「おいしかった~!」
雅紀が手をぱちんと合わせ、ごちそうさまでした!と元気よく叫ぶ。(何故こいつはいちいち叫ぶんだ)
「んふふ、ほんと?よかった。」
「うん!俺カラアゲだーいすき!かーちゃんのよりおいしい!!」
「あはは、そんなことないよ。どのおうちもかーちゃんのが一番美味しいモンだから。」
「でもほんとにおかーさんのよりおいしーよ?」
潤が頬にマヨネーズをつけたまま大野さんを覗き込む。
「大野さん、マジで美味いっすよ!」
本当に。
大野さんの作る飯はめちゃくちゃ美味い。
姉貴はさほど料理が上手い訳では無い。
だからこいつらの言うことは多分心からの本音だ。
「んふふ、ありがとうございます。潤くんがたくさん手伝ってくれたからだね!」
大野さんが優しく潤の頬を親指で拭う。
潤は照れくさそうに満面の笑みだ。
モヤッ。
あ、まただ。
もしや、俺の事大好きだった潤をとられたジェラシー…?
あーアホらしい!
心の狭い自分が情けない…。
「潤はおりょーり、ボクはセンタク、まーくんは………まぁ色々てつだってましたから。ほら、ウチしんぐるまざーだからさ、できることはしないとね。」
…え、俺の時何も手伝ってくれてなかった気がするんですけど…?
「ちょっと和!俺おそーじ当番!!」
「ちらかし当番のまちがいでしょーが。」
「こんにゃろっ、いっつもにーちゃんのことバカにして…!」
「きゃー!たすけてー!」
ケラケラ笑いながら走り回る2人に「走んな!」と一喝するも、ドタドタと走るのをやめない。
「おい、マジでそろそろやめねーと…!」
言ったところで止まるわけがないのが子ども。
潤も混ざってわちゃわちゃやり始めて、俺の怒鳴り声なんぞガン無視だ。
…やべぇかな、流石に…
マンション暮らしで付き物の嫌~~なイベントが…
ピンポーン。
「…こんばんはー。」
独特の声に、ゲッと声が漏れる。
「こんな時間に誰ですかね?」
大野さんが皿を片付けながら不思議そうに首を伸ばす。
「…心当たりが1人…。」
下の階の住人だ。
項垂れるしかない。
1年ほど前、翼が来ていた時に酔ってダンレボして怒鳴られたばかりだと言うのに。
「…大丈夫です?」
「大丈夫…いつかこんな日が来るとは覚悟してたから…」
よろよろと玄関に向かう。
鍵を開けチェーンを外すと、勢いよく扉が開かれる。
「あのねえ櫻井くん!いい加減にして貰えないかな?最近我慢してましたよね俺?!昨日だってすごいバタバタしてて!寝れないんだけど!!!」
「…すみません。」
「いい大人が今回は何を…!」
「「「こんばんはー!」」」
俺の後ろからニョキっと顔を出した3人に、小栗さんがギョッと目を見開く。
「え、何?櫻井くん子どもいたの?」
「あ、いえ…姉の子供でして…色々あってずっと預ることに…」
「あ~…そういうこと。まぁ、色んな事情はあるんだろうけど。俺だって生活してるわけだからさ。そういう最低限のルール…」
「あのう…」
ひょっこり、大野さんまで顔を出した。
人口密度が凄いことになっている。
俺ん家の玄関。
「……こちら様は?」
「あ、家政夫の大野と申します。あの…足音がご迷惑ということで…すみません!日中や昨日の夜はおいらしかいなくて、櫻井さんみたいに叱ってなくて…だからおいらが悪いんです。本当にごめんなさい。」
そんなん、大野さんが悪いわけない!
深深と頭を下げる大野さんを慌てて止めようとすると、
「えっ」
光の速さで違う所から手が伸びた。
大野さんの肩を両手でがしっと掴み身体を起こす…小栗さん。
「いやいや、仕方ないですよ!子供は走り回ってこそです。元気な証拠で嬉しいです!あなたのおかげでこんな可愛い子達が明るく居れるんですから!大野さんの面倒見が素晴らしいんでしょうね?」
…は?
