蠢くカオスの中で22 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!


【Side 翔】


伸ばしかけた手を強く握る。


パタンとしまる扉は、智の心みたいだと思った。


いつも俺には閉ざしている心。



──俺のこと、好きでもなんでもないでしょ。



和のセリフが蘇る。



──智のこと奪いたいなら本気で反省して本気で智に優しくなんな。



その言葉の意味がわからなかった。


それに俺は、優しくする方法がわからない。



優しさというワードは、すぐに智を浮かべてしまう。


智は優しい。


誰に対しても。


潤や雅紀、和、


そして…俺にすら。



でも、俺は智のような広い心はない。


さっきのキスだって


「………っ」


思い出せば、胸が潰れる程、苦しい。


智は真っ赤だった。


俺とのキスの時は、突き飛ばしたくせに。



そりゃそーか。


智は和が好きなんだから。


好きな奴とキスしたら、赤くなるのは普通の…





「…え?」





俺が


キスした時



真っ赤になったのは…



恥ずかしいと思ったのは………





「智が…好き……?」





──俺はね。智のことが好きだよ。


──翔ちゃんは…どうなの?




俺は




智が好き……なの、か…?






『翔くん』



いつだって思い出すのは、小さい頃の智だ。


あの頃は俺に笑顔を向けてくれていた。


俺を呼ぶ声も、今みたいに強ばることもなく。


温かかった。




智に笑って欲しくて色々したつもりだけど、ひたすら空回って


だって


俺はどうやって人を喜ばせるかわからないから。


いつだって周りは、俺に対して顔色を伺って腫れ物を触るような扱いだったから


だからこそ智とは本音で付き合いたくて


我慢したりしたくなくて


智以外には酷い態度をとって


そしたらどんどん智は離れていって


そんな智に対して、イライラが募って……



単純なことだったんだ。


俺はただ、昔みたいに

俺の隣で笑って欲しかっただけだったんだ。





智が好きだから…。




「……だっせぇ……」



自分の好意が上手く伝わらなくて


それで勝手に怒って


あんなことを繰り返して


縛り付けてたなんて。



「最低だな、俺は……。」



和の意図がやっと理解出来た。


俺が気付くのを、アイツは待ってたんだ。



「…んなもん、さっさと奪い取ってきゃいいんだよ…」


足の力が抜けて、しゃがみ込む。



「そんな優しさ、要らねっつの…」


思わず覆う目から、涙が滲む。



「余計なお世話なんだよ、ふざけんな…」


ボロ、と指の合間を落ちる水滴は床に小さな円を作る。




こんな気持ち。


気付きたくなんて、なかったのに。



なぁ和。


お前は俺に戦ってほしいみたいだったけど。


どの口が言えるんだ。



智に好きだ、なんて。



智の好きな奴はお前だよ。


だから俺は。




何もしない。




それが俺に出来る、唯一の償いじゃないか。




ふとテーブルの智のマグカップが目に入る。


俺は涙を乱暴に拭い、立ち上がってそれを手に取った。



「…今まで、ごめん。」



智に言えない謝罪を、マグカップに呟く。


深い海のマグカップ。


俺の気持ちや過去を全部飲み込んでくれたらいいのに…。



俺はそれを、ゴミ箱に落とした。


ゴトッと鈍い音がする。



智。


解放してやるよ。


だから…



頼むから、笑っててくれ。


その優しい顔で。



それが、俺の隣じゃなくてもいいから…。