フレアスは、龍騎士族最後の地へと向かった。魔法力を帯びた物であるならば、フレアスやニーナが気づくはずだと思った。
「やはりここにはないのか……」
 フレアス達がその地を探し回ったが、それらしき気配も目印も見つけられなかった。
「とりあえず次に言ってみよう」
 セーラスの言葉に、フレアスはジャスティから渡された紙を取り出し目的地を見た。
「次は……グランドマウンテンか……」
 そう呟くと、フレアスは二人を乗せるとグランドマウンテンへと向かった。
 
「……ここもか……」
 フレアスが見渡すと、最期の地と同じく、あたり一面を掘り返した跡があった。
「もしかして……既に魔族が手に入れたとか?」
 ニーナがフレアスに言った。
「それはないだろうな。もし、魔族が手に入れたのであれば、世界中で魔族共が暴れまくってるはずだ」
 フレアス達は、グランドマウンテンで夜を明かすことにした。
「ニーナ……お前達エルフは、魔法力は消えたのか?」
 フレアスが聞いた。
「そうね。エルフで魔法力を持っている者はいないと思うわ?」
 ニーナの言葉にフレアスがすかさず聞き返した。
「思う?」
 ニーナは手にした棒で、三人が囲う火の中をかき混ぜていた。焚き火の中から舞う火の粉は、幾度か宙を舞うと、静かに消えていった。ニーナはそれを見つめてからゆっくりと口を開いた。
「エルフはね……人々がどれだけ認識しているかわからないけど、大きく分けて二種類の種族から成り立っているのよ」
 ニーナはどこか寂しげな表情で話していた。フレアスもセーラスも、口を挟むことなく静かに聞いていた。
「でも、生まれつき……っていうわけではなく、あるきっかけが元となって二種類になると言った方が正しいわね。そのきっかけはどうでもいいけど、私達エルフにとって、別のエルフ……つまり、『ダークエルフ』という存在は、エルフ族にとって嬉しい存在ではないということだけは覚えておいてね」
 ニーナのいう『ダークエルフ』……。その言葉は伝承や伝説の中ででてくる言葉だった。
「ダークエルフは、黒魔法が得意な戦闘種族じゃないのか?」
 フレアスが言うと、ニーナはその首を横に振った。
「その考え方が間違っているわ。ダークエルフは私達と道を違えた存在。私達エルフ族の全てと、この地に住む人間を滅ぼすことを目的とした存在なの」
「な……、なんだと!?」
 フレアスは、ニーナの言葉に驚きを隠せなかった。ニーナは、フレアスの態度を予想していたかのように、更に話を進めた。
「私達エルフは、人々の目に見えない精霊達の声を聞き、神の残した最後の遺産……人間を影から守る役目を負ってきた。でも、エルフの全ての民がそれを納得していたわけではないわ。人々を守るため、密かにこの地を侵す魔界の者達と戦い、何人もの仲間を失い、それでも、人々を守るために戦ってきた。そんな一族の中で、その使命に背を向ける者が何人も現れた時、魔界の者とある契約を行った者がいた。魔界の者がこの地に侵略してきた時、契約者には強大な力を与え、この地に生きるものを殺せと……」
「つまり、大きな力を与えるから魔族に力を貸す……ということ?」
 ニーナはセーラスの言葉を聞くと、視線を交互に二人を眺めて言った。
「力を貸すのではなく……全てを支配されるのよ。力も精神も……」
 ニーナの目には寂しい光が小さく輝いていた。
「じゃあ、ダークエルフになったエルフは、自我がないということか?」
 フレアスが聞いた。
「全くじゃないわ。でも、殆どは破壊衝動にかられて、自らの意思でそれを断ち切ることは出来ない……と聞いたわ」
 ニーナはそう言うと、再度焚き火の火種を掻き回した。フレアスとセーラスは、互いに顔を見詰め合った。
「そういうことなら、ニーナは魔界へ行くのは危険じゃないのか? もしダークエルフになったら、俺らはお前と戦うことになるということだろ?」
 フレアスの言葉にニーナは微笑んで答えた。
「大丈夫よ。ダークエルフになんてなるものですか!」
 ニーナはそういうと、一人立ち上がって闇の中へと消えていった。
 
