さよなら ひめ | 末期がんの先

末期がんの先

妻の闘病記です
2013年8月貧血の精密検査の結果大腸がんに侵されていることが発覚。
手術で大腸ガンは切除したが、腹膜播種が判明、末期がんの宣告を受ける。
生き残るため悪戦苦闘する闘病記です。

別れは突然やってきた。

その日、ひめは朝から普段と変わらず、元気だった。

私達が出かける時、庭に出て見送るのも普通の風景。

ただ、ひめは私達を見ず、空をボーっと眺めていた。



午後3時頃。ひめが立とうとしたが、後ろ足が踏ん張れず、立ち上がれなくなった。

慌てて、ひめを抱き上げ、外に出してあげた。

ひめは、数歩歩いて、糞をして、2歩歩いて、おしっこをしたあと、そのまま座り込んだ。

少し様子をみたが、動けないようで。

ひめを抱きかかえ、うちに入れ、お気に入りのソファに座らした。

水をすくってあげても、飲まない。

少し立たせてみようと、体を立ち上がらせてみたが、前のめりでコケた。

前足も麻痺している。

これはまずい。

獣医に電話をかけるため、家族全員が、ひめの部屋から出ていこうとした時。

ひめが、最後の力を振り絞り、立ち上がり後追いした。

「わたしも行く、一人にしないで!」 ひめの声にならぬ叫び。

驚いて、ひめをなだめた、「だいじょうぶ。どこにも行かないよ」

ひめをソファに寝かした。

そして、二度と立ち上がることは無かった。

ひめが寂しくないように、妻がひめに付き添った。


獣医に電話をかけて、状態を説明した。

医者は、

「脳卒中の可能性がある。ただ、連れてきても、診察はするが、入院治療は出来ない。

高齢犬なので・・・

家族が付き添って、見守ってください。」


とうとう、恐れた事態が訪れた。

ひめの目がぐるぐる回っている。

意識が朦朧としている、

ひめは、頭をあげることも出来ず、舌をだらんと、たらしていた。

今夜は長期戦になると考え、家族が代わりばんこで、見守ることにした。

私は、食事を取り、

ペットシーツと、水を飲ませるスポイトが、必要であるので、買い物に出た。

買い物の途中で、ひめの容態が悪くなったと、電話があった。

あまりにも早過ぎる。


急いで家に帰った。

たどり着いたとき、家から妻が泣きながら出てきて、

「ひめが死んだ」と叫んだ。

呆然とした。

ひめは、鳴きもせず、静かに亡くなった。


ひめの死に目に会えなかった。

私はそのことで、妻を責めた、妻も、ひめに私を合わせられなかったことを、悔やんだ。

妻を責めても仕方がないこと。後で自分を悔いた。

その日は、涙が出なかった。

ひめは、発作から4時間で、死んでしまった。

家族は、ひめの看護すら、させてもらえなかった。

無念しか残らない。



妻の闘病は、ひめが支えてくれたと、言っていい。

「病気を克服して、ひめを看取るんだよ、ペットより先に死んだら、飼い主失格だよ。」

励まし続けた、ひめが救いであった。

腹膜播種はどうにかなって、ひめより長生きできそうだと、安心した矢先。

突然の出来事。

心に空いた穴は、どうすればいいのか。