「…俺今、難しい恋しててさ。ずっと片想いしてる。」
松本さんが悲しそうに笑って、チーズをピックで刺した。
こんなカッコイイし、優しいし、気が利くのに。
仕事も出来るし、社長でお金持ちだし、いつもいい匂いしてるのに。
絶対的な『主人公』なのに…。
ずっと片想いだなんて信じられない。
「…こんなこと言うのはアレですけど。見る目ないですね、お相手の方。」
「え?」
「松本さんの良さに気付かないなんて。目開いてるんですか?少しでも喋ったら誰だって松本さんに魅了されると思ってたんですけど。その娘、ボケっと毎日過ごしてるんじゃないですか?」
意図せずきつい口調になってしまった。
でも、何かムカついて。
うちの社長に何て顔させてくれてんだっていうか。
よくわからない感情だけど。
「…って、すみません!好きな人のことこんな風に言われたら嫌ですよね!」
慌てて頭を下げると、きょとんとしていた松本さんが、肩を震わせながらぶくくく…と噴き出す。
「? 何ですか?」
「いや…ふははは…!…うん、そうだな。ありがとな。(笑)」
「…?」
「風間は…優しいな。」
松本さんは、今度は目尻に皺を寄せて優しく微笑んで酒を口にした。
また心臓がドキドキしてしまったのは、きっとBARの雰囲気のせい。
そう…信じたい…。
だって、有り得ないじゃん。
男同士が、じゃなくてさ。
そんなの、親友達の真剣な恋を見てれば何とも思わない。
だけど、松本さんと俺って。
ないじゃん、キラキラした人と地味代表みたいなのがどうこうとか。
だから、変な気持ちを抱きたくないんだ。
それなのに
「…ニノに感謝、かな。」
「…え?」
「今日…クリスマスに風間とこうして飲めたから。…また誘ってもいいかな…?」
松本さんは……ズルい。
そんな真剣な顔…いくら高嶺の花でも、期待してしまってドキドキするに決まってる。
俺は少し間を開け、こくりと頷いた。
*
「で?」
「へっ?」
「ニヤけてるとこ悪いけど。それ、買うの?」
ニノに指さされたのは、紫色のリボンのかかったお高めの小さいチョコ。
松本さんの雰囲気って、大人でムーディで…こういう色が似合うなって、何となく手に取っていたモノ。
「ああ、そうだな…ていうかニヤけてないから。元々こういう顔だから。」
「そーいやさ、高校の時も『風間!ニヤけてないで真剣にテスト受けろ!』って言われてたよね(笑)」
「いやもうあれさぁ。毎日居なかったニノは知らないかもしれないけど、マジで暫くいじられたからね。保健体育のテストの時に言われるとただただヤバい奴じゃん!」
「んふふふ(笑)ただただヤバい奴なんだよお前は(笑)」
「誤解だ!!」
2人でギャーギャー騒ぎながら、レジへ向かう。
ニノが手にしているのは、ガチガチ本命ですって感じの高級チョコと、珍しく線香花火のパッケージのチョコ。
…両方相葉ちゃんにあげるんだろう。
見たことも無い愛おしそうな優しい目で想いを馳せている。
気付いてんのかね。
ダダ漏れなんだよ、愛が。(笑)
俺は…つい勢いで買ってしまった小さい箱のチョコ。
松本さん、男の俺からなんて気持ち悪がらないかな?
不安げな俺の気持ちを察したのか、ニノが笑う。
「大丈夫よ。『待つ潤』だから。」
「は?」
「何でもねー。」
ニノがぴょんと縁石を飛び越える。
こんな風に、ひとつずつ壁を越えていった相葉ちゃんや、ニノや、大ちゃん、そして会ったことの無い『翔くん』。
俺も…越えていけるだろうか。
好きだ、とか、まだそんな大袈裟なもんじゃないけど。
少しでも、あの人の近くに行けるなら──。
ガサリと右手に持ったビニール袋を揺らし、両足を踏み込んだ。
END
このペアはのんびりです。
まぁ、がっつり恋愛されても書けない(笑)
甘々な話じゃなくてごめんなさい!
ハッピーバレンタイン♡