「とりあえず飯食お。先生待ってたら朝も食い損ねた!」
同じテーブルにつくのも犯罪になるのでは…?
などと怯えていると、「?」と屈託のない眼差しを向けられる。
「んまいぞ?なんてったっておいらが先生のために作ったんだから!」
笑顔がふわりと咲いて、周りがぱっと色がつくみたいだ。
何だろう。
一度受け入れてしまったから情が移っているのか、どうも拒み切れない…。
こんなクソビッチ野郎なのに…。←口悪い
「あ、ありがとう。」
智くんの前の木の椅子を引くと、床をすりギッと音が鳴る。
因みに相葉くんは今日は学校は休みらしく、壊れた携帯だけ置き『風間ぽんとキミちゃんが待ってるから!』とニコニコ去っていった。
本当に水没したスマホをこの19歳に直してもらおうと思ってたんだな…。
友達って言ってたけど…どういう関係なんだろう。
テーブルに並べられたのは、質素な和食。←質素は余計
俺朝は生ハムサラダとかクロワッサンとかコーヒーなんだけど…
(親父には勘当されて口きかない生活だったけどそのまま実家に住んでたし、家政婦が全部用意してくれてたから)←それは勘当と言いません櫻井さん、ただの絶交です
まぁいいか、一文無しの身なんだから大きいことは言えまい。←お金を借りて家に帰ってすぐに返すという発想が1ミリもない
「じゃぁみそ汁から…」
「先生!忘れてるよ!!」
「え?」
お椀を持ち上げていたのをことりと置く。
「ほら、手ェ合わせろ!」
言われるがまま掌を合わせる。
「頂きます!」
「…あ、イタダキマス…」
そうか、忘れてた。
こんなん、小学生位までがやる儀式みたいなもんだと思ってたのに。
「家で叱られなかったの?」
「あ…うん、両親忙しいし、別々に食べてるから。」
フォークとナイフの使い方やフィンガーボールみたいな、テーブルマナーなら散々叩き込まれたけどな。
「そっか。でもおいらは怒るかんな!食いモンに感謝しないで食べるなんて!」
…感謝?
食い物に??
まぁいい、言えばいいんだろ。
「気をつけるよ。」
「ん、なら食おう!あ~腹減った!」
むしろそんな口をきこうものなら親に叱られてたけど、と思いつつ、
先程途中に終わったみそ汁をずっと啜る。
「…うんまっ!?!!?え、ナニコレ。嘘?なんつーか…五臓六腑に染み渡るっつーか…」
「んははっ、大袈裟!(笑)」
「いやマジで。何だろ…何が違うんだろ…。」
「まぁ、出汁は気を使ってっけど…あとそのアサリは昨日採ったばっかだし、野菜もさっき庭から持ってきたばっかだしな。」
智くんがだし巻き卵に手を伸ばす。
俺もそれ食いたい!
真似るようにふわっふわの卵に手を伸ばすと、口の中でじゅわっとあまじょっぱい出汁が広がる。
「…うんめえぇぇぇ…」
「あはははは!先生、すっげぇ美味そうに食ってくれるからおいら嬉しくなっちゃう。二日酔いなんだからしっかり食って元気出せな?」
「はい!!」
何でかな、年下なのに従っちゃう感じ。
この人の…オーラ、みたいな。
松本から醸し出されていた芸能人オーラとはまた違った…有無をも言わせぬ、人を引き込むような何か。
どしっと構えてて頼りがいがあるのに、どこか放っておけないような…。
この感覚は一体何なんだろう。
…ま、どうでもいいか。
仕事を無事にこなし金さえ払ってもらえれば即帰るだけだ。
出された朝食は全て平らげた。
朝の和食、ありだな。
帰ったら家政婦に作ってもらおう。
「じゃ、先生はこっち使って。」
「…マジっすか…」
まさかの…釣り。
俺こういう時間を浪費するようなこと死ぬほど向いてないんですけど。
防波堤…っていえばいいのかな。
コンクリが一本線に伸びてるとこに腰かけ、2人並んで釣り糸を垂らす。
「こんなとこ…釣れんの?」
「アジかサバなら結構この辺釣れんだよ。波の影響受けにくいから時化てる時はいつもこの辺。集まりやすいんだ。」
「へぇ~…」
「……。」
しーん。
う…ほら、沈黙じゃねぇか……。
「…あっ、シケル…って何?」
「あぁ、時化っつーのは荒れてるってこと。今日風あって波高いでしょ?ちゅーか先生海初めて?泳げる?」
「あ、泳げるけど海はほとんど来たことないかな。肌べたつくし砂が足につくじゃん、だから基本プール。家にもあるし。」
「へ~金持ちなんだね。」
「まぁ…人並みに。」
「………」
「………」
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーっやっぱ無理!
