クリスマスやイブなんて日は
ピカピカネオンが眩しく、鬱陶しい音楽が流れ続ける街に
カップルや友人グループが楽しそうに外出し
家族は幸せそうにサンタの載ったホールのケーキを買って帰る
否応なしに孤独感と虚無感を駆り立てられる
ただ寒いだけの、大嫌いな日だった
「ちょ、まっ…!」
玄関で雪崩込むように口付けられる。
背中がコート越しにでもフローリングの固さと冷たさを感じるも、身体自体は妙に火照っている。
──玄関の照明って、こんな形の電球だったんだ。
引っ越してきて3年。
こんな時に、間の抜けた気付きが脳裏に浮かんだ。
*
相葉ちゃんは俺の仕事が終わる時間まで駅前のカフェで待っていてくれることになった。
2時間ほどあるし申し訳なかったけど、待つと言って聞かないのだから仕方ない。(べ、別に俺が待ってて欲しいとかそういうんじゃねぇもん。)
いつもより気が急いてなかなか着替えが上手く進まず、思わず舌打ちが出る。
なのに相葉ちゃんのことを思い出しては顔がすぐに緩んでしまうから……周りの目がドン引きしたそれで。
けど、んなのどうでもよくて。
「お疲れっした!」
誰とも顔を見合わせず、バタバタとロッカールームを後にする。
風間に一言文句を言いたかったけど、上がりの時間はそれぞれ違うし今日の担当の場所も詳しく分からない。
相葉ちゃんの元へと急ぎつつ、少し考えてスマホで風間とのLINE画面を開く。
会えたと伝えるべきだろうか。
心配しているのではないだろうか。
だけど…。
エレベーター前で足が止まる。
「………。」
なんて言えばいいのか、分からない。
ありがとう、だなんて癪だ。
ふざけんな、も何か違う。
会えたよ、も…淡白な気がする。
…次会った時でいいか。
だって、いつでも会える。
アイツは同僚なんだから。
……親友、なんだから。
文句も…礼も。
直接顔見て言いたい。
そのままスマホをカバンの中に突っ込んだ。
「あの…おまた、せ…」
改めて会うってこんなに緊張するもの?
カフェの椅子に座った相葉ちゃんは、店内が明るくて顔がよく見えて、何かすごくドキドキしてしまう。
当たり前なんだけど、大人っぽくなった。
中身は全然変わってないと感じたけど、輪郭がシュッとして目はふとした瞬間憂いを帯びて…。
なんつーか、その……
か、カッコイイ……。←認めるのが悔しいけどドキドキしてしまう
「くふふ、待ってないよ。9年会えなかったんだもん。こんな時間、一瞬だよ!」
そりゃ比べてしまえばそうだろうけど…
「…折角の誕生日なのに。」
そう言うと、きょとんとした顔が返ってくる。
「過去一幸せな誕生日だよ?」
キザな…というか、小っ恥ずかしいセリフをさらっと言うのは、昔から変わってない。
しかも多分、コイツの場合本音だから…余計タチが悪い。
「あ、あの、どうする?ケーキとか…頼む?」
慌ててメニュー表を開こうとすると、驚く程温かい手で俺の冷えた手が包まれる。
「…俺の事、好き?」
唐突過ぎるその質問に、カッと耳まで赤くなって。
否定したいけど…出来るわけが無い。
口にするのが照れくさく、こくりと小さく頷く。
「俺…ちゅーとかえっちとかしたい好きなんだけど」
「ば、馬鹿じゃないのお前!?」
ここ、カフェだぞ?!
「…やっぱ、違う?気持ち悪い…?」
相葉ちゃんが不安げに顔を伏せる。
こんな反応をされると、不安になる。
俺がしてたこと、知らないのかなって。
「……俺は穢いんだよ。…知ってっかわかんねぇけど…女にも、男にも……カラダ…売ってた俺が、気持ち悪いとか言うわけ…。」
ボソボソと言うと、相葉ちゃんが、違うよ、と強く首を振る。
「違う、違うの。俺が聞いたのは、俺の気持ちが気持ち悪いかってこと。過去なんて関係ない。俺の目に映る君は綺麗だから。」
また真剣な目で否定されて、嬉しさが込み上げる。
だけど…
──君の名は?
