フレアスの剣を正面から受け止めた。
「その程度か!」
 フレアスの剣を弾き、魔人はフレアスを追撃した。魔人の剣をいなして、フレアスの剣が魔人を襲う。しかし、その剣を紙一重でかわすと、魔人は剣を突き出した。フレアスはその剣を半身で避けたが、魔人の剣が方向を変えてフレアスを襲った。
「くそっ!」
 フレアスは、その剣で頬を僅かに斬られた。血が宙に舞ったが、それを気にする余裕がフレアスにはなかった。
「まだまだ!」
 フレアスは後方へと間合いを取るが、魔人が追撃してきた。フレアスは、空中戦から地上戦に切り替えようとしていた。少しでも、セーラスの負担が減るようにと考えていた。
「ちょこまかと逃げるな!」
 魔人はフレアスに幾度となく剣を振っていた。その剣は、全てフレアスにかわされていた。フレアスも、魔人に向かって剣を振ったが、宙を斬るだけで、魔人の体に傷つけることはできなかった。魔人がフレアスにむかって、剣を横薙ぎに振ると、フレアスは一気に降下して足を地に着けた。魔人は剣を止めると、上から剣を体ごと振り下ろした。
「これでおしまいだ!」
 フレアスに向かい、魔人が一気に剣を振りぬいた。フレアスが剣に向かって気を集中させていた。
「目覚めろ!」
 フレアスの言葉に同調するかのように、フレアスの剣が淡い緑の光を纏った。フレアスはその剣を握り、袈裟斬りに剣を振った。
「そんなものは、我が一撃で砕いてやる!」
 魔人の剣とフレアスの剣が交わった瞬間、二人の間に凄まじい火花が散った。
「口だけだな」
 フレアスが魔人に向かって呟いた。フレアスの剣は砕けていなかった。そして、魔人がフレアスの持つ剣を見て呟いた。
「ドラゴンスレイヤーか」
 フレアスの刀身が、緑色の刃の剣へと変わっていた。フレアスは剣を振り上げ、魔人の剣を弾き飛ばした。
「剣が変わったところで、貴様に勝ち目はない!」
 魔人はそういうと、一気にフレアスを追い込んでいった。魔人の剣筋が縦横無尽にフレアスの視界に飛び込んできた。
「くそっ!」
 フレアスは、魔人の剣をドラゴンスレイヤーで防いでいた。だが、守るだけでは、フレアスに勝ち目がないことは、本人が一番理解していた。魔人の剣を受け、フレアスが体勢を崩した。
「そこだ!」
 魔人がフレアスに向かって剣を突き出した。その瞬間、フレアスの体を剣が貫いた。剣を突き刺した魔人の表情が険しくなった。
「どこだ!」
 魔人が突き刺した剣を引き抜くと、そこにあったフレアスの体が、ゆっくりと消えていった。
「騙されないか……」
 フレアスが魔人の上空で剣を下げて呟いた。
「残像と本体くらいの違いに気づかないわけがないだろう?」
 魔人が一度剣を振り、再度フレアスに向かって構えた。フレアスも魔人に向かって剣を構える。二人の間でぶつかる剣気が、周囲にピリピリと伝わった。
「いくぞ!」
 最初に動いたのは魔人だった。僅かに間を置き、フレアスが魔人に向かっていった。魔人の剣がフレアスに向かって突き出された。それをフレアスは寸の差でかわすと、魔人に向かって剣を振った。魔人は横へ飛びそれをかわすと、右腕から魔法力を放った。
「くっ!」
 フレアスはギリギリのところでそれを避けると、剣を回転させ魔人に向かった。遠心力で力を増したフレアスの剣が、魔人の剣と交差した。僅かに力の差で、フレアスが魔人を吹き飛ばした。
「くそっ!」
 魔人は剣を地面に突き立て、体をとどめると、フレアスが向かってくるのを確認した。魔人は、剣を引き抜き足に力を込めて飛び上がった。フレアスは、剣を振ったが間に合わず、魔人の足元を剣が過ぎていった。
「なかなかやるな……」
 魔人はそういいながら、後方の木の枝にふわりと足をつけた。
「お前は、そうやって逃げながら戦うタイプなのか?」
 フレアスの挑発的な言葉が、魔人の怒りに火をつけた。
「貴様は唯では殺さん!!」
 魔人はその場で飛び上がり、剣に魔法力を込めていった。
「なに!」
 フレアスは、本能的に危険を察知した。魔人が剣を振ると、剣に纏った魔法力の刃が、フレアス目掛けて飛んでいった。
「くそっ!」
 フレアスは後方へと飛び、それと同時に炎を吐いた。フレアスの炎と、魔人の魔法力がぶつかると、激しい爆音と同時に衝撃波によって、辺り一面砂煙が立ち込めた。
「やってくれるぜ……」
 砂煙を目くらましに、フレアスは近くにあった木の根元に身を潜めた。
「そろそろ終わるか?」
