僕は星が好きである。
特別に詳しくはないが、ほんのちょっと詳しい。
冬の大三角はもちろん、冬の大六角もわかる。それぞれの名前も言える。
オリオン座の真ん中にある三ツ星。
その名前もみんなわかる。
でも僕は長年空が見上げられなかったのである。
なぜか。
原因不明の恐怖心が襲ってくるからだ。
理由は全くわからない。
27歳の時にネパールの安宿に泊まった時だった。
夜に安宿を探検していたら、最上階の廊下の端に変な扉があり、そこを開けると階段があった。
僕はまるでイタズラ好きの少年のようにそこを勝手に上がっていった。するとその先は屋上だった。
もう本当にすごい夜空なのである。
「空にこんなに星があったのか!」というくらいの星が輝いていた。
でも僕は怖くて仕方なくて10秒見るのが限界だった。
「綺麗」という感覚はあるのだが、なぜか怖いのだ。
そのことに関してはずっと誰にも言わなかった。
10年くらい前だろうか。
冬に会社を出て従業員駐車場に向かう時にふと空を見上げ、「こんなに綺麗なのにどうして正視できないのだろうか」と改めて思った。
そしてその日、家に帰ってから何もヒットしないと思いながらパソコンで「星空恐怖症」と調べてみたのである。
すると、出てくる、出てくる!
この世には僕以外にもこの恐怖症を持つ人がたくさんいることにとても驚いた。
そして世の中にはあまり人に知られていない恐怖症があることを知った。
「風船恐怖症」とか「ピエロ恐怖症」とか「きのこ恐怖症」などなど。
「星空恐怖症」に似ているのもので「虹恐怖症」なんてものも出てきた。
ところで最初に僕は「長年空が見上げられなかったのである」と過去のことのように書いた。
そうなのだ。
つい数年前から星空恐怖症がぴたりと消えたのである。
これも全くの謎である。
ほんの少し恐怖心が残っているような気がする時もあるので回復度を数字で表すなら「98%治癒」といったところか。
「治癒」という表現があっているかどうかはわからないけれど。
見上げる季節は何と言っても冬の夜空が綺麗だ。
でもこれからの夏の星座も悪くない。
熱帯夜であったも、夏の夜に外に出るのは心地いい。
冬と違って夏は長時間、外で夜空を見上げていられる。
今は長時間見上げられるようになったことが嬉しい。
またあのネパールの安宿の秘密の階段を上って奇跡のような空を見上げたいと思う。
でもあの安宿はもうこの世に存在しないかもしれない。
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