年明け早々に発出された緊急事態宣言は、3月21日をもって関東1都3県においても解除されました。私が活動する埼玉県では2か月半という長い期間にわたり、不要不急の外出自粛、在宅勤務、飲食店の時短営業、イベント開催制限など感染拡大防止のために様々な制約が求められてきました。(もちろん、宣言解除後も、感染再拡大防止のためにこれらの制約が無くなるわけではありません。)

 昨年8月から政治活動を再開した私は、昨年末までは、感染症対策に注意しながら訪問活動や密を避けての会議、意見交換などを行ってきました。しかし、緊急事態宣言下では、これら活動を自粛せざるを得ないと判断し、訪問活動や人が集まる行事を原則中止することにしました。人と話すことが大切な仕事にもかかわらず、それが出来ないのは私自身辛いことでしたが、私の活動自粛はスタッフの生活にも影響を与えました。

当方の事務所には、現在スタッフが2名います。Aさんは主に事務、Bさんは訪問活動・行事などの際の車の運転・随行が主な仕事です。緊急事態宣言下、私の外での活動が原則無くなったことにより、事務のAさんは平日週2日は休業、Bさんの1月の仕事はほぼゼロ、つまり休業になりました。私が外で活動する時のサポートがBさんの仕事ですから当然のことでしょう。
 当事務所の状況はまさに「新型コロナ感染症の影響により、事業活動の自粛を余儀なくされた事業主(雇用主)」であり、2人のスタッフは「雇用主の事業活動自粛による休業」ではないだろうか、と考えました。そこで、当事務所においても雇用調整助成金が適用されるのではないかと考え、さっそくハローワークに問い合わせし、申請してみました。

 

 結論は、当事務所は対象にならない、とのことでした。理由は、売上高または生産量などの減少が証明できないからだそうです。当事務所は、政治団体という非営利団体のため、売上げを得るために事業をするわけではなく(むしろ逆)、売上高(当事務所では収入)と事業の関係性はそもそも営利企業とは異なるわけです。この度のスタッフの休業は、事業主の売上や生産量とは無関係に、事業主が活動自粛を余儀なくされたことによる休業と言えます。雇用調整助成金制度は民間企業である事業主の経営状態が悪くなった時の失業防止策という発想なので、この度の当事務所のように、財政状態的には事業は行えるが法令に沿って事業を自粛したことによる職員の休業は、制度の趣旨から外れるということでしょう。雇用される側にとっては、“新型コロナの影響で休業となり給与が減った、生活に影響が出た、もしかしたら失業してしまうかも”という点では、民間企業勤めでも非営利団体勤めでも同じことのような気がしますが。ともかく、ハローワークの担当者には親切に対応して頂きありがとうございました。誤解のないように補足しますと、当事務所には税金は投入されていません。また、当然のことですがスタッフは国の税金から給与が支給される公設秘書ではありません、念のため。

 

 雇用調整助成金は、失業を防⽌する雇⽤維持対策として、これまでもリーマンショックなど経済危機において活用されてきましたが、政府においては昨年2月から「新型コロナウイルス感染症特例措置」を創設しました。今回ハローワークに問い合わせた時も感じましたが、従来よりもかなり柔軟に対応しているようです。2021 年 1 ⽉ 15 ⽇時点で、申請件数は累計で 236 万件、⽀給決定 額は累計で 2 兆 6,042 億円、幅広い企業や事業主が助成⾦を活⽤しています。リーマンショック時の助成⾦⽀給額実績の年度ピークは 2009 年度で 6,535 億円だったのに⽐ べて、今回のコロナ禍では著しく急増していることがわかります。完全失業率について、2020 年 4 ⽉以降で最⾼3.1%(10 ⽉)、直近の 11 ⽉は 2.9%と、リーマンショック後の最悪の数値 (2009 年 7 ⽉ 5.5%)に⽐べて低い⽔準にとどまっています。雇⽤調整助成⾦が未 曾有の経済危機の中での失業防⽌という点で⼤きな効果を発揮していると言えます。*1

 他方、問題点も指摘されています。リーマンショック時と比較してもこれだけの件数・金額が活用されているわけですので、資金の涸渇化と財源不足が問題となります。事業主が負担する雇用保険料の積立金だけでは足りず、緊急的に失業等給付の積⽴⾦からの借⼊や⼀般財源の投入が行われることになりました。雇用調整助成金の財源である雇用安定資金の積立金は、平時には積上過ぎが指摘され、私自身も過去には過剰残高を指摘し、雇用保険料の引き下げを提案したこともありましたが、今回のような非常事態となるとたちまち枯渇します。雇用調整助成金の一般財源投入の制度化も検討すべきではないでしょうか。

 もう一つは、失業防止策の出口の問題です。雇用調整助成金は失業防止のためのカンフル剤として効果を発揮しますが、これが長引くと、副作用が発生します。経済の活力を阻害し、新しい産業育成を停滞させ、また、モラルハザードを起こすことも危惧します。新型コロナという感染症の出現によって、これまで起きつつあった社会・経済の変化が加速度を増しています。日本社会・経済が勢いづいた変化の波にしっかりと乗れるように、休業補填と同時に、成長分野などへの労働移動対策も強力に実施すべきと考えます。

 

*1:「雇⽤調整助成⾦の効果と課題 - 新型コロナウイルス感染症特例措置をめぐって -」(藤原 幸則、2021.01.19、APIR Trend Watch No.70、一般財団法人アジア太平洋研究所)