壊滅してしまったマシウドに集まった彼ら。しかし、感傷に浸っている余裕はなかった。
「ここの調査は終わったんだよな?」
 ダラスが一言言うと、俯いたレイヒメの肩に、レオノーラが手をかけた。
「無理しないで。ここから先は、私たちが行くから……」
 レオノーラが言うと、レイヒメは首を振って答えた。
「ううん、私も行く。魔法は使えないけど、それでもただ見ていることはできないもん」
 レイヒメは、無残に破壊された村を見ていた。
「生存者がいないならば、調査が終わっているなら続ける意味はあるまい」
 ダラスが言うと、アヤカとフレアスが顔を見合わせた。
「ここに生存者はいない。それに、調査そのものも続けても無駄だろう。ライハーンではなにかわかったのか?」
 フレアスがダラスに聞いた。
「丁度ここに来る前に、魔獣の軍団がライハーンを襲うという知らせがあった」
「なに!?」
 フレアスが眉間に力を込めてダラスを見た。そしてフレアスは、ダラスに近づきダラスの胸ぐらを掴んで叫んだ。
「魔獣が攻めてくるというときに、城を抜け出してここへ来たのか!?」
「あぁ……そういうことになるな」
 フレアスは、ダラスの服を掴んだ手に力が入っていくのを感じていた。
「ちょっとフレアス! やめなさいって!」
 レイヒメがフレアスを止めようとした。
「うるせぇ! 俺はこいつに城に居ろと言ったんだ! そしてレオノーラを守れと!」
「フレアス兄さん!」
 セーラスがフレアスの腕を掴んだ。セーラスはフレアスの顔を見ると、首を横に振った。
「だめだよ。こんなことしちゃいけない。ダラス国王だって、ライハートさんが心配なんだ。それに、さっきダラス国王様が言った言葉に、許可をもらったって。前国王様が代わってくれたんだから……」
 セーラスは、フレアスになにを言っていいのかわからなかった。ただ必死になって止めたいだけだった。
「セーラス……」
 フレアスはセーラスを一度見ると、視線をダラスに向けた。ダラスはフレアスに反論する気配を見せなかった。
「くそっ!」
 フレアスはそういって、掴んだ胸ぐらを振り払った。
「今、ライハーンはどうなってるんだ?」
 フレアスが背を向けたまま聞いた。
「シエンとリョウヤ……その他精鋭達が魔獣と戦っているはずだ。それに、ジャスティもライハーンへ戻り、戦いの加勢をすると言っていた。負けることはまずないだろう」
 ダラスが答えた。
「……そうか」
 フレアスは小さい声で答えた。
 
「どれだけいるんだよっ!」
 リョウヤが剣を振るいながら、魔獣が雄たけびを上げ進んでくる森を見た。
「カラエス!」
 右翼の隊長として前線で戦っているカラエスを呼んだ。カラエスの表情には疲労が見えていた。既に四時間も戦い続けている為、その剣には当初のキレが失われつつあった。
「なんでしょうか!!」
 魔獣の巨大な爪を剣で捌きながらカラエスが答えた。
「無理はするな! 敵の数が多すぎる!!」
「大丈夫です! それより後方の部隊が引きすぎている気がします!」
 魔獣を両断すると、直ぐに次の魔獣が襲い掛かる。初めて体験する本当の戦いに、カラエスの精神的疲労は極限に達しているはずだった。しかしカラエスは、一向に引こうとしなかった。
「ケイエン! カラエスの支援に向かえ!!」
 リョウヤは、後方で戦っているケイエンに向かって叫んだ。
「わかりました!」
 ケイエンは、手にした剣で魔獣を倒すと、カラエスの方へ向かって走り出した。
 
「そろそろリョウヤ隊も限界に近いかもしれないな……」
 シエンは手にした剣が光りだし、一気に振り抜いた。
 周囲にいた魔獣が、閃光によって斬り伏せられた。魔獣たちはそれでも次々とライハーン城下を目指して前進していた。
「シエン殿!! ここは任せてください!」
 シエンはソウマの顔を見た。ソウマは、シエンと視線が合うと、小さく頷いた。
「わかった。ここは任せる!」
 シエンはそういうと、剣に力を込め、前方に向かって剣を振り切った。
「瞬光斬!!」
 前方の数体の魔獣が一気に斬り裂かれた。シエンはそれと同時に前方へと駆けた。シエンの通った場所には、魔獣の姿がなく、まるでシエンの為に道を作ったかのようだった。シエンは振るう剣で道を切り開いていった。
 
