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全てのことに理由はある。
そう思うんだけど
当時の俺には、到底理解出来なかった。
神様ってやつは意地悪だ。
闇の中で生きてきた俺に
暖かくて優しい光なんて
居心地の良い空間なんてモノ
教えて欲しくなかったのに。
「…おい、二宮?起きろって。」
「ん~…」
「珍しいな。つうか初めてか?お前が2日も俺んちいるなんて。」
「……は?」
ぱち、と瞼を開けば櫻井さんの顔で。
ぼやけた視界が徐々に覚醒する。
「え…何で…?」
「何でって。俺が聞いてんだよ。」
櫻井さんの苦笑にだんだんと不安が募っていく。
「櫻井さんが出てってから、1日…経ってるってこと?」
「はぁ?そうだよ。お前大丈夫か?」
ガバッと起き上がり、櫻井さんのベッドのど真ん中に寝ていたのだと悟る。
「お、俺がここに?」
泊まらせてもらう時は、力尽きて寝てしまう以外で家主のベッドで寝るなんて失態はしない。
ましてや家主不在で1人で占領するように使う?
信じられない。
「ええっ?!?!寝間着まで…?!」
見るからに高級そうなぶかぶかのシルクの生地に包まれる自分に衝撃を受ける。
「うん、色々ビックリしたよ。まぁ別にいんだけど…そうだ、珍しく料理もしたんだな?」
「料理?!」
「作り置きが冷蔵庫に入ってたの、あれお前だろ?」
目眩がした。
何の話だ?
料理は出来ないことはないが、自分の家以外でやることはない。
全てのことが一切記憶にない。
いや…
夢を見た。
田舎町の高校生になりきる夢で、確か名前は…
何だっけ…?
「あ、それより…携帯!」
慌てて見回すと、充電器にささった携帯を見つける。
「お前の携帯、何故か俺の充電器の前に落ちててさ。確認したら電源切れてるみたいだし、俺の充電器じゃお前の古い型のは充電器出来ないのに何でかなって。だからお前のカバンから勝手に出して充電しといた。」
確かに俺の携帯は、櫻井さんの最新式とは違い数年前のものだ。
機種代のかからない、古いやつを使って格安プランで契約している。
だから櫻井さんの充電器では充電出来ないし、そもそも俺が櫻井さんの家の充電器を使うなんて有り得ない。
「ありがとうございます…」
とりあえず礼を言い恐る恐る携帯を見る。
「…げっ!!やっぱり!!」
松本さんからの不在着信の山。
最悪だ………。
時刻は7時半。
直近の着歴は…6時50分。
もしかしたら、起きてるかもしれない。
「ご、ごめん!ちょっと電話してきます!」
「おう。」
バタバタと部屋から出て、電話をするとすぐに繋がる。
『お前…「すみませんでした!!!」
言葉を遮るように謝罪する。
『…無事なんだな?』
「うん…ごめん。何ともないよ。」
『ならいーよ。今日休みなんだ。付き合ってくれるよね?』
「勿論です。何時に行けばいい?」
『今から来れるか?今日は徹夜したから、ねみぃんだよ。ヤッ てから寝たい。』
「分かった。必ず行く。ほんとごめんね。」
電話を切り、慌てて扉を開けて櫻井さんの所へ戻る。
マッハで着替えながら櫻井さんに声をかける。
「あのっ、ご迷惑おかけしました!今すぐ帰る!明日10時だよね?!」
「お、おう。あ、待ってこの絵…」
「失礼します!!!」
櫻井さんが何か持ちながら聞きかけてたけど、俺に時間はない。
申し訳ないけど急いで出た。
「で?どういうこと?」
「あっ…、の、昨日の記憶っ…一切…なくっ…て…っ、はぁっ…んっ!」
家に着いてすぐ。
慣らされる暇もなく早急に抱 かれる。
「記憶が無い?」
「そう…、なんか、おかしっ…くて…っあっ、ぁ…っ」
松本さんの上で揺れながら、正直に答える。
「くっ…1回、イ く…っ」
松本さんの手が俺の腰を掴み、下から 突き 上げる。
「あぁぁ…っ!」
ベッドシーツをなるべく汚さないよう、自分のものを左手で覆った。
松本さんは結局シャワー後問い詰めることなくすぐに寝てしまった。
約束をすっぽかし音信不通だったのに怒るわけではなく大丈夫かと聞いてくれる優しさを持つのに、何故この男は人を買うんだろうか。
事業の成功をおさめ、何不自由ない生活。
そんな男が、特定の恋人も作らず底辺の人間を買う…か。
それに寄生する俺が言うのもなんだけど。
ふと思いつき、携帯を出す。
すーすー眠る松本さんの横に腰掛けてメモを開き、左手の親指をスライドさせた。