうが、患者さんは鍼灸でみるみる楽になったという事ですので、よしとします。
院長・羽山弘一
かぜのことを風邪と書きますが、風邪はもともと、病気を起こす六つの外的要因の一つです。
この外的要因を六淫といい、風邪の他に、寒邪、熱邪、暑邪、湿邪、寒邪があります。
風邪は体表の表面を犯しやすい、体幹の上の方を犯しやすい、寒邪とともに犯しやすいといったいった特徴があります。風が皮膚表面に当たると、その影響を受けまいと皮毛を閉じさせます。皮毛が閉じると汗が出なくなります。すると皮毛から出るべき熱も体表に行かなくなり、ゾクゾクと寒気を感じます。皮毛の内側では本来出るべき熱の行き所がなくなりますので、熱が溜まり発熱状態になります。
かぜの初期にはゾクゾクして発熱し、汗が出なくなりますが、ちょうどその状態ですね。その風邪に寒邪が加わっていると余計寒気を感じます。
このかぜをひいた初期の段階では、被毛に取り憑いている風邪を取り除く作業が必要となります。どのようにするべきかというと、本来風邪からの防御反応として閉じていた皮毛の腠理を却って開くようにするのです。腠理を開くと汗をかくこととなりますが、その汗とともに、皮毛に張り付いた寒邪をおっぱらってしまおうというわけです。
ですからここで気をつけなくければならないのが、かぜで最初から発汗している場合。この際は、悪寒ではなく、風が当たると寒気があるという悪風の状態になっています。腠理が開いた状態なんですね。この状態で汗をさらにかかそうとすると、発汗が強すぎて、体の熱を過剰に奪ってしまいます。体表部の熱は衛気ですのでその衛気の消耗がひどくなり、かえって悪化します。体力が比較的なく、腠理を閉じる力が少なくなっている人、そして汗をかきやすい子供は要注意です。
さて、具体的には、悪寒、発熱、無汗の場合、復瘤を補い太淵を補います。悪風、発熱、有汗の場合、太白を補い、肺の衛気を作る作用を助け、太淵を補います。
仮に発熱が強くガタガタ震え、発汗がない場合は、風門、太淵または経渠や列闕を瀉法します。
院長・羽山弘一