「なんだって!」
 ジャスティの話を聞いたフレアスは、事の重大さを改めて実感していた。
『ダースブレイドは、かつて魔界が地上界へ進出する為だけに作られた特別な剣なのだ。相手を倒すことができないわけではないが、その為に使うならば普通の剣の方が効率がいいだけだ。ダースブレイドの特性は、自らの持つ魔法力を空間に作用させ、地上界と魔界との間に空間のトンネルを作り出すものだ。空間の断裂で作られたトンネルは、次第に大きさを拡大させ、最終的にはトンネルを作り出した者の意思の大きさにまで拡大していく。もし、魔界の者がトンネルを作り出せば、巨大な魔法力を持ち、且つ巨大な体を持つ魔獣までもを、この地に送り出すだろう。だが、ダースブレイドを使い両方にトンネルを作り出せる者は、魔法力を持つ者のみだが、それを消すことができるのは、ダースブレイドを持つ者ならば可能だ。そして……ダースブレイドは、魔界でしか破壊することはできない……』
 ジャスティの話を聞きながら、フレアスは頭の中で様々な考えを巡らせていた。その時、後方の扉が開きセーラスが入ってきた。フレアスはセーラスに声を掛けることもなく、ジャスティに向かって口を開いた。
「ジャスティ、今異空間にあると思われる魔法陣は閉じることはできるのか?」
 フレアスの言葉に、ジャスティは少し考えてから頷いた。
『多分だが、出来るだろうと思われる。ダースブレイドは、魔法力に作用すると聞いたことがあるからな。魔法陣も魔法力で生み出されたものだから、ダースブレイドでそれを斬る事は可能だろう』
「それから、魔界でどうやってダースブレイドを破壊するんだ?」
 フレアスの質問に、ジャスティは即答で答えた。
『それはわからん……。ダースブレイド自体をワシは見たこともないし、第一それを破壊する手段がわかっているならば、古の時にそれをやっているはずだ。それに、魔界で戦いを避けて、ダースブレイドのみを破壊することが可能なのか……いや、間違いなく幾度も戦いが起こるはずだ』
 ジャスティの話を聞いていたフレアスは、そのことを理解していた。
「だろうな……だが、このまま魔界の奴らの好きにさせるのは納得できない。俺はダースブレイドを破壊する」
 フレアスがいうと、ニーナとセーラスが顔を見合わせた。
「フレアス兄さん、話がわからないんだけど……」
 フレアスはセーラスの言葉を聞いていなかった。そんなセーラスに、ニーナが話を順を追って説明した。
『ならば、お前は魔界へ行くというのだな?』
 ジャスティがフレアスに聞くと、フレアスは躊躇いもなく答えた。
「あぁ……俺は行くさ」
『ならば、レイヒメと子供はどうするつもりだ? お前が戻ってこなければ、あの二人は生涯悲しみに溺れることになるぞ?』
 ジャスティの言葉に、フレアスは動揺していた。
「行ってきなさい」
 突然背後から聞こえた声に、フレアスが振り向いた。
「自分で決めたことですもの、納得できることをすればいいのよ」
 レイヒメがフレアスを見て言った。
「話を聞いていたのか?」
 フレアスがレイヒメに聞いた。レイヒメはフレアスの言葉に首を振った。
「聞いてないわ。聞こえたのは、ジャスティの言葉からだけ。答えれなかったフレアスに対して、私は言っただけよ?」
 レイヒメがフレアスを見て言った。フレアスは一度頭を抑えてからレイヒメに近づいていった。
「あのな……今度の事は、俺が行くことになれば戻れないかもしれないんだぞ? いや……戻れる保障は全くないんだ……」
 フレアスが言うと、レイヒメがフレアスに対して言い返した。
「なら、行かないで!……って言って欲しいわけ?」
 フレアスはレイヒメの口調に返答できなかった。
「フレアスが行かなかったら、他の誰かが行くの? それとも誰も行かないの?」
「誰も行かないとは……」
 フレアスがレイヒメに圧倒されている姿を見て、扉の傍に居たレオノーラがクスクスと笑い出した。フレアスはそんなレオノーラを睨みつけると、レオノーラは口を押さえて視線をそらした。
「フレアスは、魔界に行くつもりなんでしょ? 理由はわからないけど……」
 レイヒメの言葉にフレアスが目を見開いた。
「なんでわかるんだ……?」
 レイヒメは目元に笑みを浮かべた。
「フレアスの考えることなら……なんでもわかるわ」
 フレアスに向かって、レイヒメは笑みを浮かべた。フレアスはそんなレイヒメを直視することができなかった。
 
