蠢くカオスの中で29 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。


大丈夫です。

一話飛ばしてないと思います。笑
心配な人は一応確認してください。笑

“ ”は英語です。








【Side 潤】


テントには夕焼けが差し込んでいる。


辺り一帯を染めるのは、オレンジと言うよりは赤だ。


日本と違い陽の光が強く、サングラスをしていないと目が痛い。


今日もよく働いた、と思い切り伸びをする。


「オツカレ、Jun.」


「Merci. Bon travail, Oilvier.(ありがと。オリヴィエもお疲れ。)」


「アリガトゴザマス!」


普段は英語で会話をするが、仕事終わり等の挨拶は相手の母国語で話すようにしている。


何となくそれが思いやりな気がして、チーム内では暗黙のルールになっている。


オリヴィエが相変わらずの王子様スマイルをして俺の隣に座る。


トレードマークのパティシエみたいな変な帽子は、今日も被っている。


何か有名なショコラティエだったらしい。


“いいことあった?”


“何で?”


“潤はいつもクールぶってるのに、今日はとても嬉しそうで…幼い子のようだから。”


オリヴィエはニヤリと笑う。


つーか、クールぶってるって何だよ。


“別に。ただ珍しい奴から手紙が来たんだよ。”


“え、初恋の人とか?”


“まさか(笑)……兄貴。”


ぺらんと飾り気ない便箋を見せる。


オリヴィエは日本語が読めないから、まじまじとその記号の羅列を眺めている。


“ジュンにお兄さんがいるとは知らなかったな。どんな人だい?”


“…んー…全く似てない、かな。顔とか。彼は…頑固で、鈍感で、不器用で……そしてとても心が強くて優しい人だよ。”


智を思い出して、つい顔が緩む。


ずっと会ってないな。


それに、鈍感と言ったけど…。


ちらりとオリヴィエの手の中の手紙を見て苦笑する。


いつの間にか、勘は良くなってやがる…。



“何だ、それじゃ”


オリヴィエがクスッと笑う。



“ジュンと似てないのは顔だけじゃないか。”





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潤へ


元気にしてますか?


そっちはどう?


俺らは元気にやってるよ。



そっちに行ってもうすぐ10年になるね。


そろそろ日本へ帰ってこない?


…というのは冗談で、やりたいことを見つけた潤を家族一同全力で応援しています。


ただ、たまには帰ってきて顔見せてね。



でも楽しそうで良かった。


この前送ってくれた写真、すごく活き活きした顔してたから。


皆ボランティアの人なの?


日本人て全然いないんだね。


一緒にくっついて映ってた金髪美人の女の子は恋人かな?って、かーちゃん達が騒いでたよ。


どうかなって曖昧な返事しといた(笑)



あ、そうそう。


潤の学校の、社会科のなんちゃら先生。


この前偶然会ったんだ。


国際ボランティアの手続き色々面倒見てくれたんだよね?


未だにJICAってどういう組織なのかよくわかんないけど。

(因みに、青年海外協力隊って名前は最近やっと覚えたよ!(笑)毎回弟は?って質問された時に答えに困ってたんだ。)


先生ね、潤のこと未だに気にかけてたみたい。


成績良くて勉強熱心で、よく昼休み資料室の鍵を借りに来る自慢の生徒だったって言ってた。


自分の資料が生徒の進路の役に立ったのならこんなに光栄なことはないって喜んでたよ。




さて。


近況を説明しようかな?


どーでもいいわって言われそうだけど、手紙だから無理矢理書いちゃうね。



まずは…一番気になってるであろう、まー君から。


まー君はなんと!


去年、ペットショップを開いたの。


ビックリしちゃった。


社宅で動物が飼えなかったから、反動なんだって。


まー君動物好きなの、知ってた?


俺知らなくてさ。


今は動物OKのマンションで、いっぱいの動物に囲まれて暮らしてるよ。


キバタンっていう喋る鳥がいてさ。


口癖が「マジ卍(マンジ)~」なんだって。


あ、今日本では卍って言葉が流行ってるんだよ。


よくわかんないけど、『意味は無い』らしい。


謎でしょ?



和はね。


無事医者になったんだよ。


何の医者かっていうとね、精神科医。


意外じゃない?


