
書道をされている皆さん、または書道に興味のある皆さん、こんにちは! 書の練習と聞いて、どんなことを思い浮かべますか? ひたすら基本点画を練習する、好きな古典を臨書する…など、様々な方法がありますよね。
今回は、私が昔、書道の専門学校の先生から教えてもらった、ちょっとユニークだけど効果抜群の練習法をご紹介します。それは、なんと「筆管の上にコインを置いて、落とさないように書く」というものです。
意外な練習法?その仕組みと効果
この練習法は、筆の軸(筆管)の上が平らになっている筆でなければできません。上部に紐が付いている物が多いですが、筆の中には筆管の上が平らになっているものもあります。
初めて聞いた時は「そんなことで本当に練習になるの?」と半信半疑でしたが、実際にやってみると、これが驚くほど効果的なんです。
1. 無駄な力が抜ける
最大の効果は、運筆(うんぴつ)にどれだけ不要な力がかかっていたかを理解できる点です。筆管の上のコインを落とさないようにするには、筆を握る手に余計な力が入っていると、すぐにバランスを崩してしまいます。自然と、筆の重みを生かし、手首や腕の力を抜いた、軽やかな運筆が身についていきます。
2. 毛の動きが「見える」ようになる
筆の毛は、書き手の意図を伝える大切な部分です。コインを落とさないように書く練習を続けると、筆の毛がくるくると、まるで生き物のように滑らかに動く感覚が掴めるようになります。これは、筆の弾力や毛の動きを最大限に引き出す、効率的で美しい運筆に繋がります。
3. 運筆のリズム感が養われる
この練習は、運筆のリズム感を養うのにも最適です。
「速すぎると減速しづらくて、コインが落ちる」
「低速から急加速すると、また落ちる」
つまり、筆を動かす速度や勢いが不規則だと、コインは簡単に落ちてしまうのです。常に一定の、あるいは作品の流れに合わせた緩急のあるリズムで筆を動かす必要があり、これにより自然と、心地よい運筆のリズムが体に染み込んでいきます。
先生がよくよく仰っていました。
「止まらなーい、走らなーい。」と。
筆と「一体」になる感覚
この練習を続けていると、ある段階で不思議な感覚に包まれます。それは、「書き手が主張しすぎても、またうまくいかない。けれど、自己を消しすぎても、またうまくいかない」という状態です。
まるで、筆が体の一部になるような、あるいは筆と自分が一体となるような感覚。自分の意志だけではコントロールしきれない筆の特性を理解し、それに歩調を合わせることで、初めてコインが落ちずに書き続けられるのです。これは、書において「無心になる」境地に繋がる、とても大切な感覚だと私は感じています。
ぜひ、試してみてほしい
このユニークな練習法は、一見すると地味かもしれませんが、書と真剣に向き合う方にはぜひ一度試していただきたいものです。
もし、筆管の上が平らな筆がなくても、無理に購入する必要はありません。まずは、ご自身の筆で、どのような時に筆に余計な力が入り、バランスを崩してしまうのかを意識するだけでも、大きな気づきがあるはずです。
そして、もしこのコイン練習法で新しい発見があったら、ぜひ教えてくださいね。書道は奥深いものですが、時にはこんな遊び心のある練習から、大きな進歩が生まれることもあります。一緒に書の道を楽しみ、探求していきましょう!