君だけの音を聞かせて5 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です!ご注意ください。
















【Side 櫻井】




「どーする?引っ掛けに行く?待つ?」


「や、俺はもうあのコ一択!決めたから!でも見失っちゃった…」


雅紀がこんなにも頑なになるなんて珍しい。


普段なら「あのコかこのコ!」みたいに予備まで準備するタイプなのに。


よっぽどいい…オトコ…だったのか?


「…マジで行くの?」


「当たり前じゃん!赤い実はじけちゃったもん!」


「はぁ??」


全く以て意味がわからないが、つっこむのも面倒でとりあえず流す。


「どんな奴?ホールにはいない?」


手すりから身を乗り出し、ホールを覗き込む。


「踊るようなタイプじゃ…あれ?!いる!!」


「え、どれ?」


「一番地味で意地悪そうでちっちゃくて変顔して変なダンスしてる奴!」


そう言いながら階段を駆け下りていった。


「…どんな趣味だよ…」


呆れつつも探すと、案外そいつはすぐに見つかった。


ここからは遠目だが…顔は見える。


向かい合わせで、別の男らしき背中の奴と、雅紀の言う通り変な動きをしている。


確かに顔は悪くないけど、何にそんなに惹き付けられたのかサッパリわからない。


どう見ても雅紀のがイケメてんだろ?


悪いが俺はドがつくストレートで、自他共に認める女好きだ。


男とか理解できないね。


柔らかいからこそ触る価値があんだろ?


ハマればヤミツキとは聞いたことがあるけれど。


まさかあの雅紀がね…。




カウンターに行きモヒートを持って自席に戻ると、曲調がガラリと変わった。


再度身を乗り出して見てみると、雅紀の獲物がDJブースに向かって投げキッスしてるところで。


雅紀は声をかけ損なったらしく少し後ろで呆然としてる。


その顔にククッと笑っていると、ふと少し離れた先の異質過ぎる空気に気付く。


それはまさに『異質』だった。


流れている音楽に合わせて踊ると言うよりは、踊りに合わせて音楽がその場で作られているような、そんなダンス。


その男が周りの音を引っ張って飲み込んで形にして吐き出している、みたいな。


当然曲は松本がかけて今まさに作っているものだし、その動きは即興っぽくも見える。


普通の上手いダンサーはよくいるけど、そういうのとは違う。


どの型にもハマってない、でもどのエッセンスも混じってるような、不思議なダンスだった。


そいつの周りだけ色が溢れていて、ジャンプすれば弾け、ターンすれば螺旋を描く。


表情はここからは見えないが夢中で踊っているのがわかる。


しなやかな腕の動き。


滞空時間の異様な長さ。


機敏なターン。


突如入るロボットダンスのような緩急。


「…………。」


俺はとにかく見とれた。


小さい頃ダンス教室に通ったことがあるから、少しならわかる。


アイツは天才だ。


天才というのは踊り始めると周りのすべてを奪う。


視線、動き、息、思考、そして…将来。


ほら、今も。


アイツが見える範囲の奴らは、皆動きを止めて注目している。


その中の数人が違う所を見ていることに気付く。


ああ、天才はもう一人いたか。


DJブースからあの男のダンスを見てリズムを合わせ、時に先導し、細かい調整をしながらサウンドを作り上げている松本。


この2人がどんな関係なのかはわからない。


でも今通じあってることだけは確かなわけで。


何だかそれが羨ましいと感じた。


それが俗に言う『嫉妬』という感情の種になろうとは、この時の俺は思いもしなかったんだ。