『とにかく、行くならば……まずはダースブレイドを手に入れなければならない』
 ジャスティの言葉に、一同がジャスティの方へと視線を向けた。
「ジャスティは、ダースブレイドの在り処をしっているのか?」
 ジャスティは、フレアスの言葉に首を横に振った。
『いや、知らない。知っているのは、当時の族長だけだった。族長の身内ですら知らされない事実だったからな』
 ジャスティの言った言葉を理解できたのは、最初から話を聞いていた者だけだった。
「じゃあ、手がかりは?」
 フレアスがジャスティに聞いた。
『手がかりはある。だが、どこを探せばいいのかはわからない……。魔の属性を持つ者であれば、近くまで行けばわかるだろうが』
「魔の属性を持つ者?」
 フレアスは自分の発した言葉が何を意味しているのか、口を開いてから気づいた。
「邪悪な魔法力を持つ者ということか?」
 ジャスティは小さく頷きくと、続きを話し始めた。
『わかるというのは、ダースブレイドそのものには魔法力が流れているからだ』
「魔法力は、前の戦いでこの世界からなくなったんじゃ?」
 レオノーラがジャスティに向かって言った。
『ダースブレイドは特別なのだ。どんな魔法力を持ってしても、その魔法力を断ち切ることはできない。ダースブレイドは、常に魔界と繋がっているのだ』
「そうか……だから、魔界と完全に繋げる力を持っているんだ」
 セーラスがやっとみんなの会話に追いついた。
『魔人達がダースブレイドを探しているなら、奴らが手に入れる前に……』
 ジャスティの言葉が言い終わる前に、フレアスが口を開いた。
「俺たちが先に手に入れる!」
 セーラスとニーナが、フレアスの言葉に頷いた。そしてジャスティが懐から一枚の紙とペンを取り出すと、そこになにかを書きとめていった。そして書き終わった紙をフレアスに手渡した。
『これが、ワシ等が移動していった場所だ。それを辿っていく事がダースブレイドを見つける手がかりになるかもしれん』
 ジャスティから受け取った紙を手に、フレアスは一通り目を通すとポケットへとしまった。
「とりあえず行ってくる」
 フレアスはそういうと、レイヒメの方へと視線を移した。
「必ず戻って来る……」
 フレアスが言うと、レイヒメがため息をついて口を開いた。
「そんなこと当たり前でしょ?」
 レイヒメの言葉に、今度はフレアス以外のみんなが口元を緩めて笑った。
 
「くそっ!」
 ライハートは縛られて動きが制限されている中、周囲を少し動いてみた。しかし、辺りはなにもなく、進んでも壁に当たることもなかった。
「どこかに出入り口が存在するはずなんだが……」
 ライハートは暗闇に慣れた目で周囲を見渡しても、どこまでも続く異空間の闇が続いているだけだった。
「……どこに行く気だ?」
 背後から聞こえた声に、ライハートは体を捻って魔人を睨んだ。
「やっとお出ましか」
 ライハートが魔人に向かって吐き捨てるように言った。
「ここに閉じ込められている以上、貴様に自由はない。それにその状態じゃ、俺に逆らうこともできまい」
 魔人がライハートを見下ろして言った。
「確かに俺は自由に動けない。だが、お前達が地上界で自由に動ける日が来ることもない! 俺の仲間達が、お前達の野望を必ず阻止してくれると信じているからな!」
 ライハートの言葉に、魔人は口元に笑みを浮かべて言い返した。
「我らの行動を阻止できるものか。もうすぐ我らの望むものが手に入る。そうなれば……我ら魔族に対して人間ごときが抵抗できることもなくなる」
 魔人の言葉にライハートは口を開いた。
「望むものだと?」
 ライハートの言葉に魔人は得意気に口を開いた。
「そうだ。それが手に入れば……我ら魔人は、どれだけの魔法力を持つ者でも地上界へ行くことができるのだ。魔人であろうが魔王であるが……。自由に出入りできるようになれば、貴様ら人間などとるに足らん存在よ」
「それはなんだ……?」
 ライハートの言葉に魔人は答えることなく、闇の中へと消えていった。


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