内容も知らず、テレビで放映されていた『グリーンブック』という映画を録画した。
録画したのは過去に「グリーン」が付くタイトルの映画は面白いものが多かったというそれだけの理由である。
撮ったことも忘れていたが、見始めたらすぐに映画の世界に入ってしまった。
舞台は1962年のアメリカ南部。
黒人のピアニストと彼に雇われたイタリア系の白人運転手の珍道中。
「観ようかな」と思った人は、これ以上読まないでほしい。
このブログはストーリーをネタバレさせています。
僕は南部地域に属するケンタッキーに半年住んでいたことがある。(明日を笑顔に (晴れた日に木陰で読むエッセイ集) | 山本 孝弘 |本 | 通販 | Amazon参照)
住んでいたのは「リッチモンド」という町だったが、近くに「ルイビル」という町があった。
僕はアメリカの大学の敷地内の寮に住んでいた。部屋は2人部屋だった。
向かいの部屋は4人部屋だった。4人のうち一人はトニー(この映画の主人公と同じ名前だからちょっとこのブログをややこしくしている)という黒人だった。
トニーが「リッチモンドはまだいいけど、ルイビルは人種差別が激しい。以前車の後部座席に乗っていた時は屈んで顔を隠していた」と言った。
驚いた僕は「本当か?」と聞いた。彼はげらげら笑いだした。近くで聞いていた白人のキースも一緒に笑った。
この笑いの意味がわからない。
大げさに言ったのかな?
ちなみにこれがトニーとキース。
映画にルイビルも出てきた。そのルイビルでの場面。
ピアニストとしては尊敬されていてコンサートでは白人の大喝采を受ける黒人ピアニストのドクだが、ひとたび舞台を離れると差別にあう模様が描かれていた。
懇親会の席では会場内の綺麗なトイレにも行かせてもらえない。
彼は紳士である。品格を大切にする。
一方、主人公の運転手・トニーは言葉も汚ないし、すべてがガサツ。
根底に黒人差別意識もある。
今回運転手として臨時で雇用されたのは2か月の期間。
その間にドクはトニーに品格を教えようとする。
紳士なドクがある時こっそり人間臭い悪癖をした。
それが警察沙汰になりトニーが警察官を買収して釈放させた。
「バレたくなかった」というドクに対し、トニーは「人間は複雑だ」と言って気にしない素振りを見せる。
そして二人に友情が生まれてくるのだ。
トニーは既婚者だ。
2か月も家を留守にするので奥さんに手紙を何度か出した。
その文面を読んだドクは呆れた。
あまりにも内容がない。そして文章もひどいものだったからだ。
そして「僕が言ったとおりに書きなさい」と言って彼に筆を取らせる。
その文章が美しく、手紙をもらった奥さんは感動する。彼女の友だちも感激する文面だった。
何度も繰り返すうちにトニーも文章がうまくなっていった。
映画の最後にわかるのが、これは実話を元にした映画だそうだ。
大リーグ初の黒人選手、ジャッキー・ロビンソンは有名だが、いろんな世界でこういう黒人パイオニアは存在したんだろうな。
コンサートツアーが終わり、最後はトニーの家の前でドクと別れる。
その日はクリスマスだった。
トニーの家ではトニーの帰りを歓迎するパーティーがクリスマスを兼ねて開かれていた。
友人や街の人が集まっていた。
家の前に着いた時、トニーはドクをパーティーに誘うのだがドクは辞退して帰る。
久々に家に帰ってきたトニー は温かく迎え入れられる。
しかしパーティーでトニーは元気がない。
ドクのことが気になるのだ。
そこへ引き返してきたドクが現れた。パーティー会場は黒人の登場に一瞬静かになってしまう。
そこへトニーの奥さんがやってきてドクを抱擁する。
黒人に対しては当時はきっとありえない挨拶だと思う。
そこで彼女はトニーに聞こえないようにドクの耳元でこう言った。
“Thank you for helping him with the letters” (彼の手紙を手伝ってくれてありがとう)
この時のドクの笑顔がいい。
最後に温かさが体の芯から湧いてくるいい映画だった。
僕にとって想い出深いケンタッキーが少し出てきたのはなんとなく嬉しかった。
ケンタッキーは何もないけど、時間がのんびり流れてていい所だった。
でも僕が再びあの地を訪れることはたぶんもうないだろうな。
襟裳の春は何もないけど、ケンタッキーは一年中何もない町です。
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