【Side 大野】
結局、居酒屋の店員さんに松潤が連絡したところ仕事中らしく出なくて。
そりゃそうだよね。
居酒屋で働いてるなら、この時間(20時前後)は勤務中の可能性の方が高い。
後日改めて居酒屋へ足を運ぶか、会う段取りをとってくれることになった。
「でさ、ゲームのプログラミングは俺と翔ちゃんで進めるとして」
「えっ、俺も?」
「そりゃそーでしょ?他に誰が出来んのよ。俺がフローチャート書くからチェックして。一週間ちまちま取り組んでたからほぼ出来てんのよ。」
ニノが着々と計画を進めてくれる。
つい脱線しがちな話を纏めてくれる人がいるとすごく助かる。
俺と櫻井さん、話し合ってて何度脱線……てゆーか、その……
ベッドに…もつれこんだか……。
な、何考えてんだろ、俺!
ダメダメ!真剣な話してるのに!!
「いや俺…作ったことねぇよゲームなんて…。てゆーか言語は?俺Javaが一番慣れてんだけど。」
「C++かな。一番使いやすいからね。」
「うげぇ…俺++使ったことねぇ…くっそ難しいんだろ…#じゃダメなのかよ?」
「#より++のが汎用効くんだよ。シミュレーションゲームとは言えなめらかな動きのがいいし。同じオープン系だし大丈夫よ、教えてあげるから。Cとベースは一緒だしね。」
「ほんとかよぉ…つーか媒体は?ハード?アプリ?」
「アプリかな。気軽に誰でも出来るよう、無料にしたいんだよね。でも容量も少なめにしたいし、ハードでも一緒に出せるのが理想だけどその場合売り込みも進めないといけないのと画面の規格サイズと操作の問題が…」
ぷらぷら?しー?しゃーぷ???
二人の会話、さっぱり意味が分からない…。
この件は手伝えそうにないとまぁくんも思ったのか、テーブルに置いてあったニノのゲーム計画の書かれた紙をとりじっと見る。
それを覗き込むと、主人公の種類、そこから攻略?恋愛?する相手の種類が枝分かれになっていて、それぞれのストーリーが必要になっている。
例えばベータ♂とベータ♀のストーリーは大体一緒なんだけど、組み合わせ的に妊娠しない相手とのストーリーは途中のイベントで『両親からの反対』『未来への話し合い』などとある。
な、何かめちゃくちゃリアルだな…。
妊娠しない相手との恋愛。
まさに、松潤とニノの恋愛なわけで……。
…そういえば…
櫻井さんの親に、俺は……
許してもらえるのだろうか……。
「ねーねー、このキャラデザって何?」
二人の会話を縫ってまぁくんが尋ねハッとする。
皆こんなに真剣なのに、俺、集中出来てない…。
いい歳して浮かれてるのかなぁ。
こっそり両手で頬をパンと叩く。
「あー、それはゲームに出てくるキャラクターのデザインとか描いてくれる人探さないといけないからさ。デザイナーとか、誰か知り合いにいない?」
ニノが頬杖をついてほっぺの皮膚を完全に引っ張りあげた状態で口を開く。
あのほっぺたどういう仕組みなんだろ?
「えーと…つまりお絵描き出来ればいいの?」
まぁくんが首を傾げる。
「お絵描きって(笑)アンタいくつなのよ(笑)」
「うるさいなぁ(笑)」
櫻井さんが「ニノ…!」と睨んでる。
「いいって翔ちゃん!俺がいいって言ったんだもん!」
「「しょ、翔ちゃん?」」
思わず櫻井さんと被る。
「あれ?ダメだった?」
ダメだよ…!
「あ、いえ、ダメでは…突然で驚いて…」
そっか、別にダメじゃないか…。
ドキドキ鳴る心臓をこっそり押さえる。
「くふふ!で、イラスト描けたらいいの?」
「ええ。背景とかも頼みたいんで、絵の上手い人にお願いしたいんですけど。」
何で俺こんな動揺してんだろ…。
翔ちゃん、か…。
……俺も呼んだことないのに……。
「じゃぁ」
突然ぐいっと肩を抱かれ、視界が斜めになる。
「ここにいるじゃん!」
───はっ?
