【Side 二宮】
なんだよ。
なんだよ。
なんだよ!!!!!
ズンズン歩き、人混みをかけわけて出口に向かう。
何が『夢は別にある』だ?
そんなに踊れて、ダンスはどうでもいいってのかよ?
あんなに楽しそうに踊っておいて、プロには興味無いって?
ふざけんなっ!!
俺が必死こいてプロどころかインストラクターの資格を取ろうともがいてるの、バカにして笑ってたのかよ?
両親死んで金がなくてダンスの学校に通えないことを言い訳にしてた俺を、今までお前はどう思ってたんだよ?
憐れだって思った?
変わってやりたいとでも思ってたか?
………いや、違う。
智はそんな奴じゃない。
今だって、俺を見て今にも泣き出しそうな顔をしてたじゃないか。
きっと言い出せなかったんだ。
もっとやりたいことがあるのに俺よりも踊れてしまう智を、踊らせない状況に追いやってたのは俺自身じゃねぇか。
それをこんな風に怒ったりして…
踊ろって言ったのは自分なのに…
…だっせぇ…俺……。
「ニノ!」
受付を通り抜け、階段を登っている時に声をかけられる。
耳馴染みのない声に振り返ると、そこにはさっきのチャラいナンパ男。
「……なんすか。今機嫌最悪なんすけど。」
「本当?じゃ飲み直そうよ!他のとこで!」
脳天気な顔とバカみたいに明るい声に、ため息をつく。
1人になりたい気もしたけど、何も悪くない智のことを心の奥で責めてしまいそうで。
「…いいですよ。」
思いがけずOKしてしまった。
「本当?!やったぁ!!ちょっと待っててね!連れに一声かけてくる!」
慌てて駆けていく、相葉さん。
「…変な奴。」
クスッと笑った。
「………え?」
寝返りを打ったら見たことある顔のどアップだった。
その顔はすうすうと寝息を立てている。
とりあえずもう一度寝返りを打ち、背を向けてみる。
「………。」
落ち着け、俺。
シーツの感触で、ふと自分が裸だということに気付く。
何?何が起こった?これ何?
周りを見渡すが全く知らない部屋だ。
愕然としてシーツを捲って中を覗いてみた。
「…………嘘だろ。」
腹の辺りに少し残る、独特なベタつき。
一仕事終えました、みたいな俺の息子。
もう一度そっと反対を向いてみる。
するとバッチリその男と目が合った。
「おはよ。」
「っ!!!!」
思ったより掠れた低い声に心臓が跳ね上がった。
「酔いは残ってない?」
「………。」
「カズ?」
「あ、残ってないけど、あの、俺…」
「あれ、覚えてない?可愛かったのになぁ。」
クスクス笑われて、サーっと血の気が引く。
「あの…あ、相葉さん…?」
「雅紀、でしょ?」
甘い声で頬を撫でられ、目が逸らせない。
「俺…ヤ っちゃったの…?」
「あはは!せめて逆じゃない?」
恐ろしい一言に目を見開いて、慌ててケツを抑えた。
「バカ、あんな泥酔状態の奴に出来ないよ!でも…」
チラッとシーツを捲られる。
「ヌ いてって言うから…。」
苦笑して息子を指さされる。
「俺がっ?!??!」
「うん。ほんとは抱 いてって泣きついてきて、理性と闘うの大変だったんだから。俺。」
褒めてよね、と頭を撫でられた。
嘘だろ?俺が??
「そんなわけないでしょ!俺にそんな趣味ねぇ!!」
「ふふ、ニノは酔ってる時のが素直だね?」
何を!
何を言ったんだ俺はー!?!?!
「でも良かった。二日酔いなってないんだよね?」
優しく笑うその顔に、心がふわっと軽くなる。
「…ん。」
俺がそんなこと言うはずないけど、何もしてないのは本当だと思ったから。
後ろも…痛くないし。
てゆーか俺どっちも経験ないから、多分酔ってたとしても出来ねぇし。
「そっか、本当に良かった♪」
急に視界が影になり、あれ?と思うと隣にいたはずの相葉さんが俺の上で微笑んでいる。
「え?」
「これで心置き無く昨日のお願い聞いてあげられるね?」
「え?ちょ、まってまじでまって」
「一晩待ったよ…」
じりじり近づいてくる。
「あの、その、あいばさ、俺初めてで」
「雅紀、でしょ…?知ってるよ。」
その顔はひどく扇 情的で、声は身体の奥 に直接響くくらい低い。
「お、おおおおちついておねがい」
「俺、ちょー冷静♡」
ぎゃーーーーーーーー!!!!!!!
悲鳴は虚しく飲み込まれた。