 魔人の声と共に、背にした木に衝撃が走った。フレアスは、咄嗟に木から離れたが、背にした木は根元から一メートルくらいの場所で上下に切断され、悲鳴のような音と共に倒れていった。
 木の陰から飛び出した魔人が、一気にたたみかけるかのように、フレアスに向かって襲い掛かった。フレアスは、魔人の攻撃を後退しながら防いでいた。
「く……くそ……」
 ギリギリのとこで、魔人の攻撃を防いでいるが、僅かに魔人の剣先のスピードが上回っていた。フレアスの腕や顔に、斬り傷が刻まれていった。魔人が剣を突き出し、フレアスに止めを刺そうとしたが、フレアスはそれを前に突っ込んで避けた。魔人の剣が、フレアスの右頬を掠め、その傷口から血が噴出した。フレアスはそれを気にすることもなく、魔人の顔を蹴りこんだ。
「ぐっ……」
 魔人は、フレアスの蹴りを左腕でなんとか防いだが、その腕ごと横顔を蹴りこまれた。横へと飛ばされた魔人が、肩膝をつきながら地面を滑った。
「貴様……まだそんな力を……」
 魔人の表情が、怒りに歪んでいた。圧倒的優位に立ちながらも、魔人は最後の一撃を入れることができなかった。
「これでも喰らえ!」
 再度、剣に魔法力を込め、魔人はフレアスに襲い掛かった。フレアスは魔人の剣を弾き、そして隙を突きいて魔人に剣を振った。残った力があと僅かしかないことをフレアスは感じていた。
「お前の攻撃にやられる程弱っていねぇー!」
 フレアスは、魔人に叫びながら剣をかわした。魔人は怒りに我を奪われていた。縦横無尽に剣を振り、フレアスを追い詰めていく。フレアスは必死にそれを避け、隙を見ては剣を出した。フレアスが魔人の剣を受け止めると、その身のバランスが崩れた。魔人はフレアスを見て口元を緩めて叫んだ。
「これで終わりだ!」
 魔人が剣を大きく振りかぶった。
「……終わりなのはお前だ……」
 フレアスは口元に笑みを浮かべた。
「くらえ!」
 魔人の視界から、フレアスの姿が消えた。フレアスは地面に手を付き、体を回転させて魔人の腹部を蹴りこんだ。
「くっ!」
 魔人は突然の攻撃に、それを避けることができなかった。魔人は、両腕でガードしたまま、近くの木に叩きつけられ、そのまま地面へと落下した。魔人が体のダメージを確認しながら、フレアスのいる場所を見た。全身で呼吸をするほど疲労しているフレアスを見て、魔人は口元が揺るんだ。
「ハァハァ……俺にここまでダメージを与えるとは……だが! 最後の一歩が届かなかったな!」
 魔人の言葉を聞き、フレアスは、口元に笑みを浮かべた。
「ふっ……。最後の仕上げは俺じゃないんでね」
 次の瞬間、魔人は背後に強大な力を感じた。
「なんだ!?」
 魔人が振り向くと同時に、魔人の体が衝撃波で吹き飛んだ。
「き……貴様ら……」
 魔人は最後の叫びをあげると、煙となって消えていった。
 
「あ……ああ……」
 ニーナの叫びが二人の耳に届いた。
「ニーナ!」
 二人が同時にニーナを見て叫んだ。ニーナは両腕で体を抱きしめ、小さく震えていた。そして、手の隙間に今までなかった黒い模様が浮かんでいるのが見えた。その模様は、徐々にニーナの体に向かって伸びていく。フレアスはニーナに向かって走り出した。
「ニーナ!! 頑張るんだ!!」
 フレアスが叫んだ。しかし、ニーナの体を侵食する模様は、徐々にスピードをあげて体中に広がっていった。ニーナは意識を保つことで精一杯だった。
「う……あ……あぁ……がぁああ……」
 体中を走る模様が、ニーナの体と心を縛り上げ、苦痛を与えていた。朦朧とする意識の中で、ニーナは近づく気配を感じた。
「私に……近づくなっ!」
 ニーナは手にした弓に矢をセットし、近づく気配に向かって放った。
「ニーナ! 俺だ!」
 フレアスの言葉はニーナに届いていなかった。フレアスが、放たれた矢をかわすと、その矢は木々を抉り取って消えた。今までのニーナの矢とは比べ物にならないほどの威力だった。矢を放ったニーナは、体中の苦痛に膝をつき、矢を支えにしながら肩で息をしていた。そして、模様が浮き出てから時間の経った場所から、ニーナの体が黒く変色していった。
「フレアス兄さん……どうしよう……」
 セーラスの傷もかなりのものだった。セーラスは、近くの木にもたれてニーナを見ていた。


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