どこもかしこも汗や 欲 でドロドロに汚れた 俺ら。
それでもやっぱり、
「…ふふ…」
「どう、した…んです…?」
「いや…お前はやっぱり美しいから。」
そしたら智も「んふふ…」と笑い出す。
「僕も同じこと考えてました。」
「…は?」
「ショウくんが、あまりに綺麗で…悪魔様って、思ってたのと違うなあって。」
ふんわり笑う智に、胸が締め付けられる。
「智…もう、俺は降りてこない。」
ゆっくり立ち上がると、智が顔を歪ませる。
「ショウ…?」
「お別れだ。」
「ショウ!」
指をさらりと宙で回す。
魔力で智と俺の身体が綺麗になり、まとわりついていた ベタベタした 感覚が消える。
服も元通り。
「や、やだ!何で!どうして消すんですか!」
「元に戻しただけだよ。安心しろ、この記憶も消える。」
「やだよっ…!!ずるい!何でそんなこと…!一緒に来てくれって言ったじゃないですか!僕のこと好きだって、あれは嘘だったんですか?僕は、僕は……っ」
ボロボロと泣く智に、堪らなくなって頬を持って口付ける。
当てるだけで、すぐに離れる。
「智…お前のことが好きだよ。だから。だから…離れる。分かってくれ。」
「分かりませんっ!!何も…何も!!分からないよ…!!」
「これがお互いのためだよ。」
「違うッ!!!僕はもう、堕ちてる。神の教えに背いた。背徳者です。連れて行って、お願い……っ。」
「違うよ。お前はただの被害者。神に背いたわけじゃないし、この事実はちゃんと消えるから。」
「消えない!消えるわけない…!忘れません。僕、あなたのこと、絶対忘れません。ショウくんのこと…!絶対に!!!!」
無理だ。
魔力に勝てる人間はいない。
そう分かってるのに、智の勢いにふっと頬を緩める。
「ありがとう。」
「ショっ………!!!!!」
ふっ
と智が気を失い、倒れる。
可愛い智。
大好きな智。
もう一度優しく口付ける。
お前は忘れてくれ。
俺は、ずっと忘れないから。
つーっと、涙がまた流れる。
変なの。
まるで人間みたいだ、と、自分に苦笑して。
バサッと羽を羽ばたかせる。
少しずつ遠くなる智……。
どうか、お前の人生、
これから幸せに満ち溢れていますように……。
「…あ。」
そうか、やっとわかったよ。
心の満たされる感じ。
温かくて、涙の出る感じ。
「……幸せ、か。」
そう呟き、目を閉じた。
悪魔界までは、目を閉じて一瞬だ。
漆黒の、闇の、暗い世界。
居心地の良いはずのそこに戻るのが、
何だかとても苦しかった。