「リョウヤ君! 無事か!?」
 魔獣の群れの奥から響く声が聞こえた。
「シエンさん?」
 目の前から迫る魔獣を剣で斬り、声の聞こえた方角を見た。魔獣の群れの中から光る閃光が見えた瞬間、視界が開けた。そこには剣を片手に魔獣の群れの中を突っ切るシエンの姿があった。
「シエンさん!! 俺は大丈夫ですが、門下のカラエスが疲労の限界に近いようです!」
 シエンは周囲の魔獣を相手にしながら、リョウヤ隊の動きを瞬時に見渡した。
「わかった、そっちは俺が加勢しに行く!」
 そういってシエンは、カラエスのいる右翼側へと進んでいった。
「ありがとうございます!」
 シエンの背中を見送ると、前方と左側からリョウヤに向かって同時に魔獣が襲い掛かった。
「ちっ!!」
 素早く車椅子を移動させ、手にした剣に力を込めた。
「真空斬!!」
 車椅子を回転させ剣を振るうと、周囲の魔獣がその真空の刃の餌食となった。魔獣は黒い煙となって消えていった。
 圧倒的物量の前に、ジワジワと攻め込まれているが、リョウヤ隊を始めシエン、ライハーン軍は城門前まで攻められる気配はなかった。
 
 
「この地に残った最後の魔導師の地……マシウド。こんな形で地上から消えるとは……」
 フレアスが感慨深げに呟いた。
「魔法力が消えた時、既に魔導師の地と言えなかったけど……それでも、こんな酷い仕打ちはないわ! こんなことをするやつを許せない!!」
 レオノーラの表情には、激しい怒りがみえていた。フレアスは、そんなレオノーラにこの先の戦いに参加させるわけにいかないと思っていた。怒りは冷静さを失わせ、冷静さを欠いて戦えば無事では済まない。最悪、命を失いかねないと考えていた。それは、レイヒメにも言える事だった。この地に幾度となく足を運び、自分と同じ境遇の人々を導いてきたのだから。表には出していないが、レイヒメ自身も怒りを感じているはずだった。
「とにかく、この地から移動しなければな。ライハーンも心配だが、他の地にも魔獣たちが現れないとは言えない。情報は多いほうがいいし、それによって先手を打つこともできるかもしれない。ライハーン以外の都市……キライディとウォル、それに世界政府のあるナバランにそれぞれ誰かに居てもらうのがいいだろう。別行動自体が危険を伴うが、それでもここにいる奴らはそれなりの経験があるはずだ。それから、俺とセーラス、それとニーナは別行動をとろうと思う」
 そういうと、アヤカがフレアスに向かって言った。
「ちょっと! なんでニーナなの? 普通そこは私が一緒に行くべきじゃないの?」
 アヤカが頬を膨らませてフレアスに言った。
「俺なりに考えた結果だ。アヤカよりニーナの方が一緒に行動しやすいと思ったからさ」
「なにそれ? 私と一緒だと行動しにくいといいたいわけ?」
 アヤカがフレアスに詰め寄って言うと、フレアスはジリジリと後退していった。
「ちょ……ちょっとまてよ! アヤカにはキライディを守ってほしいんだ。それに……あそこはエルフの街も近いからニーナだけじゃ心配にならないか? それを考えて、アヤカにはキライディをお願いしたいんだよ!」
 フレアスは、なんとかアヤカを離したくてキライディとエルフの街を持ち出したのだった。アヤカはエルフの街という言葉を聞いて少し考え込んだ。
「わかったわ。とりあえず、フレアスの言う言葉に乗ってあげるわ」
 そう言って、アヤカはフレアスから離れて行った。
「アヤカはキライディ近辺、ダラスはナバラン、レオノーラとレイヒメはウォルでいいか? 各自調査後、ライハーンに集合と言うことにしよう」
 フレアスが言うと、それぞれ頷いて答えた。そして、その場を離れ、各自の担当の街へと向かった。
「セーラスとニーナは、俺と共に行動する。少し気になる場所もあるしな……」
 フレアスの胸中に、嫌な感覚がまとわりついていた。


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