内科医とか外科医のイメージだったからさ。


でも…翔くんみたいに、環境とかで心が歪んじゃった人の力になりたいって思ったみたい。


しかも、ストレート合格したんだって。


流石だよね。


でもさ、褒めたら


「そりゃ当たり前でしょ、俺なんだから。むしろ二回三回とかやった時に驚いてほしいくらいなんだけど。」


って言われた。


和らしい。


それでもすごく患者さんに慕われてるよ。


これも和らしいよね。



そんで、翔くん。


翔くんはね、何と自分で会社を作ったの!


まさかだよね?


おかげで社長達はカンカン。


大学も経営学部だったからさ、てっきり継いでもらえると思ってたんだよね。


しかもライバルになっちゃうような、同じ業種。


そりゃ怒るよね。


でもね、翔くんはとーちゃんを引き抜きしてくれたんだ。


だから晴れて大野家は社宅からは出られたってわけ。(これは流石にかーちゃんから聞いてる?)


翔くんは、どれだけ会社が大きくなっても社宅は絶対作んないって言ってる。



でも、そんな必要も無かったんだけどね。



社宅はね、5年後に取り壊されることになったよ。


翔くんがそんな風になったことで、社長と奥さんが話し合って。


ちゃんと子どものことを見てなかったからだって話になったらしい。


今更だけど…櫻井家は、ちゃんと家族として向き合おうとしてるのかもしれない。



で、俺は。


まぁ相変わらずフリーターで画家生活してるよ。


ちょこちょこね、お仕事も貰えるようになった。


イラストだったり、油絵だったり…本当に色々だよ。


あの美大出身だとね、案外信頼されるんだよ。


絵なんて、曖昧なものだからさ。



とーちゃんとかーちゃんも相変わらず元気だよ。


ちょっととーちゃんがハゲてきて、かーちゃんが太ってきた。

(ところで遺伝て信じる?俺は信じないことにしたよ。)


新しく借りたマンションも、快適だってさ。


まぁ、かーちゃんが定期的に手紙書いたりしてるからその辺は知ってると思うけど。


社宅が取り壊されることや俺らのことは自分で書きなさいってかーちゃんが言ったから、仕方なく…喜んで書いてるってわけ(笑)


手紙、俺からでビビったっしょ?




とにかく、そろそろ帰って顔見せてよ。


来月の30日、まー君のペットショップ開店の1周年パーティするんだよ。


そう。潤の誕生日だよ。


まー君がその日にどうしても開店したかったんだって。


泣かせるでしょ?


…なんちゃって。


大丈夫、もうまー君は前を向いてるよ。


でも俺らは5人で一括りの仲間だからさ?


日本を出ちゃった潤を、自分の店の開店日で補ったみたい。


相変わらず優しいよね。


補えてるかはよくわかんないけど。


だから、サプライズで来てあげて欲しいな…なんて。


可能だったら、是非来てね。


詳しい地図と招待状は入れておきます。



そんなこんなで、そろそろ手が疲れてきたので終わります。

(絵だと疲れないのに文字だと疲れるんだよなぁ。)


身体、気をつけろよ。



P.S.

恋人は、潤の腰にそっと手を当ててるケーキ屋さんみたいな帽子のフランス人の男の方だと思ってるんだけど、その辺どうなの?



最近勘のいい兄より。



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ゴロゴトゴトン、ゴロゴトゴトン。


俺のキャリーケースの音に、ジェーンが自慢のブロンドヘアを結いながら顔を上げる。


“あら、帰るの?珍しいわね。ていうかジュンが帰省するの、初めてじゃない?”


日本を出た時に買ったキャリーケースはボロボロだ。


派遣される国が変わる度に新しい傷を空港でつけてくる、元紫色の相棒。


コロコロという滑らかな音はもう面影がなく、ゴロゴトゴトン、ゴロゴトゴトンと謎のビートを刻む仕様になってしまった。


“ああ。でもまたすぐ戻るよ。”


“そうしてあげてよ。オリヴィエが悲しがるわ。”


クスクス笑うジェーンに肩をすくめる。


“アイツはすぐに泣くから困るよ。たまにはジェーンが慰めてやって。”


“あら、いいの?本当に慰めちゃうわよ?そんなことしたら妬くのはあなたでしょ、ジュン?”


“妬くかよバーカ。それにオリヴィエは女には興味ないから、心配もしてねぇよ。”


“はいはい、ノロケはもうお腹一杯。”


ひらひらと手を振られ、話を遮られる。


ノロケてなんてねぇっつーの。


“あ、でも先に言っておくわね。明後日でしょう?誕生日おめでとう!”


“ドーモ。”



俺はポケットに突っ込んだエアーチケットを広げた。



「…10年、か。」