【Side 大野】
侑李と別れ、自分の課に戻る。
そこには帰り支度をする中島と、櫻井さんの姿があった。
ゲーム作りは今日からで、早く帰るもんだと思ってたから驚く。
「あれ、まだいたの?」
「ちょっとミスがあったんで。」
「珍しいね。」
コーヒーを自席に置く。
ああ、それなら櫻井さんのも買ってきたらよかったかな、なんて思いながら。
「大野さん、出張帰りなんですから無理しないでくださいね?」
中島が俺を気遣って心配そうに言う。
「ありがと。お疲れ様。」
「お疲れ様です!」
皆は今忙しくないからガランとする島。
パーテーションで隣の一課と区切られているから、隣には数人残っているらしいことは気配でわかる。
櫻井さんがちょいちょいと俺を手招きする。
「何?」
近寄ると、グイッと腕を引っ張られる。
「わっ…」
体勢崩して、片手を櫻井さんのデスクについて何とか倒れ込まずに堪える。
「な、何…」
「また1人で残業しててヒート起こしたらどうするつもりですか。」
じっと至近距離で見られて、囁く声にドキッとして…
慌てて立ちあがる。
「終わったばっかだよ。それに松潤もたまに一緒に残ってくれることになってる。」
「今日は?いないんでしょう?」
何で知ってるんだろ?
驚きつつもこくりと頷く。
「じゃ俺が残ります。何があるかわからないでしょう。大丈夫ですよ、コーディングは持参したノートパソコンでやるし、サイボウズは帰宅に切り替えてあるんで残業とは見なされません。」
「でも…」
「松本がいない時位…俺に守らせて。お願い…頼って下さいよ…。」
一際小さな声で、悲痛な声で呟かれて…
疲れてるだろうに、そんなの申し訳ないって思うのに
頷くしか出来なくて……。
「…でも…ほんとに無理しないで。」
「ふふ。ありがとうございます!」
「俺のセリフだよ…。」
優しい笑顔に、俺はいつだって救われる。
櫻井さんに何をしたら恩返しになるんだろう。
俺に何が出来るんだろう。
いつだって皆にもらってばかりの俺に出来ること……
そんなの、ひとつだ。
「…よしっ!」
今は、早く計画を進めるしかない。
頑張ること。
努力すること。
それが終わってから、考えよう。
大好きな人達に
たくさんの感謝を。
両手で抱えきれない程の恩を、少しずつではあるけれど…返していこう。
今悩んでたって仕方ないことだ。
属性を公表する不安も
支えてもらっている罪悪感も…
ワイシャツの上から指輪をそっと掴む。
……うん、大丈夫。
俺には、櫻井さんが、いる。
その後夢中で色々して
結局キリよく終わった時には、22時を回っていた。
「ご、ごめん!集中し過ぎた!」
「え?あぁすみません、もうこんな時間ですか。俺も集中してました(笑)」
「本当…?ごめん…」
「本当ですよ。家でやるより捗るからありがたいです。」
櫻井さんが笑いながら操作し、ノートパソコンを閉じる。
気付けば俺らの島しか灯りがついていない。
皆帰ったようだ。
「…遅いけど…夕飯、行く?」
これくらい、いいかな…?
おずおずと聞いてみると、
「行くっ!!!!」
前のめりで櫻井さんが返事して。
思わず笑みが零れた。