「ダースブレイドは見つかったか?」
 魔界で待つ魔人が言った。
「いえ……まだ見つかっていません。先日ダースブレイドを保護していたドラゴン族が死滅した地を調査したのですが、その地にはダースブレイドの力を感じませんでした。もしかすると、何者かがその力を封じているのでは? と。」
 魔人は、手にした杯を投げ捨てると、杯が粉々に砕け散った。
「それはありえん! 必ずダースブレイドは忌々しい龍騎士族がどこかに隠しているはずだ! グーエン! 貴様の配下をできるだけ地上界へ送り、一刻も早くダースブレイドを手に入れるのだ!」
 魔人がそういうと、グーエンは一言口を開いた。
「わかりました。魔人王ガーエント様……」
 グーエンはガーエントに頭を下げると、ゆっくりと部屋から出て行った。
「一体どこへ……」
 闇の中で光るガーエントの紅き瞳が、地上界を闇に包み込む力を放っているようだった。
 
 異世界へ連れられてから、既にどれだけの日々を過ごしたのかもわからないライハートは、精神的に疲労が限界に近づいていた。
「この頃、魔人が現れる間隔が伸びてきているな……」
 衰弱したライハートが、仰向けになり天を眺めていた。なにもなく、ただ闇が延々と続いていた。
「俺を人質にしたところで、魔界の者の言う通りにするやつらじゃない……。だが奴らは、俺はここに閉じ込められてから人質として使う行動を見せていない。……何かを待っているのか? まだ、俺を人質として使う時期じゃないということか?」
 ライハートは、最後の食事から数日間なにも口にしていなかったので、意識が朦朧としていた。
「随分とやつれたものだな……」
 ライハートの耳に届いた懐かしい声が聞こえた。しかし、意識が朦朧とする中、その声とその声の主とを、結びつけることが出来なかった。
「誰だ……?」
 声の主が言った。
「今の貴様を倒しても面白くない……。まずはその体力を回復させろ。いつか、万全のお前を俺が倒すのだから……」
 声の主は小さな異空間の穴をライハートの背中に広げた。
「な……」
 背中に地面がなくなり、ライハートの体は異空間の隙間を落ちていった。声の主がその穴の上からライハートを見つめていた。そしてライハートは、その声の主の心当たりを小さな声で呟いた。
「シモーネ……」
 シモーネイルスは、口元に笑みを浮かべると、異空間の穴を閉じ、身を翻して闇の中へと消えていった。
「体が……」
 衰弱したライハートの体は、突如空に開いた空間から重力に引かれるように海の中へと落ちていった。
「なんだ!?」
 海の上を漂う一隻の船に乗りあわせた男達が、空から落ちてきたライハートを引き上げた。
 男達は、ライハートが落ちてきた空を眺めたが、雲ひとつないその空を不思議そうに眺めていた。
 
 ナバランの中心にある『世界政府』へ着いたダラスは、最高幹部長であるロウランを尋ねた。
「お久しぶりです」
 ダラスが膝をつき挨拶すると、ロウランは「楽にしなさい」と一言言った。そして、ロウランはダラスに向かって聞いた。
「ライハートは、未だに行方不明なのか?」
 ロウランの言葉に、ダラスは小さく頷いた。
「はい。一向に行方がわかりません。ですが、予想はできます」
 ダラスの言葉にロウランの顔が険しくなった。
「一体どこじゃ?」
 ダラスは、ロウランの言葉に小さく返答をした。
「異空間です」
 ロウランが目を見開いてダラスに言った。
「やはりそうじゃったのか! 前の戦いでの異空間が残っておったのじゃな」
「そうです。ですが、我々にはそこへ行く手段がありません」
 二人は、異空間への移動方法を考えていたのだが、決定的な情報はなにも出てこなかった。
「ところで、ナバランでは魔獣の出現情報はありませんか?」
 ダラスが言うと、ロウランは首を振って答えた。
「いや、ここではそのような話は聞いてはおらん。ライハーンの方はどうじゃ?」
 ロウランの言葉に、ダラスは少し驚いて答えた。
「そうですか。ライハーンでは、大掛かりな襲撃が二度……。なぜ、魔界の者達はライハーンばかりを狙うのでしょうか?」
 ダラスの質問は、魔界の者でしか答えることのできないものだと、言った本人の頭をよぎった。
「わしにもそれはわからぬ。だが、ライハート達が以前の戦いで活躍したことを知っておれば、最初に潰そうと考えるのも必然じゃろう。それ以外に狙う目的でもあれば別じゃが……」
 ロウランの答えは、誰が考えても当然の答えだった。
「わかりました。私は一度ライハーンに戻ることにします。もし魔獣の情報などありましたら、連絡いただけますか?」
 ロウランは小さく頷くと、ダラスに飛空挺を準備した。
「お主の方でも新たな情報があれば、わしに知らせてくれ。わかることがあれば、こちらでも調べるようにするのでな」
 ダラスは頭を下げると、飛空挺に乗り込み、ライハーンへと向かった。


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