1 県と当該企業とのこれまでの貸付契約について

先ずは山梨県と当該企業との契約についてを整理する。

〇 県が貸付料を算定して提示し、当該企業がこれを承諾し、契約書にサインしている点に於いては、お互いの合意により契約が有効に成立されているものと考えられる。

〇 契約書に定められた貸付料を正しく支払っている以上、当該企業に契約不履行等の責任は発生する余地がないと考える。

〇 今後、仮に貸付料の算定方法を間違ったと裁判で認定されても、すでに契約が有効に成立している以上は、先の通り当該企業に落ち度はなく、損害賠償請求には無理がある。しかし、算定を間違えた県、職員に対する損害賠償の責任が、発生することは考えられる。

〇 算定方法の誤りを主張しても、民法の錯誤無効に該当するほどの瑕疵とは考えられず、これまでの長い貸付状態からみれば逆に、県側が信義誠実の原則に反すると判断され、過去の分についての請求権の発生、可能性を含めて、極めて低いと考えられる。

2 県と住民訴訟の関係について

〇 住民訴訟で被告である県が、これまでの算定方法を覆す和解案を提案しているところからみると、住民訴訟に於いては、県の敗訴は濃厚と考えられること。刑事訴訟と違って民事訴訟の場合は、真実追及というよりも原告、被告両方の主張を聞いて、裁判所が判断するため、県が相手方の主張を基本的に認容している状況では、これまでの算定方法が覆る可能性が強いと、考えられる。

〇 ただし、その理由がこれまでの「算定方法を『誤り』」とするのか、時代の変化を加味して「算定方法の『見直し』」とするのかでは結論が大きく異なるものである。

〇 「算定方法を『誤り』」であれば、過去の担当者や議会への責任追及に発展する可能性があるが、「算定方法の『見直し』」であれば、今後に料金改定の交渉をすべし、となる。

〇 当該企業は利害関係人として、訴訟に補助参加しており、どちらに至ったとしても、訴訟の結果が同社へ与える影響が甚大であるため、同社としては、これまでの算定方法の妥当性を全力で主張し、和解では無く、独自にも県の勝訴を勝ち取ろうとする。

以上の項目が考えられることから、過去の賃料算定の素地価格が適正とされるか、現況価格であるのかにより、賃借人は過去、現在、将来に渡って大きな損害を被ることになるのは、現在でも明白な事実であります。

そして今回の議案として提案されている、和解案を受け入れなければ、山梨県と担当者を含め、議決してきた議会の責任を過去に遡り、損害を放置してきたとして問われるかもしれません。

しかし和解案にある通りの、賃料算定の増額が議会で議決されれば、反対に企業からの損害賠償請求を、山梨県に対し、行うことが考えられます。

3 議会の責任について

次に、本県に於いて今後も発生するであろう、県の責任、議会での議決責任の所在、今議会に提案された和解案の議案に対する議会として成すべき事、ということについて確認していきたいと思います。

〇 議会としては、これまでの長い貸付状況をもとに、貸付料算定に特別な事情変更が発生したとの説明が当局から無かったと思われるので、議決に瑕疵はなかったと主張すると考えられる。

〇 議会の道義的な責任を言われる可能性があるが、これまで県当局も算定に疑義を挟んでいない状況で、議会が算定に誤りがあると主張することには無理がある。

〇 貸付料算定方法に誤りがあったとする今回の当局側の和解案に対しては、算定方法を時代にあったものとすべきは、県民利益の点からは当然であるが、今後の貸付料改定交渉の問題とすべきと考えられる。

〇 焦点となるのは、付加価値が発生している現況をどこまで貸付料に反映すべきかだが、最終的には不動産鑑定評価をどう評価して判断を下すかである。この点は議会の特別委員会で熟議して結論を出すべきものと考える。

通例での国会での発言、国会決議についてなどの責任問題などを免れるについては、国会議員には、憲法に保障されている権限を承知しています。議決責任など議会の責任について調べてみましたが、これは存在しません。また議会全体が罪に問われる等の、係争事件や、これに伴う判決などについても、見当たりませんでした。

