時々、出張で新幹線に乗ることがある。
 「新幹線」と聞くと、僕は今でも0系と呼ばれる旧来のあの姿を思い浮かべる。
 「あの姿」というより、「あの顔」といった方が的を得ているかもしれない。

 初めて新幹線に乗ったのは大学受験で東京に行く時だった。一人で不安だった高校生の僕を、0系のあの憎めない顔が、優しく迎えてくれた。

 

 ずいぶん前のことだが、新幹線マニアの男性の話を聞いたことがある。仮にAさんとする。

 今から約30数年前、Aさんに第一子となる娘が生まれた。思い付いた名前は「ひかり」。彼の妻もその名前には反対せず、女の子は新幹線にちなんだ可愛い名前が付けられた。

 数年後に次女を授かったAさんご夫妻。Aさんは次女に「こだま」と名付けようとした。だが、奥さんがが猛反発。Aさんは泣く泣く次女に違う名前を付けたとのこと。

 それから数年後、JR東海から新型の新幹線が発表さた。そのニュースをテレビで見たAさんは思わずガッツポーズ。次女に付けた名前は、新型車両の名前と同じ「のぞみ」だったのだ。

 小学生の時、音楽の教科書に「はしれ超特急」という歌が載っていた。

 歌詞の中に「青いひかりの超特急 時速250キロ♪」という部分がある。そんなところにも時代を感じる。なぜなら今の新幹線は時速320kmのスピードを出すからだ。ちなみに「音」は秒速で340mの速さだ。

 さすがに新幹線でも勝負にならない。

 そしてその「音」をはるかに超えて速いものは言うまでもなく「光」だ。

 ところで先日、「光」よりも速いものがあると科学者が動画で話しているのを見た。

 

 それは「意識」だそうだ。 

 1光年離れた星でも、その星のことを考えれば一瞬でその星に行けるということらしい。

 僕は最初は今一つ納得できなかった。

 でもその科学者は、「『意識は物理的には移動していないじゃないか』と思われた方は、その思考がすでに3次元世界に縛られている」と語っていた。それを聞いて「そうかもしれない」と素直に思う自分がいた。

 

 きっと意識は光よりずっと速いのだ。

 遠く離れた家族がいる方、遠距離恋愛で淋しい想いをされている方、いろんな方が「距離の壁」に悩まれていると思う。でも遠くにいる人に想いを馳せると、その想いは一瞬で届いている。

 そして僕はすごいことに気付いたのだ。

 

 新幹線も速い順に、「のぞみ」(意識)、「ひかり」(光)、「こだま」(音)となっているではないか!

 

 僕が住んでいる愛知県豊橋市にも新幹線が停まる。新幹線が停まる街に住んでいることはとても有難い。

 基本的にはこだましか停まらないが、1日に数本ひかりも停まる。

 

 でもそんなに急いでいない時は、空いているこだまに乗って僕は東京に行く。京都、大阪方面は東京より近いので、それこそ無理してひかりに乗らなくてもこだまで充分。

 

 思えば、学生時代は新幹線代が払えなくて、在来線で東京から帰ってきたことも何度かあった。何度か乗り換えて5時間くらいかかったかな。

 

 でも、それはそれで楽しかった。

 お金はなかったけど、鈍行の旅はなんとなく心が豊かになった気がした。

 

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