あ~っマジで勘弁してくれ!
まだ心臓がバクバク言ってる。
これ、現実だよな?
相葉くんが…スーパーアイドル?
そりゃさ、そう言われてみれば、違和感は全くないんだけど…
あの太陽みたいな笑顔とか、どう考えても一般人のそれではないわけで。
オーラ、みたいな。
人を幸せにすることの出来る人の、優しく明るい光。
そっか…相葉くんはアイドルだったんだ。
注目されて恥ずかしかったしすげービビったけど…
うん、なんか、めっちゃ納得!!
暫く放心してたけど、人の流れに身を任せるままお昼ご飯を食べて、すぐに『イベントM』の時間になった。
これまた頑丈な警備を通り、同様に『特別枠』として迎えられた。
特別枠って何なんだよ、一体。
そのリストに名前書いた記憶ねーぞ!
紫のパスを首から下げ、スタッフに促されて辿り着いたのは…
ああ、ファッションショーだ。
うわ~、すげぇきれいな人がいっぱい!
ひらひらしたドレスは微かな風に靡いている。
松本さんは服が好きなんだな。
きっとこの会場のどこかで見てるんだろう、と探してみるけど、上手く見つからないままショーは進んでいく。
それでも、単純に楽しかった。
服は絵と少し似ている。
勿論服を着るとか選ぶのは違ったセンスだから、そっち方面はからっきしなんだけど。
どの色をどこに足して、どの部分をどの素材で飾り付けして。
完成したものは芸術。
デザイナーさんには怒られるかもしれないけど、俺から見たらそれが絵画のようなものだ。
…絵、描きたいな。
右手がうずうずしてきた。
世界を切り取ったり曖昧なイメージを形として生み出すのは、孤独で楽しい作業だ。
想いを込めてペンを走らせることも、見たそのものを筆に込めることも。
最近、あんま描いてなかったから。
夢を諦めて人形を塗る単調な世界に身を置く俺は、少しずつ絵にかける時間を減らしていたなと思い返す。
そんな時。
「では本日のショーの目玉!雑誌『Arashi』の大人気スーパーモデル、松本潤さんに登場して頂きましょう!どうぞ~!!」
……は?今なんつった?
わーーーーっと拍手の渦。
俺の周りの観客はそれを楽しみに来ていたのだと言わんばかりに大興奮。
「…マジかよ…」
モデルウォークで出てきたのは、勿論顔の濃ゆいあの人。
「モデルだったんだ…」
通りであんな派手な服。
あの日の服装も派手だったけど、流石に今日のスパンコールの紫のロングコートに大きなつばのハットはなかなかレベルが高いのではないだろうか。
素人目には何がどうとかわかんねーけど。
ちゅーかそんな服、恥ずかしくて街で着れないっつーの。
…そう思いながらも、目が釘付けになって離せない。
だって、似合ってんだもん。
こんな文句ばっか出るのに、松本さんが着るとすげぇ自然で。
一つ一つ見ると死んでも着れねーわ、って服なのに、
松本さんが着こなしてるとすげぇかっこよく見える。
ツカツカと歩く姿は、先程までモデルの女の子たちが踵の高い靴で歩いてたどの姿よりも様になっていて。
『俺を見ろ!』って主張してるのに、嫌味がなくて。
自信に満ち溢れてるその姿は、多分色んな努力の上に成り立つものだと素人ながらに思う。
その姿は、孤高に咲く、何にも靡かない一輪の花のようで。
──ぞくぞくする。
プロだ…って納得する。
描いてみたい……この人を!
センターの一番目立つところでポーズを決め、にっと笑った松本さんは…
ばっと派手なコートを脱ぐ。
わっ、と歓声。
俺はあんぐり。
だって、コートの下に何着てたと思う?
「わあ、これまた斬新なTシャツですね!それは新作…ですか?ブランドは…?」
松本さんが元の位置に戻ると、司会の女性が目を丸くしてTシャツを指さす。
「ノーブランド。俺が注目してる無名のイラストレーターから譲ってもらったんですよ。かわいいっしょ?」
可愛い~!ほしい~!!と客席から声が上がる。
ば、バカじゃねーの!
んなん、着こなしてるの世界でお前だけだわ!!
俺ですら着こなしたことねーわ!!!
「無名の…?」
「多分その辺に…おい智!いるんだろ、出てこい!ステージ上がれ!」
出れるわけねーだろ!!!!
慌てて顔を隠して抜け出した。