突然のことにゲホッと咳き込んだ。
「え、何、何の話?」
「だからお絵描きする人ー!智絵得意じゃん!」
「お、俺ぇ?いやそんなん描いたことないよ?あんなん趣味の範疇だし。」
「智の絵はすっごい上手いんだよ!」
あっ、と櫻井さんが短い声を上げる。
「俺も見させてもらいました。めちゃくちゃ上手かった!!!」
「さ、櫻井さ~ん…」
見せたよ、確かに見せたけどー!
俺の絵って、なんていうか…変な絵が多い。
綺麗な風景画とかじゃなくて、わざとふざけた感じの…。
背景?キャラクター??
そういうの描くの苦手なんだよなぁ…。
「試しにこの人を描いてみてよ。アンタの絵柄でいいから。」
道明寺司の写真を渡される。
仕方なくカバンから持ち歩いている鉛筆を取り出す。
いつでも描けるように、だ。
まさかこんな所で描くとは夢に思わなかったけど。
「デフォルメじゃダメなんだよね?」
「そーだね。模写寄りのイラストがいいかな。」
「…言っとくけど、普段はデフォルメで構図崩して描くタイプだからね…期待しないでね。」
「大丈夫よ、俺そーゆーのはっきり言うから。合わないと思えば他の人に頼むから安心して。」
ニノの言葉に安堵し、シャッシャッと鉛筆を走らせていく。
うーーー、見られてると余計緊張するんだけど…。
後ろを向いて何とか仕上げて渡すと、皆がしげしげと無言で眺める。
こ、この時間地獄なんですけど…。
ちらりとまぁくんを見ると、誇らしげにうんうんって頷いてて。
も~!他人事だからって!
「…覚悟しといてね。」
口火を切ったのは、ニノだ。
「へ?」
「描いてもらうカット、めっちゃあるから。」
にやりと笑うその顔に悪魔っぽさを感じて、ゾッとする。
「えーと…?つまり?」
「大野さん!天才ですか!!あなたにこんな特技あるなんて俺全く知りませんでしたよ!!!」
松潤が興奮気味に褒めてくれる。
「あ、ありがとう。」
松潤て…いちいち大袈裟なんだよなぁ…。
「言っときますけど、大袈裟に褒めてませんからね。松本は。」
「えっ」
櫻井さんに思考を読まれ驚く。
「俺でもわかりますよ。あれは本心です。でも…自分のペースで描いて下さいね?倒れない程度に。」
既に心配してくれる櫻井さんに、思わず笑う。
「ありがとね。」
「これからはいつでも俺が側にいますから、無理なんてさせませんけどね。まぁ…違う意味では無理させますけど。」
ウィンクする櫻井さんの意図を汲み取り、かぁっと顔に血が上る。
「さ、櫻井さん!!」
「あはは、冗談ですよ。てゆーか何想像したんです?」
ニヤニヤ笑う櫻井さん。
「もう!!ほんと意地悪過ぎるよ!」
「大野さんが可愛過ぎるんですよ。」
「ん゛ん゛ッ!!!」
ニノに咳払いされてハッとする。
また二人の世界だったかも……。
「で…。あとは映像処理の上手い人がいたらゲームの計画は何とかなるかな。そっちのホテルのフロアの件は俺はあんま役に立てないから、こっちメインでやるよ。言っとくけど、翔ちゃんはこっちサイドだからね。」
ニノがトントンと資料を整理しながらニッと笑う。
「へーい…。仕事から帰ったらひたすらプログラミングに没頭しまーす…。」
「俺は大野さんと雅紀さんとホテルの方をやるよ。佐藤との橋渡し位なら出来るけど。」
「…潤は俺んち泊まり込みね。」
「は?何でだよ。」
「色々情報交換とか出来た方がいいだろ。はいけってーい。よろしくー。」
「はぁ~?…まぁ、そーか。わーったよ。」
松潤がぶつぶつ文句を言いながらも承諾する。
ニノが安堵の息をこっそりつくのを見て、まぁくんと櫻井さんでクスッと笑う。
ニノ、佐藤さんにヤキモチ妬きすぎだよ。(笑)
でも、少し、ほんのすこーーーし
羨ましかったりして…?
ちらりと隣を見上げると慈愛に満ち溢れたような櫻井さんとバチッと視線が合う。
慌てて下を向くと、櫻井さんがまたクスッと笑ったような気がした。