「せっかく道具をそろえたのに、使いこなせてない…」と思っていませんか?


「書道を始めよう!」と意気込んで、筆や硯、半紙などをそろえたものの――
いざ始めてみると、なんだかうまく使いこなせてない気がする。
「元が取れてないかも…」そんなモヤモヤを感じている方も多いかもしれませんね。

SNSやネットで「良い筆が一番」「いやいや硯が大事!」など、いろいろな情報が飛び交う中で、何を信じたらいいのかわからなくなってしまうこともありますよね。
でも、まずは安心してください。どんな道具を選んだとしても、すぐに「元を取る」必要はありませんし、きちんと選べば、少しずつですが必ずあなたの手になじみ、力になってくれるようになります。


---

道具に悩む方へ ― 書道の4つの基本道具を見直してみましょう

筆について

書道の中で一番「感覚に影響する」のが筆です。
ですから、私自身も一番こだわっているのは筆。
作品制作のときには、半紙用の太筆で4000〜5000円ほどのものを使っています。
このクラスの筆は、一言で言うと「素直」。つまりは、書き手の動きに無理なく寄り添ってくれる、バランスの取れた筆です。

毎日の練習では、1500円前後の筆を使っています。
このあたりの筆はコシがしっかりしていて、扱いやすく、消耗しても交換しやすい価格です。
ただし、安すぎるものは、見た目は似ていても質がまるで違うので、避けた方が無難。
筆を長年作っている所のものが無難です。

紙について

紙は練習量に比例して大量に消費するもの。
毎日練習する場合、千枚単位で使うこともあります。

競書や作品制作には、1箱千枚で3000円前後の紙がちょうどよく、墨の乗りや滲みも美しく、書いた字の魅力を引き立ててくれます。
ただし、毎日の練習にこれを使うのはちょっともったいないというときには、もう少し安価な紙でも充分です。表面がツルツルしていて、乾くとしわくちゃになるものが多いですが、練習なら問題ありません。
その代わり、「作品用」には少しグレードの高い紙を試してみると、紙が字を引き立ててくれて、仕上がりに驚くこともあるでしょう。

昔は新聞紙で練習していたこともありますし、目的や用途に応じて、使い分けています。

墨について

私が日頃使っているのは、180mlで360円ほどの墨汁。
作品制作にも使うものですが、香りがよく、かすれもそれなりに美しく出る、使い勝手のいい一品です。
これをケースでまとめて購入し、小分けで使っています。

というのも、墨汁は新鮮なうちに使い切った方が、傷ませずに済むから。
もちろん、1.8リットルやそれ以上の大容量タイプもありますが、開封後の劣化を考えると、小分けの方が安心です。

もっと安いものもありますが、香りがなかったり、かすれの表現が難しかったりして、正直おすすめはしません。
ただし!運筆練習や構成の下書きなら、そういった安価なものでも充分です。
墨のランクを使い分けるのも、立派な工夫のひとつです。

---

「特別な一枚」には、固形墨という選択も

「この作品は気持ちを込めたい」
そんなとき、私はあえて墨を磨ります。

固形墨を使うと、部屋にほのかな香りが立ちこめ、書く前から気持ちが整っていくのを感じます。
さらに、かすれやにじみの表現もぐっと美しくなるんです。

ある程度の実績のあるメーカーのものであれば、どれを選んでも大きな失敗はありません。
むしろ、「自分が選んだ墨で書く」という行為自体が、作品への想いを深くしてくれます。

---

硯について

一番「よくわからない」と思われがちなのが、硯です。
墨汁を使うなら、正直プラスチックの硯でも問題ありません。

私自身も普段は、千円〜二千円程度で買える羅紋硯(らもんけん)を一番よく使用しています。
少し大きめのサイズを選んで、墨汁も固形墨も気兼ねなく使えるのが魅力です。

とはいえ、時には少し良い硯で墨を磨ることもあります。
そんなときには、15,000円ほどの澄泥硯(ちょうでいけん)を使っています。
これで充分すぎるほどです。確かにもっと高価なものもありますが、違いはとても微細で、気になることはほとんどありません。

---

道具は「使ってこそ」。気負わず、でも丁寧に

道具にお金をかけたからこそ、「ちゃんと使いこなさなきゃ」と思ってしまう気持ちもよくわかります。
でも、大事なのは「値段」ではなく、「どう馴染むか」。

上手に使い分けながら、「これがいい」と思える道具に育てていきましょう。
その時間も、書道の楽しみの一つなのです。