チュン、チュン……
爽やかな朝の静寂を引き裂いたのは、
雅紀が勢いをつけて俺の腹の上に飛び乗ったからでも
和が耳元で「オキロ!」と拡声器を使って叫んだからでも(何故持っていた)
潤が泣きべそ垂れながらおもらししたことを報告してきたからでもない。
(残念ながら全てココ最近の俺の朝の一幕だ。)
今日、土曜日のオメザはこれ。
「だから、E Dじゃないって!」
「え~?絶対E Dだよぉ!」
ドキーーーーン!!!!
微睡みが吹っ飛び、目がしゃきーん!と開いた。
な、な、な、何をおっしゃってる?
もしもし、和さん潤さん??
慌てて見渡すも俺の部屋には誰もいない。
扉の向こうの声の主は、恐らくキッチンだ。
「E Dだよね、まーくん?」
潤が雅紀に尋ねているのは誰のお話かなっ?!
「ん~俺もわかんない!さとちゃんに聞こうよ!ね~さとちゃん~E Dなのかどうかしってる?」
きききききききき聞くな!!!
いや大野さんは知らないはずだけど!!
「何の話~?」
トントン心地良いまな板を叩くリズムの途中で、大野さんの間延びした声が聞こえる。
「あのねぇ、」
「おっっっ、オハヨウ!!!!!」
声裏返りながら、ガターン!と寝室のドアを開ける。
皆驚いて俺を見る。
お前らがもし知ってるんなら、被害を増やしたくない!
大野さんにバラさないでくれ!!
「あ、おはようございます。今朝は元気ですね!」
「あ、いや…ははは…」
し、しまった…
キスしたのすっかり忘れてた…
あの後ヌ いたから一方的な罪悪感が…
き…気まずい……。
「おはよ!そーだ、翔ちゃんにきこう!」
雅紀が笑顔でぽんと手を叩く。
「え゛ッ」
てとてと潤が近寄る。
「ねー翔くん…E Dだよね?」
じゅーーーーんーーーーー!!!!!
そんな純粋な目で!!!
お前は!!!!
何を聞いちゃってくれてるんだよっ!!!!!
E Dだ、その通りだよっ!!!
しかし大人には!!
簡単に肯定出来ない真実もあるんだよーーーーー!!!!!!
喉カラカラになって何も言えずにいると、和が呆れた顔で口を開く。
「翔ちゃん、きいてよ。こいつらすげーバカなの。…DEでしょ?」
「……へ?」
でぃー…いー…?
な……何の話????
「えー、びー、しー、でぃー、いー…でしょ?なのに潤が」
「えー、びー、しー、いー、でぃー、えふ、じー!」
「…ってうたうのよ。」
和がやれやれと首をすくめる。
…………ABCの歌?
の、順番の話???
へなへなと力が抜ける。
で、ですよねーーーーー?
バレるはずないですよねーーーーーー。
あーーーーーービビったーーーーーーー。
「? どしたの?」
「な、何でもねぇ…ABCDEFGだよ…。和の言う通りです…。」
「ほらー!」
「えー?へんだよーボクそれでおぼえたもん。。」
口を尖らせる潤に、よしよしと雅紀が頭を撫でる。
「にてるから、しかたないよ!俺もわかんなかったし!」
いや、つかお前小2だろ。
お前は何でわかんねーんだよ。
習ってねーのかよ。
「んふふ、正解わかってよかったね?ほら皆、朝ご飯だよー!」
「「「はあい!」」」
大野さんの鶴の一声で子どもらの意識は一気にテーブルへ。
んー、今日も美味そう!
まだ眠いけど…ぐ~っと腹が鳴る。
「櫻井さんも早く顔洗ってきてください!皆でいただきますしましょ~!」
「ありがとうございます。」
本音を言えばもう少し寝たかったけど、この美味そうな食事を前に二度寝は無理ゲーだ。
にしても…ABCの順番とは。
バレなかったことへの安堵で溜息を1つして、洗面所へ向かった。
朝食後は家に取りに戻ると言い張る大野さんを何とか説得し、買い物へ。
ウチで暮らすにあたって最低限必要な物を買い揃えた。
姉貴が戻ればすぐに無用な物となる。
しかし来客用に使えるし、完全な無駄ではない。
…それに姉貴がすぐに戻れるとは思えない。
あの人、ポジティブなのに運だけは異様に悪いから。
「こんなにいいんですか?おいらあんま貯金なくて…」
結局丸一日かかってしまった。
車から降ろした大量の買い物袋を床に置き、一息つく。
「必要経費ですよ。ていうか心配なんで頼むから家には行かないでください。ほんと。」
大野さんは、はあい、と苦笑して頷く。
わかってんのか、この人?
自分の置かれてる状況!
「さとし、つかれたー!だっこ!」
潤がぎゅっと足に抱き着く。
「んふふ、潤くんは甘えたさんだなぁ。」
「こら潤、大野さんは疲れて…」
「大丈夫ですよ。」
ひょいと抱え上げる姿に驚いた。
筋肉なさそうなのに…。
潤は嬉しそうに満面の笑みでぎゅ~っと首に抱き着いている。
…そこ、去年まで俺のポジションだったのになぁ…。
「俺もぎゅーする~っさとちゃん~っ」
今度は雅紀が大野さんの足に抱き着く。
「わっ、危ない!んふふ、順番ね?」
優しく頭を撫でられて破顔している雅紀はついこの間まで鬱陶しいくらい俺の後ろついて回ってたのに、いつの間にこんな懐いたんだ?!
「ねー智、しゃがんで?」
「ん?どうしたの和く…ンっ!」
ええええええええええ
しゃがんだ大野さんに、チュー!と口にキスをしたーーーーー!
「ずるい!俺も!」
「ボクもするーーー!」
「まっ…!んんん~っ!!!」
大野さんが押し倒されて3人がちゅっちゅちゅっちゅ顔中にキスの雨を降らせる。
「やっ…待、ぁ…っ」
「くふふ、さとちゃんすき~っ」
「んんっ…」
その光景は……
なんというか………
子どもがじゃれてるようには到底見えなくて………。
ザワザワッ。
モヤモヤッ。
…ん?
何だこの感情?
じゃなくて!
「ばっ…やめろ!!すみません大野さん!!!」
慌てて止めに入った時には、大野さんの顔は既にヨダレでべたべただった。