別れは突然やってきた。
その日、ひめは朝から普段と変わらず、元気だった。
私達が出かける時、庭に出て見送るのも普通の風景。
ただ、ひめは私達を見ず、空をボーっと眺めていた。
午後3時頃。ひめが立とうとしたが、後ろ足が踏ん張れず、立ち上がれなくなった。
慌てて、ひめを抱き上げ、外に出してあげた。
ひめは、数歩歩いて、糞をして、2歩歩いて、おしっこをしたあと、そのまま座り込んだ。
少し様子をみたが、動けないようで。
ひめを抱きかかえ、うちに入れ、お気に入りのソファに座らした。
水をすくってあげても、飲まない。
少し立たせてみようと、体を立ち上がらせてみたが、前のめりでコケた。
前足も麻痺している。
これはまずい。
獣医に電話をかけるため、家族全員が、ひめの部屋から出ていこうとした時。
ひめが、最後の力を振り絞り、立ち上がり後追いした。
「わたしも行く、一人にしないで!」 ひめの声にならぬ叫び。
驚いて、ひめをなだめた、「だいじょうぶ。どこにも行かないよ」
ひめをソファに寝かした。
そして、二度と立ち上がることは無かった。
ひめが寂しくないように、妻がひめに付き添った。
獣医に電話をかけて、状態を説明した。
医者は、
「脳卒中の可能性がある。ただ、連れてきても、診察はするが、入院治療は出来ない。
高齢犬なので・・・
家族が付き添って、見守ってください。」
とうとう、恐れた事態が訪れた。
ひめの目がぐるぐる回っている。
意識が朦朧としている、
ひめは、頭をあげることも出来ず、舌をだらんと、たらしていた。
今夜は長期戦になると考え、家族が代わりばんこで、見守ることにした。
私は、食事を取り、
ペットシーツと、水を飲ませるスポイトが、必要であるので、買い物に出た。
買い物の途中で、ひめの容態が悪くなったと、電話があった。
あまりにも早過ぎる。
急いで家に帰った。
たどり着いたとき、家から妻が泣きながら出てきて、
「ひめが死んだ」と叫んだ。
呆然とした。
ひめは、鳴きもせず、静かに亡くなった。
ひめの死に目に会えなかった。
私はそのことで、妻を責めた、妻も、ひめに私を合わせられなかったことを、悔やんだ。
妻を責めても仕方がないこと。後で自分を悔いた。
その日は、涙が出なかった。
ひめは、発作から4時間で、死んでしまった。
家族は、ひめの看護すら、させてもらえなかった。
無念しか残らない。
妻の闘病は、ひめが支えてくれたと、言っていい。
「病気を克服して、ひめを看取るんだよ、ペットより先に死んだら、飼い主失格だよ。」
励まし続けた、ひめが救いであった。
腹膜播種はどうにかなって、ひめより長生きできそうだと、安心した矢先。
突然の出来事。
心に空いた穴は、どうすればいいのか。