──……二宮…和也。
名乗った名前は、まだ呼んでもらえない。
「………気持ち悪いわけ、ないでしょうが………。そんなん、俺だって、相葉ちゃんのこと…その……お、同じ気持ちって言うか………。」
真っ赤になってそう呟くと、相葉ちゃんの顔がぱあっと華やいだ。
「良かった!じゃぁ…今から君の家、行っていい?」
*
職場から俺のマンションはかなり近い。
松本さんが手配してくれた部屋は、俺が住むには豪華過ぎる程だ。
だけど住宅手当として八割出してくれてるから、格安で住めている。
最初は全額出してくれてたけど、ダンサーとしての生活が軌道に乗ったように感じてからは自分で支払うと申し出た。
椿さんは「ダーメ。私が無理矢理引き込んだんだし、潤に甘えときゃいいのよ。」って言ってくれてたけど、せめて他の社員と同じにしてくれと説得してこの形になった。
まぁ、二割しか払わないとかすげぇ甘えてるんだけど。
相葉ちゃんがどういうつもりで来たのかなんてわからない。
好きっつったって、顔も知らなくて…
俺の顔なんて地味だし、実際会ってガッカリした部分もあったのかもしれないし。
それに会ったその日だ。
流石にどうこうなんてないだろう。
そう、思ってたけど。
「はっ…ぅ、ん…っ」
その考えを否定するのは、相葉ちゃんの目に灯る情 欲 の熱と、早急に肌を伝う手。
──もう、我慢出来ない。
そう、唇や手で、そして目で…伝えられているようで。
「ふ、ろ…っ」
何とか言葉を紡ぐも、相葉ちゃんはお構い無しに噛み付くようにキスをする。
「んんっ…!」
相葉ちゃんの手が 俺の胸 へと移動する。
こんな雪の日なのに、相葉ちゃんの手は異様に温かい。
…同じように、興奮してくれてるんだろうか。
だけど、
「ストーーーーーップ!」
俺は相葉ちゃんの目の前に掌を翳す。
「…えっ!?」
「い、色々準備とか…っ、あんだよ!こんな所で最後までは出来ない!!!」
ムード、ぶち壊し。
だけどさ、仕方ないよ。
俺、一応その道のプロだったから。
1日働いた仕事帰りのまま、洗浄もローションもなしに玄関で最後までは無理ゲーだと冷静に判断した。
いくら気持ちが盛り上がったって、明日は仕事だ。
ダンサーなんだし、流石にフローリングでは体も心配になる。(今日は特別園内徘徊だったけど明日は舞台だから。)
相葉ちゃんは捨て犬みたいにしょんぼりして、「はぁい」と呟いた。
くっそ可愛いな。
何だよその顔は。
本当に俺の1個上なの?
この年齢差を、未だに信じられないでいる。
「…す、すぐ風呂入るから…。」
なだめるように謎の言い訳をする俺は酷く立場が弱い感じがする。
そりゃ俺だって早く…触れたいよ?
当たり前じゃん。
でも、勢いだけでヤレ る程俺らは多分若くない。
わかった、ごめんね、と相葉ちゃんが呟く。
「…じゃぁ、お風呂一緒に入っていい?」
そうそう…って、
…………は?
というわけで。
そこまで広い訳では無いが男二人が向かいあわせで入れてしまう浴槽に、2人で浸かっている。
先に俺がシャワーを浴び、後ろを洗浄してから「入ってもいいよ」と声をかけた。
だって、ずっと風呂場の前に待機してんだもん。
まだー?とか定期的に聞いてくんだもん。
つーか…何でこんなに恥ずかしいんだろう。
裸なんて見られ慣れてるし、見慣れてるし。
そのはずなのに。
「あ、あんま見んなっ」
向かい合ってるから、小さくきゅっと体操座りをして色々隠す。
くそ、こんなことならもう少し身体鍛えときゃよかった。
貧相な自分の身体に今更ながら後悔する。
「見ちゃうよ。念願の好きな人と会えて…お風呂入ってるんだもん。夢みたい。」
相葉ちゃんがニコニコ笑う。
こっちのセリフだ。
だけど、見られるのも見るのも…は、はずい!!!!!
堪らず目を逸らし、話題を変えようと「誕生日プレゼント、何がいい?」と尋ねる。
我ながら下手すぎる話題の転換だと後悔するも、口にしてしまったからには仕方ない。
ぱしゃりという音と共にふと顔に影がかかる。
手を頬に添えられて導かれるように見上げると、相葉ちゃんが膝立ちして俺の顔の上にいて、それで…
「…君と…エッチ、したい…。」
ド直球な申告に、らしさを感じつつ、
俺はそっと目を閉じた。
ごめんなさい限定いきます…