何この無駄過ぎる時間?
スーパーで魚買って食や良くね?
釣れるかもわかんねぇのにのんびり水平線眺めてる場合じゃないんだっつの!!
俺は一刻も早くスランプ抜け出して東京に帰らないといけないのに!!!
でも…恩義を感じてる上無一文で住まわせてもらうからには文句は…
せ、せめて会話だけでも……
えーと、共通の話題………
「あ、えーと…智くんて本とか読むの?」
「ん?あー…漫画なら好きだよ。」
うっ…俺漫画読まない…
「じゃぁ…好きなテレビは?」
「テレビねぇよ、ウチ。ラジオならあるけど。」
マジか!?!
こんな何もない島(推測)で一体何して過ごしてんだよ!!
「えっと…音楽とかは…?」
「あ、音楽は好き♪」
!!!
やっと見つけた!会話の切り口っっ!!!
「な、何聴く?」
俺の作詞したのを聴いてくれてたら話題GET!
違くても大抵のヒットした曲なら話広げられる!
作詞家になるにあたってしっかり曲について勉強したからな!!
「おいらが聴くのはぁ~民族音楽!アフリカとかすげぇおもれぇぞ!部族によって楽器が違ぇんだけど~」
撃 沈。
無理、この人と合う話なんてない!!
何一つ違うもん!!肌の色すら!!(※ただの日焼けです)
「そーいや先生、スランプつってたっけ。」
うぅっ…
歯に衣を…着せましょうか…?_| ̄|○
「…書きたいものが…書けないんだよ。」
色んな意味で。
ってこんなことこの人に言っても仕方ないんだけど。
「何で?書きたいものがあるんでしょ?」
「書くなって言われてんだよ。アンタにはわからないよ、作家のことは。」
「ん、わかんねーや。書きゃいーじゃん。どうして誰かに縛られるの?先生は誰のために書いてるの?」
「…誰…って…ファンの…」
「先生は、ファンじゃないの?」
「…は…?」
智くんが首を傾げながらルアーを変える。
ついでに俺のも。
「先生はさ、一番のファンである先生のために書いてあげないとダメだよ。」
一番のファン…?
…意味がわかんねぇ。
俺はただ、仕事としてやってるだけで。
「ファンとかじゃねぇから。」
「自分の仕事、好きじゃないの?」
「好きだよ、それは好き。作家も作詞家も…書けなくなって尚、向いてるとすら思ってる。だけど契約とか色々あるわけで…」
「あーもぉ、言い訳ばっかだな?(笑)先生は作詞家としてふりーっちゅーやつになったんだろ?おいらでも知ってんぞ。フリーって、『自由』じゃん!」
「フリーだけど、そんなわがまま通るわけねぇだろ!契約とか…作家に関しては会社と契約してるし、それはチームみたいなもんだし、俺にはファンが大勢いて!立ち止まることも求められたものを書かないことも許されねぇんだから!!」
「それ、わがままか?」
「わがままだろ!色んな人を裏切るわけだから。」
「ほんじゃー先生の人生はどうなんの?」
「…え?」
「会社がどうとか、チームとか。そりゃ大事だよ。人と人の繋がり。ほんでも、それはまず一人一人の人生の上に成り立ってる。
ファンがいるっちゅーのはすごいことだとは思うけど、ファンがいちゃ休んじゃ、逃げちゃいけねーの?先生が迷ったり、悩んだり、立ち止まったりしたら…その度無理矢理血反吐はいて書き続けてくもんなの?
ファンはそれを望んでんのか?苦しみながら続けて、自分の満足いく物が作れなくて…それが先生にとって、一番大事なことなんか?」
…何だよ。
何なんだよコイツ。
何も知らないくせに。
俺の背負ってるもんも。
俺のいた世界も。
何も知らないくせに…!
中途半端になっちゃったけど
私は、こういう話が書きたいんだよーーー
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