-B-
不安がないわけない
自信なんて、全然ない
だけど
決めたんだ
おいらは、あなたに
気付いてなんてもらえなくても
想いを伝えたい
起きたら、カバンに大きくメモがあった。
開くと、8月の終わり、相葉ちゃんに告白されたことが書いてあって。
携帯のメモを見ても、なるほど、って。
おいらが読んでない間にこんなことになってただなんて。
かたりと置きっぱなしの写真たてをとる。
まさかこれをニノが見て、相葉ちゃんのことを好きだと思って告白をOKしてしまうなんて、思いもしなかった。
うん、確かに、入れたのはおいらだし、込めた想いもニノの予想通りだ。
だけど……。
そっとその写真を外す。
それをカバンの小さなポケットにしまい、携帯で相葉ちゃんの番号を表示した。
「相葉ちゃん。おいら…ごめんね。告白のこと、さっきまで知らなかった。」
相葉ちゃんをオソイヨに呼び出し、正直に謝る。
相葉ちゃんは少しびっくりしてから、笑う。
「…やっぱり、『今日のおーちゃん』とは違う人だよねぇ?」
「……うん。おいらじゃない。やっぱ気付いてたんだね。告白も、その子にだったんでしょ?ちゃんと…次に彼が来た時、説明してもらうから。彼の口から。」
おいらが言うべきじゃないって何となく思ったのは、もしかしたら、という気持ちがあったからだ。
ニノは相葉ちゃんのこと、好きなんじゃないかって。
何となくだけど。
ポケットから写真を出す。
「これ…俺?あ、課外活動の時のかぁ!」
相葉ちゃんの笑顔の写真。
廊下に張り出されたものから、番号を選んで注文するやつで、おいらはこっそりと相葉ちゃんの写真を注文していた。
それが、この写真の正体。
「…おいらね、ずっと相葉ちゃんが好きだった。」
相葉ちゃんが驚いておいらを見る。
「…恋愛として。大好きだったの。」
「うっそぉ?!全然気付かなかったよー!!なーんだー!両想いだったのかぁ!」
え?と聞くと、相葉ちゃんが、ふふっと笑う。
「…俺もっ!おーちゃんが、大好きだった。チューしてエッチしたいっていうやつね!」
「え、嘘でしょ?ほんと?」
相葉ちゃんはくふふと笑って頷く。
「でも…『だった』、でしょう?お互い。」
「…そうだね。うん。」
「今でも好きでいてくれてるなら、3人で付き合っちゃう?!とか言えたのになぁ~(笑)」
事情も何も知らないであろう相葉ちゃんが、自然にニノを1人として換算してくれるところに嬉しくなる。
そうだよ、ニノは…居る。
間違いなく、存在してるんだ。
「…相葉ちゃんは…おいらの中にいた彼が好き、って思ってくれたんだよね?何でわかったの?違うって。」
おいらみたいに二重人格だとか言ったわけではなさそうだし。
まぁ…中身はかなり違う気はしてるけど。
多分、ニノとは基本的に境遇とかは似てるんだけど、なんていうか…全然違う感じがする。
何となく。
「んー、仕組みはよくわかんないけど。不安な時おーちゃんよく首触るのに、その子は目を泳がせる癖があったり…おーちゃんはいつも恥ずかしそうに下を向いてるのに、その子は強がった顔して耳を真っ赤にしたり……
喋り方や性格だけじゃなく、全部が違うんだ。左利きのあの子がいつの間にか気になっちゃって。」
相葉ちゃんがくふくふと笑う。
ニノは左利き、だったんだ。
そっか、そんなところでも気付いてくれてたんだ…。
「よくそんなんで気付いたね?」
「俺が元々おーちゃんのこと好きだったから、よく見てたからね!」
何でもないように言ってくれる相葉ちゃんに、少しドキッとしちゃったことは…
誰にも内緒にしておこう。
「んふふ、ありがと。」
「ううん!…で、おーちゃんは好きな人が出来たんでしょ?」
「なんでもお見通しだなぁ(笑)うん。そうなんだ。大好きなの。告白しようと思ってる。」
「マジで!」
相葉ちゃんが目を丸くする。
「玉砕覚悟だけどね。」
「…うんっ!頑張って!やらない後悔より…」
「「やって後悔!」」
2人して、ふはって笑った。
「ここ…だ…。」
東京。
の、約束の広場。
相葉ちゃんと別れ、電車を乗り継ぎ、何とか辿り着いたそこは昼間だから街が明るい。
それに先日のようなホームレスは居ない。
こっそり安堵の息をつく。
早く着きすぎたから心配してたんだ。
広場の時計台は14時を指している。
あと3時間。
落ち着かない。
気付いてもらえるかな?
無理かな?
無理だよ、当たり前だ。
でも、無理だったとしても。
スケッチブックが、きっと…
おいらの想いを繋いでくれる。
おいらのことを気付かなくても
おいらのことを受け止められなくても
翔くんに、想いは伝えたい。
あの日
自画像を頼まれた日
筆を少し迷ってから、決めた。
翔くんを描こうって。
あの時は自分の気持ちに気付かなかったけど
翔くんを描きたいって、強く思ったんだ。
自分の想いを自覚して、最後に付け足した「だいすき」の文字には
ありったけの想いを込めた。
たかが4文字。
されど4文字。
それ以上でも以下でも、おいらの想いは伝えられない。
翔くんがおいらを見つけられなかったら
翔くんが考えて、気付いて、
暗証番号を開いて欲しいな。
そう思って、この番号にした。
おいらと翔くんが、
ここから始める日。
翔君の辛い過去が…
止まった時間が。
動き出す日。
そう。
今日の日付。
絵が完成した昨日、導かれるように暗証番号を変えたんだ。
よく考えたら過去の事故の日で、調整したわけでも何でもなく、たまたまだったけど。
0915。
9月15日──。
そんなことを考えていると、
通りの方から翔くんが歩いてくるのが見えた。
ドクンッ
心臓が高鳴る。
そちらに向かって歩き出す。
気付いて、気付いて、気付いて──。
だけど翔くんはずっと携帯を見てて。
前を見る気配はない。
一度通り過ぎてから、また広場に戻ろう。
そしたら、あるいは……。
ふわり、
翔くんの匂いを残し、おいら達はすれ違った。
やっぱり、翔くんだ。
間違いない。
振り返って、手を伸ばそうとした。
何を言うかなんて決めてなかったけど、
口を開こうとした。
その時。
ブルルンッ!!
とエンジン音がした。
そちらを見ると、翔くんに向かって車が急発進していた。
考えることなく、翔くんを安全な車道へと突き飛ばす。
翔くんは驚いておいらを見る。
目が合った。
一瞬。
思わず微笑んで、それで──
ドンッ
身体は宙を浮いた。
視界に広がるのは、雲ひとつない
突き抜けるような真っ青な空。
ああ、胴上げされた時よりも
ずっとずっと綺麗な空だ。
だって、ここにはすぐ傍に大好きな人がいる。
そんな悠長なことを思った直後
意識はブラックアウトした。