4 県と県民との関係について

〇 県民の立場からは、県が敗訴しても結果、賃料収入が増加するからよしとする考え方、県の貸付事務をずさんとして批判する考え方、これまで県が特定の企業に、長期間の恩恵を与えていた責任の追及、などのリアクションが想定されます。

〇 今回は、県敗訴が県民にとっては好ましい結果となる点については、留意する必要がある。

5 県有地問題の議会と議員の責任(まとめ)

過去の賃料算定の素地価格が適正とされるか、現況価格であるのかを協議することもせず、賃借人には、過去、現在、将来に渡って、損害賠償請求の内容に因り、大きな損害を被るのは、現在でも明白な事実であります。

そして今回の和解案を受け入れないことにより、過去の過ちが明白化、当時の責任者である、それぞれの知事に損害賠償請求されること。今後は議会が「和解」しなかったことで、山梨県への損害が発生する責任なども問われるかもしれません。また、賃料算定の増額が議決されたことにより、訴えの自由により、企業からは損害賠償請求など、問われることも考えられます。

本県に於いても、今後も発生するであろう、議会での議決責任の所在、議案に対する議会として成すべき事、ということについて、少し確認していかなければならないことだと思います。

通例では、代議士の国会での不穏当発言の責任問題を含め、犯罪等の捜査、判決の延長、などを免れるについては前述の通り、国会議員には憲法に保障されている権限を承知しています。

その上で「議会議員の責任を争う法廷闘争の免責の判例」について調べてみましたが、これは数例しか存在せず、議会全体が罪に問われる等の、係争事件や判決などは殆ど、見当たりませんでしたが、一件の『(判例;責任否定)[平成12年 2月28日 東京高裁 平11(ネ)2724号 損害賠償請求控訴事件]』確認ができました。(ページ末尾に該当した判例を転載します。1)

今回の「県有地問題」において、個別の議員に関する訴えの有無については、訴権の乱用を除けば、訴状を出す自由には特に制限もなく保障されているため、判例の法の主旨に則って負ける裁判でも、勝ち負けは別にして、議員に訴状が出されることは当然予想されます。

しかし「民主主義政治実現のために議員としての裁量に基づく発言の自由が確保されるべきことは国会議員の場合と地方議会議員の場合とで本質的に異なるものとすべき根拠はなく、地方議会議員について憲法上免責特権が保証されていないことは右法理の適用に影響を及ぼすものではない。」ことから、議会議決に伴う発言や表明に対しての訴えなどには、訴状が出されても、免責の公算が強いと思われます。だからと言って県民から信託された議会において、県民に懐疑的な印象を与えるような判断や議決をして良いとは、ならないことだと考えられます。

次に、議会における「議決責任」についても調べてみましたが、法的に定められているものはありません。地方自治法の法律上に定められた条文、文言でも無く、また全国議長会での議会運営の拠り所の衣文とする、議員必携に記載ある議会用語で定められ、罰則を伴うものでも無いことが確認されています。また、この「議決責任」という言葉が国会でどの程度使われているかを、国会会議録検索で検索してみて場合でも、1件しかヒット『逢坂誠二衆議院議員【平成19年3月1日衆議院予算委員会第三分科会】』しない言葉でありました。

しかし、個人に損失を与える様な、議員の間違った議決責任には、県民感情、道義的責任としても、議決の背後にあるものも含め、議決した責任を、議員は明確にしなければならない責任は、大いに存在します。

何れにしても法的に問われないと言っても、開かれた議会として、県民、市民から信託を受けている議員の議決責任は、大きいと言わざるを得ません。山梨県議会議員としては、規範と成すべき本県議会の議会基本条例2)に記載されている通り、しっかりと議会の場で「公平かつ公正な議論を尽くす」ことであります。熟議もせずに強行突破的に採決したとなれば、山梨県議会 議会基本条例に違うことになる可能性、いわゆる慎重審議を怠っているという、議会人としての道義的責任は免れません。