え、誰これ??
何そのキラキラ笑顔???
「…おいら、一昨日からなので何も…」
「いーや!この2日で見違えるようになりました!あなたのおかげです!!」
「は、はぁ…???」
待て、お前今こいつらがいること知っただろ?!
見違えるようにって何だよ!
昨日のことで文句言いに来てたのお前じゃねーか!!
つか!
なんで大野さんの両手を握ってんの?!
「いや~櫻井くんもこんな可愛い人雇ってるなら教えてくれればよかったのに。」
何でだよ!!
『俺実は可愛い家政夫雇ったんですよ~』って下の階に一度怒鳴り込みされたことがあるだけの知り合いの男に報告ってどんな状況だそれは?!
しかも、可愛いって、男な!!
まぁこの人、可愛いは可愛いけど…。
「僕、小栗っていいます。よろしくお願いしますね♪」
「あ…はい、よろしくお願いします。たまにうるさくなっちゃうかもしれないんですが…」
「いやいや!むしろ聞かせてください、爽やかな子どもの足音を!嬉しいなぁ、生活が潤う気がしますよ、ははは!」
誰だ、誰なんだお前は!!
言ってること支離滅裂過ぎるの気付いてますかオニイサン!!!!
「よろしくね、皆!シュンくんって気軽に呼んでね!…あ、大野さんも!」
俺は?!?
「あ、はい!ありがとうございます。」
「シュンくん、俺らいっぱい走ってもいーの?」
「いーの…?」
雅紀と潤が小首を傾げてしゅんく…小栗さんの裾を引っ張る。
それあざとい女子がするやつな。
お前ら案外天然でそういうのしちゃう奴なのね。
「あ…まぁ、適度n」
「やーーっさしいなぁシュンくんは!ねぇ、智?シュンくん、アシオトだいすきなんだって!」
「い、いや大好きっていうk」
「わーーーほんとにいいゴキンジョさんに会えてうれしいよね!ねぇ智!」
和の容赦ない被せの攻撃に小栗さんがタジタジしている。
わかる、わかりますよ…
そいつね、我が身内ながら怖いんすよ……。
「うん、嬉しいね!ありがとうございますシュンくん♪」
「い…いえ…。」
つーかめっちゃ照れてるけど何でそんなに照れてんのこの人!!!
……でも……
シュンくん…って。
俺は櫻井さん…なのに……?
って、何で張り合ってんだよ!
家政夫さんの呼び方に何を期待してるんだ俺は!!
「じゃー櫻井くん、また遊びに来るねぇ。」
お前がいつ遊びに来た!!!!!!
二度と来んな!!!!!!!
「では大野さん、おやすみなさい!」
「おやすみなさい~!」
パタンと閉まる扉に、はぁ~~っと溜息。
なんか…嵐の日々な予感…。
「あの…櫻井さん、勝手なことしてごめんなさい。」
「そんな!助かりました、ありがとうございます!!」
大野さんが心配そうに頭を下げるから、今度こそ俺が慌てて肩を掴んで顔を上げさせる。
…華奢…。
肩の細さにドキリと心臓が跳ねる。
「でも…んふふ…響きが似てますね。」
「な、何が?」
「シュンくんと、翔くんって。」
ドキーーーーン!
突然の名前呼びに、身体中ぶわっと変な汗かいた。
「そ…うです、ね。」
くるりと方向を変え、玄関のチェーンをガチャガチャとかける。
……いやいや。
男に名前呼びされた位で、何そのドキーンって。
意味わかんねぇし。
だから何だよ、っていう。
うん。
つーか響きそれ程似てねぇ。
落ち着け櫻井翔。
俺はCOOLでSOULなHIPなPOP STAR,イェイイェーじゃねぇか(落ち着きましょう)
「翔ちゃん、何でそんなニヤニヤしてんの?キモイよ!」
わざわざ覗き込んだ雅紀をべちんと殴ったのは言うまでもない。