山梨県議会基本条例全文(平成29年3月29日 制定)

私的には、県民のため賃料を上げることは賛成であります。しかし先ず行うべきは、議会全体としても当事者双方からの意見聴取、その上での議論や熟議、結果が見えるまでの継続的な議事調査、を行っていかなければ、山梨県議会に於いての議会としての責任、存在意義に関わることです。

山梨県議会として会期延長により、全権を託す特別委員会の設置、今後の継続での議事調査、機関競争主義による善政競争での討議、執行部の明確な答弁内容が、審議に於いて重要なことであります。

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1)(判例;責任否定)[平成12年 2月28日 東京高裁 平11(ネ)2724号 損害賠償請求控訴事件]

(地方議会に係る部分については、筆者下線付与)

一 控訴人らは、本件発言の内容は虚偽であって○○○男の発言目的と関連のない誹謗中傷や名誉毀損という違法又は不当な目的の下に行われたものであり、地方議会議員の議会等における発言は一般私人以上には保障されていない等として、被控訴人には損害賠償責任がある旨主張する。

二 本件発言中にはD及び控訴人Aがガセネタを週刊○○に売り込んだ、○○市民新聞は誹謗中傷記事を掲載している、控訴人Aは変質者である、司法試験を受験したが合格できず、濫訴を繰り返す裁判マニアである等とする部分があり、これらの部分だけを取り出して考察すると、本件発言中には表現が不適切であり、具体的事実を摘示してD及び控訴人Aの人格的価値についての社会的評価を低下させるものがあるということができる。

しかし、甲一及び弁論の全趣旨によると、本件発言は東村山市議会議員である○○○男が ・・・・中略・・・ 被控訴人に対して行った一般質問の内容又は前提として、同人の認識しあるいは感じている事実を述べたものであることが認められるから、本件発言は右一般質問における発言目的と密接に関連するものであるということができる。そして、○○○男は右部分が虚偽であることを知りながら、D及び控訴人Aを誹謗中傷しその名誉を毀損するという目的の下に、あえて本件発言を行ったと認めるべき証拠はない。

また、地方議会は住民の代表機関、決議機関であるとともに立法機関であって、右議会においては自由な言論を通じて民主主義政治が実践されるべきであるから、その議員は右機関の構成員としての職責を果たすため自らの政治的判断を含む裁量に基づき一般質問等における発言を行うことができるのであり、その反面、右発言等によって結果的に個別の国民の名誉等が侵害されることになったとしても、直ちに当該議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえず、当然に国家賠償法一条一項による地方公共団体の賠償責任が生ずるものではない。これに関し、控訴人らは免責特権を有しない地方議会議員には右のような法理は妥当しない旨主張する。しかし、民主主義政治実現のために議員としての裁量に基づく発言の自由が確保されるべきことは国会議員の場合と地方議会議員の場合とで本質的に異なるものとすべき根拠はなく、地方議会議員について憲法上免責特権が保証されていないことは右法理の適用に影響を及ぼすものではない。

また、地方議会及びその議員に対する直接民主制や住民に対する直接責任によって議員の発言の自由が制約されるとは解されないし、地方自治法一三二条が言論の品位の維持を定め無礼の言葉の使用等を禁止しているのは議場における討議の本来の目的を達成し円滑な審議を図るためであると解されるから、右規定をもって地方議会議員の発言の自由を制約する根拠とすることはできない(国会法一一九条も同旨を規定している。)。

(判例3;責任肯定→謝罪広告等を命じた)[京都地裁平成24年12月5日]

 

 2)『「山梨県議会基本条例(基本理念)」 第2条 議会は、二元代表制の下、県民を代表し、県の意思決定を担う議事機関として、 公平かつ公正な議論を尽くすとともに、その機能を最大限に発揮して、広く県政全般の 課題を把握し、多様な県民の意思を県政に反映させ、地方自治の確立に取り組むものとする。』

 

 

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